32 私が目指すべきは日本の王?
異世界の森に、突如として激しい雷鳴が響き渡った。
どうやら鳴神さんのいるチームの方面でなにかあったっぽい。だが、あの鳴神さんの圧倒的な破壊力なら、エルフ程度を相手にピンチに陥ることは万に一つもないだろう。しかも今回は自衛官の人たちも一緒に行動している。
つまり、こんなチャンスは絶対に逃せないということだ。俺は誰にも気づかれないよう、こっそりと単独で現場へ向かうことを決意した。
タイミングが良いことに、今しがた別の探索チームが拠点へ帰還したばかり。彼女らは長時間の作戦行動により、パフォーマンスが低下しているはずだ。
俺は一緒に残っていた滅魔女学院の令嬢たちに向けて、お願いする。
「皆さん、戻られた方々はお疲れのはずです。まずは温かい特製カレーを食べて体力を回復してもらいましょう。申し訳ありませんが、食事の準備をお願いしてもよろしいですか?」
「はい、お任せください。銀さま」
令嬢たちが快く引き受けてくれたのを見届け、俺は自分が出発するための適当な言い訳を口にする。
「みなさん、少々用事がありまして。私はこれで失礼しますね」
すでに画面の向こうのリスナーたちは、俺の行動を完全に察知して大盛り上がりしている。
銀髪を追っている彼らゆえに予想はしやすいのだろう。
『だろうねw』
『やっぱり抜け出すw』
『知ってた』
『用事=ヒーロー配信』
「銀髪さん……ひとりで行動するの、危なくない?」
あ、コイツやる気だ。
そんな視線を感じる。
俺の行動は風波さんにも筒抜けの様子。
銀髪モードの俺とは、ほぼ関りがないというのにさすがヒーローだ。
鋭い!!
「森が見ている。いざという場合は来ないと思うが……我が株分けすればいい」
しかそんな風波さんを、俺に謎の信頼を見せるアルラウネさんが説得し始めた。
頑張れアルラウネさん。
自衛官が申し送りをやっている間に出発したいのさ!
「いいのかな……」
「大丈夫ですよ?」
「恐ろしき悪魔戦士である。問題ない」
『謎の信頼w』
『アルラウネたんオカシなってんねんw』
『つばさちゃん!銀髪なら兵器っしょw』
「ふっふっふ、では行ってまいります。それでは皆さんごきげんよう。チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いしますね」
と、お馴染みの言葉を風波さんにかけて出発する。
「あっ! ちょっと銀髪さん!?」
「こ、こら! 待ちなさい!! 単独行──」
おっと、マッハで出撃だ!
「ごきげんようでございますわー。チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いしまぁす!」
よし、自衛官にもばっちり宣伝。
木の上をフィジカルごり押しでジャンプしながら、雷撃の発生源へと急接近する。
ここから先は自衛隊の作戦行動中だ。
ライブ配信をするわけにはいかない。
「自衛隊の作戦行動の件も絡みますので、今日はここで一度終わります。ですが、動画はしっかりと取っておきます! 自衛隊の方々に見せたあと、許可が出たところのみを後日アップするとお約束しましょう」
カメラに向かってそう説明した。
「それではみなさんごきげんよう。チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いします!」
『おつ』
『動画に期待』
温かいコメントに応援されながら配信を切る。
さて──間に合うかな?
木々の隙間から見えた現場では、鳴神さんの誘導弾が凄まじい轟音と共に現場を完全に支配していた。
完全に敵を圧倒している。
「ご覧ください! 鳴神さんの発するさすがの攻撃力に、エルフはなすすべがありません! 自衛官のみなさまも納得の表情!!」
俺はすかさず録画用のカメラを構えながら舞い降りる。
「趣味で撮影をしているものですが、お邪魔してもよろしいですか?」
「ぎっ、銀髪さん!? またぁっ! ビックリするから急に来ないでってば!」
「えー、銀髪さん?」
「配信はダメよ?」
鳴神さんが飛び上がって驚き、同行していた女性自衛官の2人も目を丸くして制止の声を上げてくる。
「ご安心ください。この現場のライブ配信はしておりませんので。あとで提出してしっかり許可を得たのち、動画を投稿する予定となっております」
「うーん、それなら……いいのかな?」
「先輩、上に判断してもらいましょう。それよりも今は……」
「そうね。いいわよ、鳴神さん! そうそう、標的を囲むようにしながら、まずは虫系エネミーの──」
実戦で教えているのか!
いいな!!
「ご覧ください! きらめく雷の弾丸が乱舞し、縦横無尽に戦場を駆け巡る! まるで意思を持っているかのように踊る光の軌跡っ!
エルフの退路を完全に断ち、網の目のようにその身を包囲していく! 一歩でも動けば即座に撃ち抜かれる絶望の檻ィッ! 敵はただ恐怖に震え! その場に釘付けにされるのみーーーーっ!!!!」
「もうやめてぇっ!!」
「な、生で見るとすごいですね、先輩」
「私、ちょっと感動してる」
「いやはやしかしっ! 自衛隊の方々も素晴らしい活躍をされています!! 動画にできないのがもったいないくらいですね!!!」
2人ともに不可視の能力のようで気で探るしかないのだが、おそらく──
1人は盾のような力場を発生させる能力。
もう1人は力場を発射する能力だろうか。
「色んな使い道ができそうな素晴らしい能力のようです!! 無念……私が日本の王にならなければ、彼女たちの能力すらライブで紹介できないのです!!
グギィッ……クチオシヤァァァ」
「銀髪さん、おかしくなってるから落ち着いて!!」
「ふっグ」
「せっぱい……ダメでっすってッ」
「だ、だってッヒはぅふヒ」
地団駄を踏んで悔しがる俺を、鳴神さんが必死になって宥めてくる。そのとき、俺の感覚が周囲の異変を捉えた。
「むむ!?」
ブーンという不快な羽音が遠くから近づいてくる。
羽虫め!
目の前で許すわけないだろう?
PGP前PG後だっ!
「てやてやテイふんふぅぅんっ!」
ヴァムゥゥゥゥンッ! ムンッムゥゥゥウン!!
くらえぃっ! 空間ねじり、発勁流しだ!
「消えなさい、蚊トンボめ」
浄化の氣功が現場を流れる。羽虫が消え去り、エルフは正しき心に打ち砕かれて泡を吹いて倒れた。
「ジ! エエェェェェェェンドッ!!」
近くにいたアルラウネさんが目を丸くしてガタガタと震えていた。
……スマン、アルラウネさん。
俺は彼女にトラウマを残してしまっていたようだ。
「あなたに私の攻撃が向かうことはありませんよ」
「しっ、知っている。悪魔戦士よ。チョッピリ驚いただけである!」
アルラウネさんは必死に胸を張り、強がってみせた。
俺は呼吸を整え、みんなに向き直る。
「今の一撃で周囲に浄化発勁を流しました。ですから、精神汚染は排除されましたのでご安心ください」
「せ、精神汚染!?」
俺の言葉に、鳴神さんが目を見開いた。
「ついさっき、同じ攻撃を拠点にしていたので1人捕えています」
「なんですって!?」
「拠点を!?」
自衛官の2人も驚愕の声を上げる。
だが俺は、みんなと違う部分に驚いた。
「コイツ、さっきのと同じ顔ですね……まさかクローン的な?」
「その辺りは我が説明できる。拠点で全員に共有するほうがいいだろう」
「厄介なことにならなければいいけど」
「そうですね。まあまずはこのエルフを運んでしまいましょう。追加で捕縛できましたし、データの蓄積に役立つでしょう」
「ええ。我々は後手に回ってるからね。エルフのデータはいくらあっても困らないわ」
自衛官の2人が冷静な判断を下す。
移動の最中も、自衛隊の人たちの動きには無駄が一切なかった。彼女たちは戦闘専門だから戦術系能力者ではないはずなのに、テキパキと的確な作戦を立て、互いにカバーし合いながら実行している。
その洗練された動きに、俺と鳴神さんは移動しながら感銘を受けていた。
「まだまだだなあ」
「ええ。私たちは全然足りません」
しみじみと呟く鳴神さんに俺も同意する。
しかし2人の自衛官からは「なに言ってんだコイツら」と言いたげな、なんとも言えない複雑な目で見られてしまった。
「己を知るというのは基本ですよ」
「そうね。学問だけじゃ気付けないことってあるもの」
自衛官の言葉に、俺は深く頷く。現場の声、本当に参考になるな!
己を知る。
大事なことだ!!
「なるほど!」
「は、はい!」
鳴神さんも嬉しそうに返事をする。
「先輩、どうしましょうか? あんまり伝わっていません」
「それもまた学びかな……」
「「学び……」」
俺たちはフンフン頷いた。
しかし自衛官の2人はなにかを諦めたようだった。




