20 ヒーロー強化合宿 IN ドワーフマッチョダンジョン2
「そう。その鉄骨を固定したらどうかな? 遠藤くん」
「それなら右側の瓦礫を退かせば救助できそうだね」
ドローンで細かく状況を確認した純が、鳴神さんと相談して状況を判断。救助のプランを組み立てた。
俺と司は鳴神さんの指示に従って、行動を開始する。
「OK。こっちの鉄骨と瓦礫の固定が終わったぞカナタ」
「救助開始します。落ち着いて待っていてください。ここはヒーローにお任せあれっ」
俺はなるべく音を立てないよう、気を付けながら瓦礫の除去を開始した。救助されると分かっていても、瓦礫に埋もれている人からすれば、少しの音でさえ恐怖を感じるはずだからな。
だが後ろで万が一のために待機していた鳴神さんに動きあり。
VP9のコッキング音が聞こえた。どうやらドワーフさんたちは、俺たちにどんどん負荷を与えてくるようだ。
「鳴神さん」
「うん」
ジャマー・パペットがさらに追加されたようだ。
静かに排除しなければならないため、ハンドサインでここは任せておいてくれと知らせる。
要救助者には安心だけを届けるのだ。
ジャマーは攻撃力こそ低いが、執拗にこちらの動きを止めるようにプログラムされているらしい。聞こえる音で判断するしかないが、かなりの数が向かって来ている。
しかし! 俺は集中して作業にあたることができる。
信頼に値するチムメンだからな!!
「さあ、もう大丈夫! 他に取り残されている人はいますか?」
「ぷー、ぽぴっ」
キュートな音で否定するドワーフ型マッチョパペット。
「カナタ、鳴神さんの補助を。数が多いそうだ。こっちは俺に任せてくれ──痛むところはありますか?」
「ぴぽ、ぷー」
「了解、司」
俺の動きを見て、純もこっちに向かってくる。6時方向に……12か。確かに多い。鳴神さんのほうにはもっといるのだろう。
とはいえ、破壊力満点の鳴神さんの全力は出せない。
商店街のときと同じく、帯電弾を使用しているはずだ。それでも戦闘音が響いてくるから、数の多さは分かった。
「もう結構寄られてるからね。気を付けろよ、カナタ。僕はここで索敵してるから」
「任せろ。補給部隊の護衛術をお見せしようではないか」
「なに言ってんの? カナタ」
「なに言ってんだ? オマエ」
司と純が変人でも見るかのような目で俺を見てくる。
「なーに、ただの補給部隊の和ませ術だ。行ってくる」
俺はパペットのぽぴーという応援と、2人の呆れの声を背に受けた。やれやれ、心のハートに火をともすということを理解していないようだなっ。
氣功なし。
発勁なし。
改めて心に誓い、ジャマー排除のために前線へと俺は立つ。
「心意破魔八極──守護の陣……ッスゥ、ハッ!」
俺は鋭く息を吐き出し、独特の低い構えから一気に踏み込んだ。
パペットの懐へと滑り込んだ俺は、護りの歩法でジャマーの襲撃を防ぐ。
格ゲー的に言うならば──守護の陣の立ち大Kは、相手をダウンさせる攻撃なのだ。
柔道の足払いを、激しく攻撃的にしたものと考えてもらって良いぞ。
俺は舞うように回転しつつ、脚部を破壊すると同時にパペットの行動速度を低下させていく。
とどめを刺すのは12体の転倒を確認してからでいい。
「心意破魔八極──粉砕の脚。ふんっふゥんっ!」
「いや、それ、補給部隊の動きじゃないだろ!?」
「ナニソレすっご!?」
流れるような演武のごとき挙動で、次々とジャマー・パペットを無力化していく俺の姿に、男子連中が目を見張っている。
「す、すげぇ。おいカナタ、今のってカンフー映画のやつか!?」
「ああ。ロマンだからな。男の嗜みだろう?」
拳道は俺のバイブル!
素晴らしい漫画だから見るといいぞ!!
あと映画のドラゴンシリーズとクレイジーカンフーシリーズ。
「おお……かっけぇな!」
驚愕から一転、司と純の目が輝き始めた。やはり男たるもの、拳ひとつで無双する武術には抗えない魅力があるらしい。
「こ、小柴くん……やり過ぎのような」
エネミーの大群を処理し終わった鳴神さんが呟く。
そうかな?
これくらいなら鳴神さんもできるでしょ。蹴とばすだけだぞ?
しかし、訓練はまだ終わっていなかった。
「げ、マズい! 崩落が始まった!!」
ドローンで索敵をしていた純が声を上げる。
不気味な振動。
壁や天井からパラパラと零れ落ちてくるコンクリートの破片。
「ジャマーのおかわりも来たよ!」
鳴神さんの鋭い声が響く。
「小柴くん、窓から行ける?」
「エネミーは任せた!」
「はい!」
俺は要救助者のパペットを抱え、宙へ飛ぶ。
「純! 司! 来い!!」
「オッケー」
「はいよっ」
俺は飛び降りてくる2人を、受け流しの要領で落下ダメージから守る。
「鳴神さん!!」
「私は大丈夫っ」
雷撃を放ちながら飛び出して来た鳴神さんも、問題なく着地。
ま、ヒーローからすれば2階程度ならスキップするのと変わらないしな。
だがしかし。
見上げれば俺たちの上から、巨大なコンクリートの塊が落ちてくるのが見えた。
それはポキリと折れたビルの天辺。
俺は破壊よりも受け流しと瞬時に判断し、大きく飛び上がる。
「そいやっ!」
柔よく剛を制す。
剛よく柔を断つ。
すなわち剛柔一体!
武の神髄だ。
圧倒的なサイズには力も必要だからな。
フィジカルも存分に生かし、俺はビルの屋上を遠くへと受け流しつつ弾いた。
そんなカンフームーブを間近で見た鳴神さんが、顔を引きつらせていた。
「動きがキレすぎてるよ……」
ポツリと漏らされた彼女の呟きと、額を伝う冷や汗に俺は気づかないフリをした。
こ、これでもやり過ぎたのか!?
気にし過ぎじゃないか? 鳴神さん。
こうして、俺たちのチームはミッションを優秀な成績でクリアできた。
減点されたのは最後の飛び降り。
人間には恐怖を与えるためだ。
「そうか……パペット前提の動きだったね。ごめん、みんな」
「いやいや、鳴神さんがいなかったらこんな高得点にならないよ!」
「そうそう。イインチョのせいじゃないって」
「だな。俺たちも正しいと思ったからすぐに行動したんだ。チムメン全員が間違ったってことさ」
「う、うん……」
「ガーッハッハ! 完璧を求めるか? 嬢ちゃん!」
訓練終了後、このダンジョンの管理者であるホワイト・エネミーのムキムキドワーフが、のしのしと姿を現した。
彼は俺たちの前に立つと、深く感心したように深く頷いた。
「おぬしらはまだまだひよっこじゃい! これから学んでいけ」
「は、はい!」
「それにしてもおぬしの能力の頼らぬ、鋼の肉体と磨き抜かれた技術の融合……。実に見事!」
地響きのような声で俺を称賛すると、彼は「技術の交換」として、異世界のマナ共鳴石という美しい鉱石を学園側へと贈ってくれた。
これは次元の裂け目の探知機に使用されている非常に貴重な鉱石であり、ヒーロー協会にとってもいくらあっても困らない代物だ。今回は学園を通じて、そのまま協会へと譲渡されることが決まった。
「おぬしらだけじゃなく、他のチームも実に優秀! 楽しみじゃのお、先生よ!!」
「ええ。自慢の生徒ですよ」
ちなみに満点を叩き出したのは、陣内さんのチームと、Bクラスの斥候系のチーム、Dクラスの分析系チームだったそうだ。
流石! こういう状況でも斥候系は輝くんだなあ!!
なお、総合得点はAクラスが1位だったそうだ。
くうううううう……いや……配信はムリなのは分かっているがッ……データはもらえないだろうか……ムリ、だよなあ。
無念ッ!!!!!!!!!!!!!!
「小柴くん。ちょっと……」
ドワーフダンジョンの1階。
ホテルのロビーで呼び止められる。
「どうかしたか? 鳴神さん」
鳴神さんは周囲に人がいないことを確認してから、声をひそめて伝えてきた。
「動きが非常識すぎて、別の意味でめちゃくちゃ目立ってたよ。遠藤くんも佐々木くんも、興奮しながらみんなに話してたからね?」
「あー、ロマンを見せすぎたか」
頭を掻く俺を見て、鳴神さん深い溜息を吐き出した。
「もう……正体を隠すのなら、もう少し加減というものを覚えないとダメよ?」
怒りながらも、俺の身を本気で案じてくれているのが伝わってくる。
「す、すまん。そしてありがとう。まさに優しさの極ッ!」
「ちょ、ちょっと!? 変な風に感激しないでってば!」
そんなときに声をかけてきたのは、ニヤニヤと笑みを浮かべた他校の生徒──
「ごきげんよう、鳴神さん」
──我が妹殿だった。




