19 ヒーロー強化合宿 IN ドワーフマッチョダンジョン1
「いや、どう考えてもおかしいだろ!」
合宿初日。
チームメンバーの司が、不満を隠そうともせずに声を荒らげた。
その視線の先にいるのは俺である。
「なにがだ? 司。俺は至って大真面目に合宿へ臨もうとしているぞ」
「仕方ないよ佐々木くん」
鳴神さんが司をなだめようとするが、純も乗ってきた。
「その格好だよ! カナタが女子枠に入ってるせいで、僕たちの班は実質男3人じゃないですか先生!」
しかし、引率の教師からは「小柴くんの能力を考慮して、フィジカルのバランス的に女子枠が妥当ですよ、遠藤くん」と無慈悲に押し切られていた。
「それはまあ、俺のせいではあるが諦めてくれ。むんっ」
ムキムキ女子モードの俺は、フロント・ダブルバイセップスでアピールする。
「ややこしくなるから止めなさい小柴くん。ヒーローのパワーは見た目の筋肉量と一致しません」
それはそう。
隣で苦笑している鳴神さんと力比べをすれば、俺が負ける可能性は高い。彼女は俺と違って、まごうことなき純粋なヒーロー。
計り知れないパワーを秘めているのだ!
まさに神秘の力!!
おお、そうだ。訓練にあたって、男子陣の能力も整理しておこう。
チームの力を理解するということは、成功への第一歩だからな。
遠藤純。彼は指揮所にモニタを持ち込めれば、10機ものドローンを、同時に手足のように操作できる能力を持っている。
佐々木司。彼の能力は液体生成だ。成分の分かっている液体ならなんでも生成可能という強力な能力者だ。頑張っても湯船1杯分なのがネックらしいが。
最後に俺こと小柴カナタ。女の子になれるだけのポンコツヒーローではあるが、鍛錬と筋肉は裏切らない。
フィジカルと技術で、なんとかやっていくさ!
「そしてそんな俺たちを率いるのが委員長の鳴神ひなさんである!」
「な、なに!? 小柴くんっ」
「急にどうした」
「いつものか?」
「もはや説明不要!! 全世界にファンを持つ学生ヒーロォォォ!!」
アーカイブに彼女宛てのコメントは多いぞっ!
「や、やめてぇっ!」
真っ赤になった鳴神さんに、腕をペシペシ叩かれて気付いた。
いかん……このノリが銀髪モードと被るから気を付けなければいけないのに。
しまっていこう。
「そういえばイインチョって、ダンジョン化のときの動画で世界に羽ばたいたよな」
「司、カナタのせいでハズレチームに感じるけど、僕たちには鳴神さんがいるし大アタリだったじゃん」
「大人はズルいってことだ」
「だね。文句も言えなくなる采配」
ドローン操作用のコントローラーをいじりながら、純も呆れたように同意した。
今回、俺たちがやってきたのは、人類に友好的なドワーフ型のホワイト・エネミーが作成した、技術試験型ダンジョンだ。内部には倒壊した市街地が実物大ジオラマとして再現されており、災害現場を模した不安定な足場や瓦礫がひしめいている。
そんな本格的な救助訓練を前に、班分けの段階でチムメンの男子連中から猛抗議が飛んでいたのだ。
つまり「男の人っていっつもそうですよね」案件である。
ロマンとアホとエロで形成されているのが男子高校生の実態だ。
仕方ないのさ。
銀髪モードを隠しているのも、そんなエロ対策の一環ではある。
美女に変身できると知れば、詳しく知ろうとするだろう?
他の姿にも変身可能なことを見せていないのは、そんなエロ対策もあるが、女性への配慮もある。
男の俺が、女性に変身して更衣室や女風呂に入っていないか?
ヒーローがそんな恐怖を与えるなど言語道断なのである!
「俺はこれでも可憐な女子学生としても登録されているぞ?」
「もうだいぶオカシイ……」
「存在がバグってんだよ……」
司と純が頭を抱える中、チームリーダーを務める鳴神さんが、眼鏡の位置を直しながら俺たちの前に立った。
「はい、そこまで。不満を言っても編成は変わらないからね。今回の課題は、瓦礫の奥に取り残された救助対象パペットを回収、安全地帯まで搬送すること。制限時間もあるから、みんなの能力を最大限に活かして迅速に動きましょう」
最高に委員長だ!
俺たちの意識も切り替わる。
「「「了解!」」」
今回の訓練を始めるにあたり、俺には厳守しなければならないことがある。数日前、陣内さんから「動きで銀髪の配信者だとバレる」と極めて的確な警告を喰らったばかりなのだ。
早い話、発勁や氣功は完全封印ということ。
だが、やりようはある。発勁を伴わない純粋な体術──カンフーを使えば良いだけなのさ。
ヒーローのフィジによる、ただの凄まじい近接格闘として誤魔化せるからな。
「遠藤くん、ドローンで要救助者を捜索してください」
「任せて!」
鳴神さんの指示で純が素早くドローンを飛ばす。移動しながらの捜索だから、残念ながら今回は2機のドローンのみ。スマホに流す映像では限界がある。しかし瓦礫の隙間を縫うように進む小型ドローンが、すぐに対象の熱源を感知したようだ。
「見つけた。ここから北東、崩落したビルの2階部分!」
「行きましょう!」
「ジャマー・パペットも6体」
ドワーフがエネミーを模倣して作成した敵役だな。
「くっ付けちまえばただの的だろ。純、この試験管をジャマーに」
司が固有能力の液体生成を使い、特殊な溶剤を入れた試験管をドローンに渡す。
しかも司は、要救助者の負傷に備えて殺菌や治癒の効果を持つ、薬液も生成していたのだ。彼のベルトポーチは、高性能な薬局のようなものだな。
「いいね、それ」
男子陣の息の合った連携に、俺は感心の声を漏らした。
フィジカルがなくとも、彼らだって立派なヒーローなのだ。
くぅぅぅぅっ、このめったにないチャンス。
「さすがだな! 純、司!」
歴史に残しておきたい!
「まあね!」
「だろ? イインチョ、あとは任せた!」
「はいっ! 遠藤くんは引き続き要救助者の捜索をお願いします。それからその……できれば索敵も」
「問題なし! イケるよ」
「俺がモニタを持ってくるべきだったか?」
「いや、それは欲張り過ぎじゃね?」
「そうだよカナタ。要救助者を運ぶのはお前の役なんだからな?」
「ヒーローのフィジカルを舐めてもらっては困るぞ? とはいえ両手で支えたほうが安全に救助搬送できるか」
「できるときに、できることをだよ。小柴くん」
「確かに! 今の考えはヒーローの活躍を、1番に考えてしまっていた。すまないみんな。そしてありがとう!」
俺がアレコレと欲張ってはいけない。
身の程をわきまえておかなければ、守れるものも守れなくなってしまうからな。
肝に命じておこう。




