01 「趣味で配信をしているものですが、お邪魔してもよろしいですか?」
俺はヒーローの中では最弱だ。
なぜか。
それは炎を操ったり、身体を鋼鉄に変えたりするような派手な攻撃系・防御系の特殊能力が一切ないからだ。そして分析系や、飛行系でもない。加速能力もない。
俺が使えるのは世のヒーロー全員が持っている、跳ね上がる身体能力のみ。
カッコイイ能力には憧れてしまうが、俺ではムリなことだ。
だから、俺は戦闘に出るような無謀なことはしない。
俺はヒーローの中じゃあ最弱なんだから、仕方のないことである。
だが!
その代わりといってはなんだが、補給物資の運搬をさせてもらっている。
近距離で憧れのヒーローたちが見れるしな!
素晴らしきヒーローの勇姿、麗しき戦乙女の姿ッッ!
っくぅぅぅぅっ、最高であると言わざるを得ないだろう!?
そして、俺はこの無駄に高いフィジカルを別の目的にも使っていた。
それは最重要事項であり、最重要機密でもあるのさっ!
「ぉぉ……ぃぃ、さすが…………」
生まれ持った超常の力で戦うヒーローと、次元の裂け目から現れる侵略者であるエネミー。
そして我らが世界には2種類の人間がいる。
絶対に覆らない世界のルール。
ヒーローになれるのは女の子だけ。
つまり──男か女だ。
理由はアレだ。
「古くは迫害された魔女の因子が~みたいな感じで女の子だけなんだよな、確か。
だが、今は! 女の子が輝く時代なのだっ! 時代がやっと女の子に追い付いたのだっっ!! くぅぅぅっ」
「小柴~? 授業中は黙ってろ? あとヒーローの勇姿は休憩中に見ろ」
俺の想いがつい漏れたせいで、笑いに包まれた教室では授業が止まってしまった。
ヒーロー動画を見ていたのもバレてしまった。
「すみません、先生」
まあさっきのは俗説だけどな。どっちにしてもヒーロー因子を持ってなかったら、エネミーに引き裂かれるだけの一般人でしかないわけだ。
そんな世の中に、俺は少し特殊な能力を持って生まれた。
能力名:性別反転
その名の通り、俺が女の子の姿に変身できるという、世が世ならただの変態扱いされかねない能力だ。
しかしこの能力には、1つだけ実用的な特典があった。
そう!
女の子の姿になっている間だけは、この世界のルールが適用されて、最前線で戦うヒーローと同等の、強靭な身体能力が発現するのであるっ。
ビルを飛び越える跳躍力、弾丸を視認できるほどの動体視力。
それらがすべて、俺の女の子ボディに宿るのだッ!
『──谷区に次元の裂け目の兆候。当学園に要請あり。1年の担当者はただちに──』
この能力のおかげで、俺は現場に入れるという特権を得られたのさ!!
ヒーローたちのド近距離にまで、物資の運搬ができてしまうという垂涎の特権ッ。
「このクラスの今日の担当は鳴神だったか? 行って来なさい」
学生に任されるエネミーは脅威度が低い。
「はい、先生」
しかし、間違いなく実戦。
「じゃあ俺も」
「お願いします。小柴くん」
確実に仕留めなければいけない。
「いくぜっ。ガァァァルズフォォォォムッ!」
俺は力を解放した。
「俺たちが望んだ女子じゃねえんだよな」
「は? バストだって100は超えてるぞ? サァイドチェストォゥッ、ぬぅんっ」
「それはバストじゃなくて胸筋」
「ふふっ、先に行ってるから」
「俺もすぐ行く」
迅雷の乙女、鳴神ひな。
誰もが認める委員長系のヒーローでヒロインで、真の委員長であるっ。
二丁拳銃を手に、戦場を駆ける凄腕のガンナーだ。
俺は彼女専用の予備弾セットを背負い、現場に向かった。
◆
「これでいいかな? 鳴神さん」
予備弾薬を指示された場所に置く。エネミーの出てくる場所は、おおよそだが分かっているため、弾薬は分散させるように配置してある。
「ありがとう。気を付けて帰ってね、小柴くん」
「当然! ヒーローの活躍を見るのが俺の生きがいだからな」
「あはは、そうだったね!」
お互いにサムズアップ。
そして俺は帰る……ふり。
それはもちろん、俺の真の目的。
最重要事項であり、最重要機密──
「カメラの接続よし。音声マイクの感度よし。本日も最高に輝くヒーローの雄姿を、世界にお届けしますか」
──ライブ配信だ。
内緒で持って来た配信用のセットも完璧。
「変身」
誰にも見られていない路地裏で、俺は静かに能力を発動した。身体が清楚な美少女へ、ヌルっと変身する。
ムッキムキモードは世を忍ぶ仮の姿っ!!
実は女の子ならどんな姿でもOKな能力だったりする。
ムチムチもガリガリも、プニプニもスベスベも。
まあ背丈は同じになるんだが。
つまりムキムキモードは本来の姿に合わせているだけで、配信活動をしやすくするための誤魔化す手段なのだよ、諸君。わざと、アホっぽく、演じているのだ!
俺は清楚系配信者を目指しているので、配信時は清楚系美少女になるぞ。
「ンッンッ、ブルルォォン、あーあー」
着替えと声のチューニングを完了させ、ビルの屋上にシュタッと着地。
では始めようか。
趣味でヒーロー配信をしているものですがチャンネル──配信開始。
「みなさんこんにちわ。ヒーロー配信のお時間です」
配信を開始すると、視聴者が一気に湧きたつ。
『うおお、銀髪ちゃんキター!』
『きちゃ』
『また始まったな!命知らずの配信』
『警報が出たから裸待機してた』
『今日の推しちゃんは誰ですか?』
などと勢いよくコメントが流れていく。
「避難する可能性がありますから、裸待機はやめてくださいね」
おっと?
配信開始した途端、次元の裂け目に動きがあったのを俺の感覚が捉えた。
「そろそろ始まりそうなので、私は現場に向かいます。
というか……ホントにいいんですか? 現着してからのほうが酔う人が少ないと思うのですけど」
『いい』
『構わん、やれ』
『いい』
『いいから』
『いい』
『迫力があるのは良いこと』
『いい』
『結局は激しい動きになる』
それもそうか。
リスナーも見たいようだしな……。
「今回はお試しということで。では──このライブ配信は特別な許可を得て行っています。決して真似をしないでください。いいですね? 良い子のみなさん」
『はい』
『はい』
『はーい』
『はい』
『俺たちは良い子!』
ちなみにホントに許可は取ってある。能力が発現したときにな!
まさか趣味に使うとは協会も思わなかっただろう。
子供のときの俺、天才だったか。
俺は一歩足を踏み出すと、重力を無視したような跳躍で空へと躍り出る。
清楚ワンピの下には、協会指定のボディスーツを着ているから、パンチラを気にする必要はないぜ。
武器をチェックするヒーロー。
動きを確認するヒーロー。
静かにときを待つヒーロー。
「ああ、御覧ください。なんて美しいんだろう。ヒーローのみんなは、夜空に輝く星のようだとは思いませぬか? ハァハァ」
俺はカメラを地上のヒーローたちに向ける。
『wwww』
『息切れじゃなく興奮であるw』
『w』
『顔顔w』
『でたよ・・・w』
『ニヨニヨすんな』
『顔wwwww』
『たすか・・・・・らない!!!!!』
『ポエムと顔が合ってないんだよ』
『オタク顔ヤメレwww』
しかし遅かったようで、だらしない顔が映ったらしい。
「失礼。噛みました」
『たすからない』
『w』
『噛んでねえ』
『草』
『逆に緩んでんだよね』
『ヨゴレのデレ、いただきました』
『たすからない』
『たすからない』
『たすからない』
『たすからない』
「まあ、私がたすかればいいんです。今からが本番ッ!」
『隠さない界隈』
『銀髪ちゃんもヒーロー…だよね?』
『欲望まみれで草』
『まごうことなき汚清楚w』
「失礼な。私は清楚ですよ?」
現場は公園。
次元の裂け目が固定化してしまえば、ダンジョンになる。
そうすれば市民の憩いの場がなくなってしまう。
さあ、どう戦う?
鳴神さん。
突入するヒーローたち。
「趣味で配信をしているものですが、お邪魔してもよろしいですか?」
俺も当然のように、侵入を果たす。
「はえっ!? だ、誰ですか!?」
『うおおおおおおおひなちゃんキターーーーーー』
『ひなちゃん!!』
『はえっ?かわいいいいいいいいいい』
『俺の天使ちゃんきちゃ』
「えっ、撮影班の? あれ? その銀髪はユーチューブの……あ! 危ないですから下がって──」
「いえいえ、私のことはお構いなく」
俺の目的は、ヒーロー活動をすることじゃあない。
命を懸けて戦う、健気で可愛い女の子たちの姿を、誰よりも近い最前線で撮影し、その素晴らしさを世界に知ってもらうためにライブ配信を行うことだ。
これこそが、俺の目的であり、至高の趣味なのだ!
俺のことは陸上競技の選手にビタ付けで並走しながら、撮影しているカメラマンとでも思ってくれたまえ。
笑いも世界を平和にするのだ!




