24 新時代の森林マッチョは反省しない
ドワーフダンジョンでの有意義な合宿を終えた翌日。
反省会をする。
陣内さんから、そう連絡をもらったのは今朝のことだった。
さすがだな。キッチリと反省すべき点を話し合い、修正して次に生かそうではないか──ということだ。
ならばせめて俺は、ビスケットと紅茶でも用意しておこう。
話し合いに糖分は必要である!
そう思ったのだが……我が家のリビングは、重々しい空気に包まれていた。ソファに腰掛けた鳴神さんと陣内さんの視線が、心なしか冷たい。
俺のやり過ぎについて議論が始まる、とのことだ。
やり……過ぎ?
ふむ、ならば語ろう! 鳴神さん、純、司の勇士を!!
「──それがまさに鳴神さんによる神の一手だった!」
「だ、だからッ……」
「うん。それ、アウト」
熱弁を振るい、俺が鳴神さんたちのスゴ技を説明すると、あっさりとアウト判定になってしまった。
「謎だ」
「お、大げさなんだってばあ!」
顔を真っ赤にして抗議する鳴神さんに、陣内さんは淡々とタブレットを見つめたまま告げる。
「うん。そう。過ぎたるはなお及ばざるがごとし。古くから日本に伝わる言葉もある。兄にピッタリ」
「いーや! 存分に褒めるべきだろう!?」
「小柴くん、バレちゃうよ……」
「聞かぬのヤツ」
「それに落っこちてくるビルの屋上が、ぽーんって放り投げたボールみたいに山なりで遠くに飛んで行くの、凄くオカシイからね?」
「見て意見するという条件で、全員分精査する権利を先生とドワーフからもぎ取ってきた。残念ながらデータの入手は不可」
あのビル放り投げ事件はやり過ぎだと、陣内さんからも指摘を受ける。というか映像を見せてもらえたのか……いいな。どうやらあのヘビーなテストの裏側を、彼女は持ち前の解析能力で存分にチェックしていたらしい。
俺も見たいが……分析系の能力じゃないから無理だろうな。
無念!
「しかしヒーローならば可能な動きと、俺は思うんだがなあ」
「壊す……までならなんとかできそうだけど、遠くに投げ飛ばすのはムリだよお」
鳴神さんが眼鏡を直しつつ、困惑気に眉毛を八の字にした。
「私は壊すのもムリ。止まってるビルなら破壊可能かも?」
「だよね? だからやっぱりやり過ぎなんだよ、小柴くん」
「あれは受け流しの技術だからな。ヒーローが修行すれば誰でもできるぞ」
「修業? ホントかなあ」
「兄、誰に習った? 期間は?」
ジト目を向ける陣内さんに問いかけられ、俺は腕を組んだ。そういえば言ったことなかったか。
「俺は漫画と映画から着想を得たぞ! 期間はどうだったかな……受け流しはすぐできたような気がする。氣功もすぐだったような?」
映画を見終わるくらいにはできたから2時間か? 発勁はまあまあ時間がかかったかな。確か1週間くらいはガッツリ修業したはずだ。
「ヒーローモードなら学習力も高いからな。半月もあれば余裕で習得可能だろう」
「ム、ムリだよお!」
「兄、一般的にそれを天才という……つまり私にはなんの役にも立たない情報。残念」
氣功使いたかったとボヤく陣内さん。
修行をしたそうだ。
貪欲こそが上達の道標だな!
コツというか、気持ちというか。
今こそ伝えよう。
「はっはっは、ヒーローのポテンシャルを信じるといいぞ!」
「ムリ」
「小柴くんの中のヒーロー像が肥大化してるなあ」
あきれ顔の鳴神さん。
そして陣内さんが今回の議題、俺のやり過ぎ問題の核心を突いた。
「兄、ムキムキモードのときは半分以下に抑えたほうがいい。銀髪とつながる」
「そ、そんなにか!?」
「うん。そんなに」
「そうだよねえ」
冷や汗を流す俺の前に、ガチャリと玄関の扉が開く音が響いた。
「ただいまー!」
「おー、おかえり」
「おかえり、カグヤちゃん」
「カグヤんち、お邪魔してる」
「あ、鳴神さん、陣内さん! 見て見て、これ見てよ! いいでしょ」
どこかのショップの紙袋を提げてリビングに飛び込んできたカグヤは、気軽に持ち歩けるのがいいんだよねーと、ご機嫌な様子でそこから小さなアクセサリーを取り出した。
「あ、カワイイ!」
「これ、超流行ってんの! 今ネットとか駅前のショップで安く売っててさー」
カグヤはこれまで、売り切れてたから買えてなかったんだそうだ。入荷のタイミングを狙ったらしい。
合宿のときにお嬢様がたが持ってたヤツだな。
「良いにおい」
「うむ。緑の大自然だな!」
カグヤが専用のオイルを入れたら、ふわりと上品な香りが漂う。
「カワイイけど、壊れやすそうなデザイン」
「そうなんだよねー。だから予備もバッチリ」
カグヤは紙袋から指輪とネックレスを取り出した。
どっちも3個ずつ買って来たようだ。
「デザイン重視だからかなー? ちょっと壊れやすいんだよね。アロマ入れるとこ」
「カワイイも無敵ではないのだな」
細い鎖でつないでるだけか。
それじゃあ壊れやすいだろうな。
「小柴くんはなにと勝負してるの……」
「常在戦場……秘訣?」
「あっはぁ、いちいちアニキの言うことに反応しないほうがいいよー」
我が妹殿が辛辣なり!
そんなカグヤが驚きのお値段を宣言した。
「1個500円は神」
「え!? 安い!」
「相場の半額程度……市場独占の狙い、感じる」
「100均アクセで手作りするよりはいいもので、ブランド品ほど洗練されたデザインじゃない。でもウチらには丁度いいカワイくてシンプルなアクセなんだよね」
「なかなかやる企業」
陣内さんは妙なところに感心している。経営者視点というか、その安さの裏にある製造元や流通の背景を鋭く見抜こうとしているようだ。
ヒーローとは少し違う部分になると思うが、興味があるのだろう。
知的好奇心ということか。
しかしなんだ? ドワーフのダンジョンでは気付かなかったが……この香り、どこかで嗅いだ記憶があるような?
それこそ緑の多い代々木公園とかだったか?
いや、微妙に違うような気もするが……アロマオイルだから成分が調整されているのかもしれないな。
「私も買おっかなあ」
「えっとね、多分もうないかも?」
「うそぉ……そんなになんだ。残念、ブクマしとこ。メーカー、なんて名前なの? カグヤちゃん」
「アストラルってとこだよ鳴神さん」
「ありがと」
「んー、そうだなー。指輪、みんなに1個ずつあげるよ。アニキも爽やかになぁれ~!」
「いいの? もー、カグヤちゃんってば優しくてカワイすぎる!」
俺はどうやら森林マッチョになるらしい。
カグヤから手渡された指輪を見る。
付けられるのは銀髪モードだけだな。
どうやら森林心マッチョだったか。
「よし。新時代のマッチョになろうじゃあないか!」
「大本はアストラル・バイオニクス……大企業が子会社を作ってこの製品を……理由は……」
ビスケットをリスのようにかじりながら、陣内さんはなにやら分析をしていた。さすがである!!
「なんだかカオスだね、カグヤちゃん。素敵なアクセだね、で止まらないんだなあ、この2人は」
「陣内さんに、アニキとは別ベクトルの執念を感じるなー」
ふっふっふ、これで汚清楚は返上である。




