30 求められるなら応えるのがヒーローですね!4
「小柴くん」
俺がプリンを吟味していると、声が掛けられた。鳴神さんたちがこっちに向かってくる。
どうやら俺のほうが先に到着していたようだな。
周囲に誰もいないことを確認した鳴神さんから、質問が飛んできた。
「ちょっと気になったんだけど、変身になにか条件とかってあるの?」
続けて陣内さんも質問してくる。
「明日からの長丁場の異世界探索、姿を維持したままで本当に問題ない? 時間制限は?」
「ああ、それなら心配いらないぞ。変身時間に関しては──」
試したことはないけどな。
これまで半日以上変身したまま生活したことはない。
確かなことではないんだが……感覚的には1日程度なら全く問題なしだ。
「しかし……カグヤも絶対に来たがるだろうなあ」
俺がため息をつくと、鳴神さんと陣内さんも苦笑した。
「だよねえ。カグヤちゃん、異世界ファンタジーって聞いたら一番に飛びつきそうだもん」
「それは許されないこと。もったいない」
陣内さんは無表情でバッサリと言い放った。しかしその雰囲気は本当に残念そうなものだった。
まあ実戦は得るものが多いしな。
「カグヤはまだ中学生。異世界への突入許可が下りるわけがない。それに、本格的なエルフの排除に関しては、やはりプロヒーローや自衛隊の仕事。学生の私たちでは実戦での引き出しも、まだ足りない」
陣内さんの言葉は現実的で、かつ冷静だった。しかし、彼女の瞳の奥には強い意志が宿っている。
陣内さんにも、なにか譲れない想いがあるのだろうな。
「だけど、手伝いとしてプロや自衛官の後ろについて動くつもり。最前線での運用データは、私たちの貴重な経験になる。本来なら、1年生のうちは学校で能力の出力強度を鍛えて、2年生から本格的な実戦活動を開始するプログラム。
今回のように1年で異世界に同行できるだけで特例中の特例」
「さすがは陣内参謀だな! その熱い想い! 学びへの貪欲さ!! 分かるっ!!!」
「シーッ、シーーーッ」
「落ち着け、兄」
「す、すまん……つい」
俺たちはそんな話をしながら帰路についた。
もちろんとろけるプリンに加え、ミルクレープ重ねました!も完備。この無敵スイーツさえあれば、我が妹殿のご機嫌もアゲなはずだ。
ちなみに俺用のスイーツは生クリーム入りのどら焼き。
鳴神さんはシュークリーム。
陣内さんはまさかの岩盤せんべいというチョイスだった。
しかし俺たちが我が家のリビングに入った瞬間、その予想は裏切られることとなった。
「ただい──」
「あー! アニキおかえり! 遅かったじゃん! ねえねえ、聞いてよ! あっ、鳴神さんも陣内さんもいらっしゃいっ!! 聞いて聞いてー」
なにやらハイテンションでご機嫌な様子だった。
ソファーから勢いよく飛び出してきたカグヤが、スマホを片手に満面の笑みで俺に詰め寄ってきた。
「ウチらも明日から、アルラウネの異世界に行くことになったかんね!」
「は!? なにを言っているんだカグヤ。お前は中学生だろう。さっき陣内さんとも絶対に許可は下りないって話をしてきたばかりなんだぞ?」
「そう。ありえない。でも行けるならお得。私の計画も……ブツブツ……イケル…………」
「どうなったらそうなるの? カグヤちゃん……」
驚愕する俺たちに、カグヤはニヤニヤしながら事情を説明し始めた。
どうやら、今回の異世界突入における陣地構築に関して、合同訓練で知り合ったあの女学院の生徒たちが全面的に協力することになったらしい。
名目上は「中学生ヒーローへの後方支援および実戦環境での経験蓄積プログラム」とされているが、その実態は燃えたぎった情熱の結果だったようだ。
異世界行きを切望した、お嬢様たちの凄まじいおねだりと熱意の圧に──まずは彼女たちの親である有力者たちが全面降伏。さらにその親たちの強力な政治的・経済的説得の前に、さすがの女学院側も完全に首を縦に振らざるを得なかったのだという。
「つまり、アニキたちと合同訓練で会って話したことで、ヒーローとしての意識が爆発しちゃったウチらお嬢様たちの完全勝利ってわけ!」
カグヤは得意げに胸を張る。
「カグヤ、たき付けた?」
!!
犯人はこの中にいた!?
「陣内さん、さすがにウチでもそこまではしないってー」
犯人ではなかったようだ。
「むしろ陣内さんのアドバイスが刺さりまくった結果な気もするよ?」
「むむ」
「あ、確かにあれは良かったな」
「しかもカッコイイ鳴神さんを目の前で見ちゃったし!」
「分かる!」
「理解した」
「えーっ!? や、やめてよおっ!」
「しかもさー」
さらに、お嬢様たちの実家が動いたことで、かなりのバックアップ体制が敷かれることになったらしい。
「彼女たちの護衛として、直属で雇っている一線級のプロヒーローたちも何人か一緒に異世界へ参加することが決まったって聞いたよ」
費用はお嬢様たちの親御さんが全額負担するし、ヒーロー協会的には費用を使わずに強力なプロの戦力を異世界探索に回せる神展開。だから協会も許可を出したんだそうだ。
協会側もかなり渋ったらしいが、太いスポンサーの意見は無視できないということのようだ。
清廉潔白だけでは世界は回らない。
欲というのは人の原動力でもあるからな。
「さすがに拠点からは出られないけどね」
「それはそうだろう」
「でも良かった。カグヤの経験になる」
「ちょっと不謹慎かもしれないけど……楽しみになって来ちゃった」
「いや、分かるぞ」
敵は狡猾で別の世界を支配するような存在だが、信頼できる仲間との行動は心にも力をくれるからな。
高揚感は出てしまうさ!
しかしそれだけではなかった。先方からの支援物資として、最新の調理器具や大量の最高級肉、さらには地球側の最新医療品にいたるまで、大所帯の滞在に耐えうるすべての物資が明後日の昼までに異世界の陣地へ運び込まれる予定なんだそうだ。
カグヤの口から語られる圧倒的な財力と行動力の数々に、俺たちはただ呆然とするしかなかった。中学生の安全基準という高い壁を、まさか純粋な資本の力と親への圧だけで強引に突破してくるとは。
ヒーローの卵とはいえさすがだな!
魂は立派なヒーローである!!!!!!!
「自らの持つ恵まれた環境と力を、正しき目的のために惜しみなく投入する! さすがはノブレス・オブ・リージュの世界の方々ということだっっ!」
「いーや、ただの我儘なお嬢様の暴走な気もするけどな。でもまあ結果オーライっしょ! アニキ、鳴神さん、陣内さん、明日からよろしくね!」
「ああ!」
「うん!」
「これで私の野望にまた一歩……ブツブツ」
なお……俺の生クリーム入りどら焼きは、前祝という名目で献上することとなった。
だが元気ならば良しとしようではないかッ!




