27 求められるなら応えるのがヒーローですね!1
「ごきげんよう、みなさん。本日は学生ヒーローたちの瑞々しい活躍を至近距離からお届けいたしますよ」
『キター!』
『遅刻界隈です、か』
『今日の推しはひなちゃん!イインチョがんばえー!』
『遅い遅い遅い』
『俺の推しは栗谷さま!たのむ銀髪!栗谷さまを追え!!』
『今日も今日とて汚清楚さま』
ライブ配信のチャット欄は開始早々から大盛り上がりだ。
俺はいつものように性別反転で銀髪美少女の清楚配信者姿となっている。
アクションカメラを操作しながら、ビル群の隙間で発生した次元の裂け目の側で配信を開始した。今回はオフィス街のビルの隙間だからな。耐電バリケードの設置に時間がかかってしまった。
設置班の撤退もギリギリだったからな。
遅刻は……仕方なしっ!
くそ!
「無念ッッッッ!!」
『なにが!?』
『どうしたw』
『急に壊れる界隈』
「もっと遅く出て来い、エネミーめ! ぶちのめしますわよ!!」
『激怒w』
『八つ当たりなんよ』
『どの道ぶちのめすじゃんかw』
俺は気を取り直し、シャカシャカ移動しながらカメラを現場に向ける。
このムーブに解決策はなかった。
狭い場所で建造物に囲まれた際は、やむを得ずこのスタイルとなるのだ!
『だから・・お前w』
『やめとけw』
『出たwキモキモムーブ』
「ヒーローたちの邪魔はできないのですっ!」
『い、いや?』
『みんなビックリしてるが』
『邪魔してるような?』
たとえ俺が公式映像に撮られようともな。
「今日はコメントにもありました、栗谷なつきさんを追いたいと思います。理由としては、ポジション的に私が鳴神さんの邪魔になりそうなこと、魔断学園1年エースの栗谷さんを間近で見たいことが理由ですね!!」
『欲望を隠さない』
『銀髪さんの垂涎はガチでヨダレたらすからなあ・・・』
『さすが銀髪さん。俺たちの上をイク』
『顔じゅうから涙を垂らすさまは!ま・さ・に・汚清楚さまああ!!』
『いいえ、それははなじるです』
「わっ!? ビックリした。銀髪さん、そのシャカシャカはやめたほうがいいよ!」
「狭いので致し方ありません。あ、趣味で配信をしているものですが、お邪魔してもよろしいですか?」
「なんか……いいけどさ? ホントに残念な感じの人なんだなあ」
彼女の能力は限界超過。
潜在能力を限界以上に開放する系の、漫画みたいな能力だったりする。
早い話、俺の完全な上位互換ってことだな。
耐えられんッ!
「もう最初っから限界突破です! カッコよすぎる!! ご覧ください栗谷さまの瞳をッ!!!!!!!
青白く輝く神秘の力! 退魔の光! 意志の力か! 覚悟の証か!!
今ここに実行する! その正義をーーーーッッッ!! ハァハァもう死にそうれす」
ドバァアアアン!
ボゴォォォッ!!
なんて素晴らしいパゥアッ!
「ふつくしき力の奔流」
『無視wwww』
『栗谷さまツヨイwwww』
『キニシナイッ』
『ガン無視してるw』
『このパターンは初めてすぎるw』
『ガン無視w』
『キニシナイッ』
『無視w』
「次の現場に向かうけど、銀髪さんはどうする?」
「もぢろん着いて行きますじょっズズッ」
『汚清楚もキニシナイッ』
『ある意味シナジーがあるのか?』
『聞かぬ界隈とキニシナイ界隈のコラボw』
『キニシナイッ』
『キニシナイッ』
『栗谷さまマジ栗谷さま』
『不動の精神こそがエースの証!』
「まさにそれですね! 1年生エースは伊達じゃあない!!」
栗谷さんは能力の発動を若干抑えて、駆け出した。
「はて? 気に乱れが。なにやらお疲れのご様子?」
『は?』
『余裕そうだけど?』
『なに言ってんの?』
「分かるんだ? 凄いんだなあ銀髪さんは」
話を聞くと、実は能力を使うのに細心の注意が必要らしい。
だから戦闘中はあまり余裕がないそうだ。
「ミスれば大惨事ということですか……」
「うん」
これは失態だ。
「栗谷さんのことを、ちゃんと調べて密着すべきでした。申し訳ありません」
「いや、あれくらいなら平気だから気にしないでいいよ。訓練で克服済みだもん。じゃなきゃ簡単に壊れちゃうって」
むしろチョット邪魔するくらいが練習になると言われた。
『さすがの栗谷さま』
『ぉっょぃ』
『強い!』
「ヒーローの皆さんは、いつも未来を見据えていらっしゃる!! 素晴らしいです!
だからこそ私は! 歴史に彼女たちの名を刻みたい!! 全部っっ!!!!!」
ちなみに1-Bエースの倉持さん、1-Cエースの鳴神さん、1-Dエースの向井さん。
今日の現場はエースだらけだったので、他の現場も終わっていた。
くぅぅぅっ、さすがのヒーローたちだな!
「配信できなかったのは残念ですが……それは素早く平和になったということですからね!」
『しかりしかり!』
『確かにな』
『俺たちはただの野次馬』
『ヒーローたちには感謝しかない!』
人気があるということは、スポンサーがつくということ。
お金がなければガジェットの開発もできないし、十全に活動することだってできない。
賛否はあるが、ヒーローは仙人じゃないからな。
霧を食って生きてはいないのだよ。
つまりリスナーとは、持ちつ持たれつの関係なのだ。
しかし、その平穏な空間が突然変わり始めた。世界が粘り付き、歪み、そして周囲のコンクリートに植物の蔓が急速に侵食していく。この圧倒的な速度、そして空間全体が変質していく独特の重圧──
「ダンジョン化!?」
鳴神さんが驚愕の声を上げる。
『また!?』
『最近オカシクね?』
『前にも見たぞ!』
『高円寺のときのだ』
通常の自然発生的な裂け目とは明らかに違う。そしてその中心から、以前高架下で戦った高知能個体エネミーが姿を現した。
あのときのアルラウネだ。
「久しいな……異界の悪魔戦士」
アルラウネの声と同時に、俺の鼻をくすぐるにおい。
爽やかで瑞々しく、清々しい。
健康にもよさそうな……マイナスイオンに満ちたようなにおい。
非常に覚えのある香りだった。
俺は陣内さんに問う。
「陣内さん!」
「気付いている。成分……92%で一致」
やってくれたな。
このアロマアクセサリーはエネミーの仕込みじゃないか!!
ホワイトエネミーと見せかけて、アストラル・バイオニクス社を利用していたということか?
そう思ったのだが、アルラウネの様子が以前と違っていた。
敵意がない。
それどころか、どこか切羽詰まったような気配を漂わせている。
「話をさせてくれ、悪魔戦士よ。我らは戦いに来たのではない。悪魔──銀髪の戦士に、救援要請を出したくて再びこの地に来訪したのだ」
「救援要請……ですか?」
俺のつぶやきに、アルラウネが答える。
「そうだ悪魔戦士よ。そなたの──話を聞かぬという精神が、その精神こそが我らの救いとなるのだ」
「「「!?」」」
『ワロタ』
『聞かぬ』
『銀髪の戦士って言い直したのに一瞬で悪魔戦士に戻ったw』
『聞かぬの精神』
『エネミーにも言われてるw』
『聞かぬ』
『聞かぬ』
『アルラウネたんはギャグの世界の住人なのかな?』
リスナーたちは笑っているが……そんなに簡単な話ではないぞ?
売り切れるくらい大人気なアクセサリーが、エネミー仕込みという一点だけで、この世界が崩壊に向かっているということなのだから。
ダンジョン化するだけならまだマシといったところ。身体に侵食するタイプの仕込みだったら、恐ろしいことになってしまう。
ヒーロー以外は全滅しかねないんだ。
だが……まだ間に合うとみた!
「ふっふっふ……なるほど。求められるなら応えるのがヒーローですね!」
俺は即座に行動することにした。




