02 謎
本物の公式撮影班は、安全な上空のヘリからの望遠レンズや、ドローンを使っての撮影をしている。だがしかし、そんな遠くからの映像で、彼女たちの真の美しさが伝わるわけ──ないだろう?
戦うヒーローの真髄は、間近で見るからこそ、きらめくのだよ諸君ッ。
戦闘で役に立てない俺に、まさにピッタリの役割と思わんかね諸君ッ!
俺に役得だぞ諸君ッ!
「あの、その……」
「邪魔にはなりませんからお気遣いなく」
「ち、近い……んですけど……」
しかしそのとき──公園の奥からから声が上がる。
斥候系のヒーロー、山岸さんだ。
こっちに向かってくる。
「来ました!」
「よし! 私たちは奥に行くね。ひなちゃん、銀髪ちゃんの相手は任せたっ!」
「よろしくひなちゃん! 邪魔にならないのはホントだからね! めっちゃアップで撮られるけど!!」
「ええっ!?」
「鳴神さんの犠牲は無駄にしないからぁっ! あ、ギッシー、帰りにラメチキ食べに行こうねー!」
「わかったあ! 待ってるから頑張ってね! むかっちゃん」
1-Aの峰さん。1-Bの井原さん。1-Dの向井さんが奥に向かってダッシュする。
「もうっ」
『にっこにこで逃げてった』
『はうっ』
『もうっ』
『息ピッタシw』
『連携がw』
『ひなちゃんは犠牲になったのだw』
『もうっ』
『ひなちゃんの「もうっ」たまらん』
『ぴょんぴょんギッシーもたまらん』
『もうっ』
『もうっ』
『ラーメンとチキン……達人か』
『もうっ銀髪ちゃんは分身できないの?!ッッ!!』
「分っ!?」
したい!
できぬ!!
分身、俺もしたいが、女の子化が俺の能力ッ。
『しょんぼりした』
『しょんぼりw』
『なんかスマン』
『分身は忘れろください』
無念……。
「ここは戦闘職に任せて避難を!」
「はいっ」
「お気をつけてお帰りください、ギッ……山岸さん」
あぶなっ……あだ名で呼びそうになった。
しまっていこう。
「「え?」」
「え? お気をつけて?」
どうした?
「「あ、いえ、あの、あなたも避難を……」」
『w』
『息ピッタリw』
『草ぁw』
『言われてんぞ銀ぱっつぁんw』
『ヒーローちゃんたち仲良しでよき』
なんか奇跡のユニゾンをしている鳴神さんと山岸さんに、チャット欄が盛り上がる。
その瞬間。
「あ、でっか」
俺のほうを向いていたため、鳴神さんたちの反応が遅れる。
急に湧いたトカゲのような姿をしたエネミーが、長い尻尾を振り回した。
「くるりんポイッ、と」
俺はエネミーの攻撃を受け流す。
『くるりんポイ』
『大型バスくらいあるんだが?』
『くるりんポイ』
『くるりんポイ?』
『ポイされた大型エネミーちゃん』
『受け流しって手でやるイメージだった』
『ちょっとよくわかんない』
『ゴズっていう聞いたことない音がしたよ?』
『なんで宙返りしてるのにカメラがブレないのさ・・』
『片足でぽい』
『エネミーがグニャッた』
『サイズ比がオカシイ』
ヒーローのフィジカルを舐めてはいけないのだよ、諸君。
そして大トカゲには意図しない動きだったようで、転がったまま悶えている。
頭から落としたせいで、混乱中なのかもしれないが。
ちなみに右手にカメラ、左手にスマホを持ってるから足を使うしかないのだ。
「さ、今のうちに山岸さんは避難を」
隣のクラスの山岸さんに撤退を促す。
「えぇっとぉ……あの、鳴神さん?」
「今の身のこなし……もうこの際、この人は放っておきましょう」
「分かりました。ではご武運を!」
改めて撮影に入る俺。
ヒーローの輝きは逃さないっ!
「行きます!」
二丁拳銃を構えトトトンッと、バックジャンプ。
エネミーから距離を取った鳴神さんの動きに、迷いはない。
俺も当然彼女に追従する。
カメラに映るキリリとした鳴神さんの表情は、俺の心とチャット欄を湧き立たせた。
そしてタタタタンッと、VP9から連射された弾丸は地面に4発、エネミーに6発。
20発の装弾数があるVP9にすれば、大型エネミーに発射された弾丸は少ないだろう。
だがしかし!
「我らが迅雷の乙女、鳴神ひなさん! 彼女の熱い正義の心が燃えたぎる!!」
「!? ~~~~~~ッ」
「真紅の眼鏡は明るさと情熱の証ッ!」
『ハジマタ』
『あかんw』
『ヒーローが羞恥に悶えてまう』
「今、発動する正義のイカズチが悪を裂くッ!!」
迅雷の名に相応しい、神々しい雷が放たれる。
まさに雷の砲撃ッ!
まさに砲兵!!
「空を駆け、大地を走り、敵を穿つ!」
鳴神さんの能力である雷が、打ち込んだ弾丸に沿って駆け抜けた。
「ジ・エーェェンドッ! くぅぅぅッ……ああ、最高です」
「やめてくださいませんか!?」
夕日に染まる鳴神さんの顔が赤く染まっている。
ふつくしい。
「必殺技の名称、教えてくださいませんか?」
「お願い、聞いて!? やめてくださいませんでしょうかっ!?」
「素敵すぎて死にそうです」
『聞かぬ』
『聞かぬ』
『話聞けw』
『聞かぬ』
『お馴染みの流れ』
『聞いといて聞かないw』
『自由かw』
「ハッ! ご協力ありがとうございました。私は急ぎ次の現場に──」
「ひなちゃん終わったー?」
「はい。状況終了しました」
「あ……間に合いませんでしたか」
峰さん、井原さん、向井さんが帰って来た。
どうやらみんな無事に終わらせたみたいだ。
「残念です。みなさんの輝きを撮りたかったんですけど」
「銀髪さんが来ると恥ずかしいことになるじゃん」
とは向井さんの言。
謎。
「謎」
俺の言は「謎なんて1個もない」という満場一致(チャット欄含む)で棄却された。
ガチ謎。
「ところで銀髪さんの名前は教えてくれないの?」
『知りたい!』
『ナイス峰さん』
『言え』
『聞きたい』
『白状しろ』
「それはヒミツです。ぅゅ」
極秘事項なのだよ、諸君。
魔法の言葉ぅゅと、ナイショのジェスチャーで誤魔化しておく。
「チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いしますね。それではみなさん、ごきげんよう」
『汚な』
『あ』
『おいw』
『マテマテマテ』
「こら! にげるなー!」
ヒーロー活動が終わったなら、すぐに撤退しないとな。報告終わるまで配信なんかしたら追われてしまうのでね。
状況判断は迅速に──は、ミステリアス女子の必須科目だ。
俺はジャンプ移動しているうちに、適当に変身して別人に成りすましておく。もちろん清楚ワンピも脱いでおくぜ。
ヒーロー協会指定のボディスーツ状態になっていれば、疑われないしな。
「さて」
買い物を済ませるころには、元の姿に戻している。ムッキムキの俺が小っちゃいゼリーとかを買うと、不思議そうな微笑ましいような顔をされるのも、もう慣れたことだった。
「ただいま」
「あ、おかえりアニげっほ、げぇぇっほげほっ、ン、ぶ、おが、えり」
「いいよいいよ、大人しくしてな。カグヤ。薬……効かないのか?」
「ん……薬、キライげほっげほっ……はぁはぁ、ふぅ」
ヒーローは、みんな……輝くべきなのである。
「マスカットゼリー買って来たけど、食べるか?」
あと、薬も飲め。
「げーっほげほ、ぶしょーっ、ンあ゛あ゛。ええ? ウチが頼んだのプリンだげど」
「ぅゅ?」
「オイコラ、アニキ?」
我が妹のご機嫌がっ。
「すまん、間違えたからもう1回行ってくるわ」
「あーもう、いいっていいって。ただの風邪に大げさなんだよ! ウチはバブちゃんじゃねぇってのぉっごほごほ」
「あーほら、大人しくしてろって!」
「いーや、食う。食って元気になる。そんでヒーローの研究するんだ」
できた妹で兄は嬉しいぞ!
「英断だな。今日は我らがヒーロー、鳴神さんの配信をしてきた」
「おっほぉ!? ガチィ? やるじゃんアニキ! 風邪なんて引いてらんねぇだろぉ、マジコレィ」
「ま、先にご飯だ」
「あとで動画見せてよ!」
将来が楽しみである!!




