28 求められるなら応えるのがヒーローですね!2
「その種は、我らが仕込んだものではない」
蔦で俺の指輪を指しながら、アルラウネは静かに告げた。
「だが、その種には我らの成分が利用されている。だからこそ、その道標を辿って私は再びここへ来ることができたのだ。このやり方は、我らを作り出したエルフの常套手段。
お前たちの世界も菜園化するために、すでに奴らが動いている証拠だ」
アクセサリーのオイルを入れる部分……ここが大地に浸透し、次元を固定するマーキングのようなものらしい。
「な、菜園化って……地球をエルフの畑にするつもりなの!?」
鳴神さんが驚愕の声を上げる。
すかさず陣内さんが鋭い口調で分析結果を語る。
「状況から見て、エルフがアストラル・バイオニクス社を利用して仕組んだもの」
もしくは、エルフがアストラル・バイオニクス社と裏で手を組んでいるという最悪なシナリオも提示した。
アルラウネを間近で分析したことでデータの精度が跳ね上がり、アルラウネの言葉が真実かどうか、見分けが付くようになったようだ。
さすがは陣内さん。
「だからこそ、我らは人間と手を取り合えると信じている」
アルラウネは懇願するように己の手を胸に当てた。
「要求は理解。ただそちらの世界で私たちは、問題なく活動可能なのか知りたい」
「もちろんだとも、賢き蕾よ。空気の成分はほぼ同一と保証する。そうでなければ我々も危険。拾い食いをせねば問題はあるまい」
「そう」
これは、たぶんリスナー向けに質問したんだろうな。陣内さんも異世界には興味津々だったし、彼女も行くつもりになっているのかもしれない。
「奴らは我らを作り、支配し、最終的には意思のないただの植物に戻そうとしているのだ。我らの要請に応え、エルフを排除してくれるなら……報酬は可能な限り出すつもりだ」
意思を奪われ、ただの道具にされる恐怖か。
アルラウネたちはその恐怖から逃れるために、俺たちの世界へ侵攻してきたのだと語った。
「これが報酬の一部だ。奴らが仕掛ける『次元の標を探知する方法』をここに記す」
アルラウネはそう言うと、なんらかの力を使い、背後の壁に淡い光の紋様を刻み始めた。ダンジョン化したビルの壁に、まるで古代の壁画のような緻密な紋様が深く刻まれていく。
これが異世界の技術か。
なんとファンタジーでロマンあふれる光景だろうか!
「次元の扉たる魔法陣はこのまま残しておく。協力者は拒まないし、いつでもこちらの世界へ帰ってくれて構わない。願わくば──よき実りを共に……」
敵の策略を逆手に取るための鍵を、まさかエネミー自身から受け取ることになるとはな。だがこれは世界を揺るがす重大事案だ。
どうしたらいいか、学生ヒーローが混乱しても仕方ないだろう。
だが俺はっ!
「ご指名ですからね。行ってきます!」
『お前また・・・』
『少しは考えろってえ!』
すでに突入を決意しているっ!
「ぎ、銀髪さん!?」
「私も行く。制御するのが私の役目……エルフが悪事……アコガレ……ブツブツ……ユルセナイ」
「ええっ? こよみちゃんまで!?」
「栗谷、指揮を頼む。ここのエネミーはすべて処理が終わっている。いつものように事後処理を。ひなも予備弾込みで着いて来て」
なにやら圧を出している陣内さんが作戦を立てたようだ。彼女は俺に続いて異世界への渡航を決意している。
「もうっ! いいのかなあ……」
そして巻き込まれた鳴神さん。
しかし2人とも、少しうれしそうに見えるのは気のせいか?
『うおおおお!新展開か!』
『ヒーローが異世界に乗り込むぞ!』
『陣内さんのブツブツが怖すぎる件ww』
『がんばれヒーローたち!』
「分かった。気を付けて」
「レッド、参謀、委員長のパーティだ。バランスよさそうです」
倉持さんは独特の感性をしていらっしゃる……と思いきや、栗谷さんと向井さんも深く深く頷いていた。
レッドを任命されたからには熱血で行きますか!
「銀髪、配信はしたままで」
「了解です! 異世界チャンスですからね!!」
「そうじゃない……よ? 銀髪さん」
「分かってます。なにせ私は笑顔と平和を届ける者なり、ですので」
安心してくれ、鳴神さん。
俺たちはアルラウネに続いて魔法陣に突入。
次元の扉をくぐり、俺は鳴神さんと陣内さんと共に異世界の地に立つ
RPGならオープニングが流れそうだな!
「ここが……異世界なんだね」
立ち並ぶ巨木が生い茂る大森林。
不思議な色彩の雲。
鳴神さんがつぶやく。
陣内さんは頷いて返事をしている。
声が出ないのは感動しているからか?
興味のあるところをクンクン嗅ぎまわる子猫のような雰囲気になっている。
カメラを持つ左手は、自然とそんな2人を追っていた。
『かわよっ』
『ひなよみコンビは神』
『陣内さんっっ』
『こいつヒーローオタ極まってんなw』
『異世界を・・・映さぬ!!』
『草』
『w』
「おっと失礼。異世界よりヒーローを映していました」
「銀髪さん!?」
「銀髪……ポンコツ。今はそれどころじゃない」
「大変申し訳ございません」
さすがにか。
しまっていこう。
陣内さんはテキパキと準備を始めるつもりのようで、アルラウネにアレコレと質問している。
陣地の構築も必要だからな。
「──案内役に地球側へ送れる個体はいる?」
「いる。送るか? 完全な信用を得ていないと、我らは理解している」
「無害そうな子を送って。説明も可能な子。銀髪の配信だけでは情報不足」
「把握した」
するとどうだ!
アルラウネの側に、にょっきりと小さなアルラウネが生えてきてお辞儀をした。
まるでマスコットのようだ。
「おお、ご覧ください! チョコンと佇むその姿っ、まさに異世界のゆるキャラではありませんか!! コヤツ、できるッ」
「カ、カワイイ……」
「さすが高知能体」
『えええええ!?』
『カワイイ』
『カワイイのが来たあああ』
『俺たちの好みを学んだのか!?』
『一瞬で妹属性を追加しよった!』
バイバイしながら魔法陣に入ったときには、リスナーも大騒ぎになっていた。もうすでに人気キャラではないか。
やるな? アルラウネッ!
「作戦行動の第一段階。まず、ここに陣地の構築」
その間にも陣内さんが考えていたようで、これから俺たちがやるべきことを淡々と告げた。
「そうだね。大きな木に囲まれたこの場所、防壁の代わりにもなってそうだし、なんとかなりそう」
「後発組のヒーローたちもすぐに合流するはず。ある程度の大所帯に対応できる設備が必要。食料、資材等の見積もりを出す」
するとアルラウネが触手を振った。
「その必要はない、異界の戦士たちよ。我らの能力があれば、施設の構築など容易」
「そうなのですか?」
俺が聞き返すと同時に、アルラウネが小さく歌うような声を上げた。
地響きと共に、木が変形していく。ツタと木が組み合わさってグランピング施設のようになっていく。
大樹の枝には大きな実が作られ、そこから頑丈そうなツタが垂れ下がってきた。覗いてみれば、4畳半くらいの個室だった。
これが異世界のカプセルホテルか!
「とりあえずは15人程度の寝床を用意した」
「凄いですね!」
「お安い御用というヤツだ。果実や野菜も生み出せるゆえ、飲食もこちらで用意しよう。肉は無理だ……そして信頼はまだ築いていない」
「飲食物に関しては調べる必要はある。しかしこれは良い能力。有能」
俺たちは驚いて目を丸くする。
「こんな能力があるなら……侵略なんて手段じゃなく、協力体制が取れたと思うんだけどなあ」
鳴神さんのもっともな疑問に、俺も頷く。これだけの力があれば、共存の道はいくらでもあったはずだ。
しかし、アルラウネは悲しげにツタを揺らした。
「我らは傲慢なるエルフ共によって導かれてきた。ゆえに我らは傲慢な手段しか知らなかったのだ……」
意思を奪われ、ただの道具に戻されようとしているというアルラウネたち。その言葉に、俺の心はすでに決断を下していた。
手を取り合えるなら協力すればいいのだ!




