31 清楚でおしとやかな異世界クッキング! ついでに害虫駆除しておきました
「みなさんこんにちわ。異世界クッキングのお時間です。本日はアルラウネさんのお宅で──」
異世界に足を踏み入れてからのエルフ探索も、気付けば数日が経過していた。
最初のうちは手探りだったが、今では拠点も4ヶ所と増えていた。
記念すべき第一拠点は、現在俺たちの通う魔断学園が使用させてもらっている。
他の拠点は、それぞれ別の高校に割り当てられた。
今のところ元凶であるエルフ自体の姿はまだ未発見だ。
成果が全くないわけではない。道中でいくつか発見されたエルフ製の怪しいアイテムについては、すでにその場で焼却処分済みだ。検証の結果、ただの燃えるごみとして処分するだけでなんの問題もないことは判明している。
同様に、連中が地球を菜園化するためにばら撒いていたエルフ製のアロマアクセサリーも、焼却処分されつつある。
あのアイテムは数が一箇所に集まると、次元の裂け目が発生する可能性が否定できないそうだ。そのため、現在の日本では各自治体がスケジュールを組み、順番にアロマアクセを分別ごみとして出すよう徹底されていた。
エルフが能動的に次元を開くのか、それとも数が集まることで受動的に開いてしまうのかが不明なため、安全処置というヤツだな。
そして今日も今日とてエルフの探索チームが組織される。
各拠点からそれぞれ自衛官2人+学生1人で構成された分隊が、計8チームずつ探索に出発していく。
心強いことに、陣内さんの分析によってエルフの固有波形を探知できるようになったアルラウネが、各チームに1人ずつ同行することになっていた。
ちなみに今回の遠征に中学生が参戦しているのは、さすがに滅魔女学院の中等部のみである。
令嬢たちの情熱と、それを支える圧倒的な政治力の勝利というヤツだな。
お嬢さまたちもアグレッシブで良き!
今日の我がクラスからの探索担当は、鳴神さんと、風波さんだ。
エネミーはエルフだけではないからな。俺たち男子生徒は基本、地球側での対処やバックアップを任されているぞ。
だが、今日の俺は当番ではない。つまり完全な自由時間。
清楚な銀髪美少女モードへと変身して、食事係として異世界チームにちゃっかり参戦している!
「──滅魔女学院のお嬢様たちとカレー作りに挑戦していきます。よろしくお願いいたします」
俺はカメラを自分に向けて清楚スマイルでリスナーへと語りかけた。
正面には安全チェックが完了し、保証されたアルラウネたちによる異世界の食材が並んでいるぞ。
「「「お願いいたします」」」
エプロン姿の滅魔のお嬢様たちが、一斉に上品に頭を下げる。
その瞬間、俺の手元のスマホ画面に表示されたチャット欄が猛烈な勢いで加速した。
『カレーとお嬢は大正義』
『お・嬢!お・嬢!』
『銀髪さんは滅魔じゃないっぽいな・・・』
『真・お嬢さまに混じると偽物感がw』
画面の向こうで言いたい放題のリスナーたちに向け、俺はすかさず釘を刺す。
「おだまりなさい。ひがみは見苦しいですよ」
『なんだと!』
『おのれ銀髪!令嬢に混じれるからといって良い気になるな!!』
『汚っ・清楚っ!汚っ・清楚っ!』
『お冷ややかな笑顔もステキですわー銀ぱっつぁんw』
相変わらずの賑やかさに苦笑しつつ、俺は手元の食材へと向き直った。俺は調理を開始する。具材の前へと移動し赤身の肉の塊を手にとった。家でいつも料理をするときにやっている、秘伝の隠し味を加えるためだ。
「本日の私は秘伝ちゃん。むぅん、てやてや!」
テチテチテチテチテチテチテチテチテチテチッ!!!!!!!!!
『肉に発勁w』
『意味わかんないwwwww』
『ハジマタw』
『秘伝ちゃん?』
『むーんてやてやてw』
『誰にもできない発勁の扱いが軽いんやで?』
『銀髪発勁のタレ・・?』
「銀さま? なんかオカシクね? それぇ」
俺が発勁で氣功を打ち込んでいると、隣で野菜を切っていたカグヤがツッコミを入れてきた。
『ギャ、ギャウ?お嬢さまの中にギャウがいんの?』
『映せ!銀髪の使命だろうが!!』
カメラの向こうでカグヤの声を聞いたリスナーたちが暴れだす。しかし俺は無慈悲に食材のテチテチ肉だけをドアップで映し続けた。彼女たちはまだ中学生なのでね。
「私だけの特権ですからお見せできません。悪しからずご了承くださいまし」
冷徹にシャットアウトすると、周りの本物のお嬢様たちからもクスクスと声が上がった。
「銀さまは不思議なことをなさっています」
「いえいえ、御安心を。私の妹も氣功を使った柔らかお肉が大好きですので」
微笑みながらそう説明すると、カグヤが「えっ!?」という顔をしてフリーズした。どうやら今まで家で食べていた絶品肉料理が、俺の氣功による隠し味の成果だったとは気付いていなかったらしい。
「まあ、そうですのね。妹さまが羨ましいです」
上品に微笑み合う令嬢たち。
リスナーも気になるようで、チャット欄の流れは早い。
『味が気になるんだがw?』
『調理方法に発勁・・・』
『なに言ってんだコイツw』
『バカと天才が同居中』
『おぅいぇ・・れっつまっちょ』
「ふっふっふ、ただの煮込みだけでは決して出せない、極上の旨味というものをお見せいたし──む?」
耳元で「ぬわぁ~んぬわぁ~ん」と、ひどく耳障りな羽音を立てて小さな虫が飛び回っている。
「うるさいですね」
鬱陶しく思いながら、俺はそれを指でペシィと弾き飛ばした。
『野外だとさすがにな』
『でも少ないほうじゃね?』
『さすが俺たちのアルラウネたん』
『万能エネミーすぎる』
『ホワイト認定早かったけど納得の有能ちゃん』
だが、弾かれたその虫は妙に頑丈な外殻を持っているようで、体勢を立て直すと再び俺の方へと向かってきた。それだけではない。よく見ると、いつの間にか周囲の空間にもそこそこの数の羽虫が飛び交い始めている。
「ムム? 皆さんの気が乱れ始めています」
これはただカレーの美味しそうな匂いにウキウキして、集中力を欠いているというものではないような、そんな気の乱れ。
料理に異世界虫が混入するのも困るし、ここらでまとめて処理しておくとしよう。
発勁流しの心得っ。
それは最近気づいた『キュイィィィン、ふぉばぁっ』である!
「そい、やっ、ムゥーンッ」
ヴァオ、ゥゥム、モウォォォン!!
空間を渡る浄化の氣功!!
包め──優しき慈愛のオーラッ!!!
『また空間をゆがめるし・・』
『銀髪さんってそのうち1人で異世界に行きそうだよな』
『そいそいテヤふんふん!行って来まーすかw』
「ど、どしたん? 銀さま」
「いえ。少々皆様の気が乱れておいてでしたので整えました。ついでに鬱陶しい虫退治です」
「あ、確かに! なんか、頭が急にシャキッとした感じがするよ」
カグヤが自分の頭をトントンと叩きながら納得の声を漏らすと、周りのお嬢様たちもハッと我に返ったように顔を見合わせ、俺に向かって深々と頭を下げた。
「はい、どうやら私たちは異世界に当てられていたようでお恥ずかしい限りです。ありがとうございました銀さま」
「では探索チームの皆さんのために、最高の『美味しい』を届けましょう!」
「「「はい!」」」
こうして俺たちは、清楚におしとやかに、カレーを作った。
ちなみに、チャット欄はメッチャ悔しがってた。お嬢さまとカレーだしな。仕方のないことだ。
異世界カレーが完成したころ、タイミングよく探索チームが帰還してきた。
そして風波さんが、彼女の能力である潜行空間からズルリと引きずり出したのは、1人のエルフ。
完全に意識を失っているようだが、全身を拘束具で覆われ、顎を動かせないようにする固定具と、特殊な防音マスクまで厳重に付けられていた。エルフの魔法対策なのだろう。
「我らを操るときとは違う方法を取っていたようだが、さすがの悪魔戦士だ」
同行していたアルラウネと、風波さんが揃って俺のところに歩み寄って話しかけてきた。
「銀髪さん……もしかしてさっき、虫退治したの?」
『ソイヤソイヤでしてました!』
『コイツがやりました風波ちゃん!』
『悪魔戦士の仕業です!つばさちゃん!』
「はい。調理中の虫は排除しなくてはなりませんので」
俺が答えると、風波さんは納得するような、驚いているような、なんとも言えない複雑な表情を浮かべた。
なんでも彼女たちの話によると、魔力的なものを感知したアルラウネに案内されて向かった先で、このエルフが拠点方向になにかの魔法を使っているところだったのだそうだ。
急ぎ排除しようとしたとき、銀色がナントカカントカ文句を言いながら、そのまま泡を吹いて気絶したのだという。
「エルフの魔法は虫を使ったものだったみたい」
風波さんが手元から、小さな虫かごを取り出して見せてくれた。中には、俺がさっき弾き飛ばした羽虫より、一回りほど大きな虫が力なく転がっている。
「これはさっき退治した虫の……メス? ですかね」
「この魔虫を使って精神を操ろうとしたはずだ。それがヤツらの手口」
憎々しげに言うアルラウネ。
『こっわ』
『魔法怖えな!』
『いつの間にかやられてる可能性あんのかよ』
しかしまあ……。
「お嬢さまがたの気の乱れを治すときの、ついでの虫退治の、ついでに退治していたらしいので良しとしましょう!」
発勁流しの浄化氣功がついでに当たったらしい。
「あ、そうなんだ……銀髪さん……っぽいね?」
「フッ、悪事を働くものに相応しい結末です!」
「うむっ、我らも地球を学んでいるから言葉を贈ろう。くひくひくひ、ざまあ! 惨めよなっ」
「ダメだよアルちゃん……そんなの学んじゃ」
『なに学んどんねんw』
『やめとけwwww』
『アカンwそのうちHENTAIまで届いちゃうよぉ』
そのとき9時方向に紫電が走る。
鳴神さんか!?




