29 求められるなら応えるのがヒーローですね!3
アルラウネの植物を操る能力のおかげで、この未知なる異世界で安全に寝泊まりする場所は確保できたと言えるな。
配信は継続中だから、画面の向こうのリスナーたちは異世界の植物建築に大興奮だ。
『もう俺たちはアルラウネたんの虜』
『FAがチラホラと』
『泊まってみてえ』
『有能すぎなんだが』
『花粉症の特効薬をください!!!!!!!!!!』
「作戦行動の第一段階はクリア。次は環境の調査」
陣内さんが今後の方針を呟きながらタブレットを淡々と叩く。
俺たちは、アルラウネが提供してくれた現地の果実や謎の湧き水など、飲食物の分析をするために地球へ持ち帰るべきものの選別を始めた。
異世界の成分が地球人の身体にどう影響するかは、研究機関に回して徹底的に調べなければならないからな。
まあ陣内さんの分析では、アルラウネが俺たちと信頼関係を築きたいのは本当だと確信できるものみたいだし、俺は心配してない。
ただなにが影響するか分からないから、念のためということだろう。
「こよみちゃん、これだけで足りるかな? 今のうちに必要になりそうな物品のリストアップもしておかないと」
鳴神さんが真剣な表情で提案する。
真紅の眼鏡が良く似合う委員長である!!
俺は必死で爆発しそうになる感情を抑えた。
「調理器具や長期滞在用の生活物資、あとはエネミーと本格的に交戦するための補給物資が必要」
「どのみち私たちは毎日帰還することにはなりそうですね。鳴神さんの弾薬の補給は問題ないでしょう!」
「そうだよね。私たち、まだ学生だしなあ」
『学生?』
『銀髪も学生?』
『ん?知り合いなのか?』
おっとぉ!?
見回る振りをしながら、画角の外に出た鳴神さんがゴメンのポーズ。
すぐ気付いてくれたのはさすがだな。
「銀髪も学生?」
俺の素性を探る振りで誤魔化してくれる陣内さんもさすがか!!
「それはヒミツでぇ~す」
俺は真実をもって誤魔化した。
「カメラのバッテリーを充電せねば!」
「「ああ……」」
『草』
『w』
『どこまでも銀髪である』
『銀髪さんの魂を構成している物質のひとつですな』
あとカグヤのご飯を作らねば。
兄として姉として、父として母となり俺が守るのだ。
俺たちが今後の相談をしていると、アルラウネが奇妙な装飾の施されたブローチを持って来た。
エルフ製のアイテムだそうだ。
「エルフの居場所を探す方法、目処が立った」
「本当!? こよみちゃん!」
「うん。あのアロマアクセサリーの成分データと、このエルフ製アイテムの構成物質を比較した。結果、共通する神秘的要素のエネルギー波形を検出。これを逆探知のシグナルに設定すれば、異世界のどこにエルフ関連のものがあるか探知可能になる」
これが魔法かも、という陣内さんの言葉に、俺たちは興奮を抑えられなかった。
「ま、魔法……かあ。ちょっと怖いけど見てみたいな!」
『火力はひなちゃんのほうが高そうなんだが?』
『魔法がどんなもんよ!』
『魔法・・・それはロマンの砲』
『つ、ついに?』
『ヒーローの力は魔法とちゃうんか?』
「さすがの陣内さんです! 彼女の分析で、早くもエネミーを追い詰める方法が確立してしまいました!! 戦況図解、名前に恥じない働きどころか、全てを見通す神秘の眼ッッッ! 私と敵は死ぬ……」
「死んじゃった……」
「銀髪、限界オタク……」
『死んでもたw』
『唐突な銀ぱっつぁん』
俺は咳払いをしてカメラの角度を調整した。
「失礼、まみまみた」
『異世界がブレるからヤメロ』
『コイツホンマ』
そのとき、背後の次元の扉から足音が響き、自衛官が数人姿を現した。迷彩服に身を包んだ彼女らは、慣れた手つきで周囲の警戒態勢を整えていく。
自衛官の風格に、鳴神さんもホッとしたように表情を緩める。
「お疲れさまですみなさん。これより本区域の防衛及び拠点の維持は、我々陸上自衛隊の異世界派遣部隊が引き継ぎます。私は部隊の長を務めております松永3等陸佐です。これ以上の危険な夜間調査は、大人の仕事ですからね」
きびきびとした動作で敬礼を送ってきた自衛官の松永さんが、軽く自己紹介をしてくれた。
「クッ! 自衛隊の活◎も撮%@△でさうっ!」
『なんてw』
『なんて?w』
『あふれてんのよwww』
「ふふふ、銀髪さんのことは存じておりますが、作戦行動をライブ配信してはダメですよ」
知っています……ぐぎぎ。
会話可能なエネミーを排除することだってあるから仕方ないのだ。
そんな俺を呆れた目で見ながら、鳴神さんがグイグイ押してきた。
「そうだよ銀髪さん。はい、ライブ配信は終了しようね? それではよろしくお願いします松永さん。私たちは一旦帰還します」
「フスー、仕方ありません……それではみなさん、ごきげんよう。チャンネル登録、グッドボタン! よろしくお願いしますねッ!」
『キレwww』
『キレんなよw』
『欲望まみれで草』
『オチツケw』
「クッソ!」
『清楚はクソとか言わない』
『汚清楚デビルの面目躍如ですね!』
俺たちは、明日また朝一番にこちらの世界へ来ると参加表明をして、本日のライブ配信を終了した。
カメラの電源を切り、次元の扉をくぐって地球側へと戻る。
「興奮し過ぎだよ?」
「うん。なんか色々情報が漏れそうな気配がした。ひなはナイス判断」
鳴神さんと陣内さんが、ボソボソ注意してくる。
ちょっとマズかったようだな。
「ありがとうございます」
そんな俺たちに、ちびアルラウネと自衛官が声をかけてきた。
「お疲れさまでした、異界の戦士たち。協力に感謝します」
「お疲れさまでした。配信以外で引継ぎする情報はありますか?」
「必要な物資のリスト化をした。それから──」
陣内さんがアレコレと説明しながら、検査用の飲食物を渡す。
「さすがだなあ、こよみちゃん」
「ですね。アルラウネともやり取りしながら作戦を立てて、メモまで書き残しているとは!」
「はーい、落ち着きましょうね、銀髪さん」
「……も、申し訳ありません」
俺はもしかしてバブちゃん扱いされているのではないだろうか?
「行こう。明日の作戦会議」
俺のほうを見ながら言う陣内さん。
「それはいいアイデアかも」
「私の正体は秘密ですので、ここでごきげんよーしますね」
どうやらこのまま俺んちに来る様子。
バチーン☆彡とウインクしたら分かってくれたようで、2人とも頷いた。
銀髪から直にカナタへ戻るのは危険だからな。
2人との繋がりも、どこでバレるか分からない。
一旦別行動、いくつかの姿を経由して、変身を解除してから鳴神さんに電話する。
「あ、もしもし? 俺はスーパーに寄って帰るから2人は先に行ってるか? カグヤはもう帰ってきてる時間だから問題ないぞ」
『そう……だね。あ、待って、うん、うん。えっとね、私たちも買い物していくからスーパーで待ち合わせしようって』
「了解だ。ではまたあとで」
さて……カグヤを落ち着かせるアイテムの購入が最優先だな。なにせ俺たちだけ異世界旅行したようなものだし、行きたがるのも止めなければならない。
とろけるプリンひとつでは足りない可能性が高いぞ!




