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『無能と追放された令嬢、辺境の強面料理人に拾われる。極上ご飯と規格外の溺愛で満たされ、私を捨てた国は親友が滅ぼすそうです』  作者: 月神世一


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EP 9

処刑開始と、マッドサイエンティストの狂宴

 ポポロ村の広場を、物理的な質量を伴った『赤黒い闘気』の嵐が吹き荒れる。

 先ほどまで泣き叫んでいた子供の声すら、その圧倒的な死の気配の前に凍りついていた。

 龍魔呂さんの瞳には、もう何の感情も宿っていない。ただ、眼前に立ち塞がる『悪』を、一切の慈悲なく根絶やしにするための絶対的な殺戮機械。

 それが、伝説の処刑人『死を呼ぶ四番(DEATH4)』の真の姿だった。

 ――ビキッ、ビキキキキッ!

 突如、龍魔呂さんの頭上の空間に、ガラスが割れるような亀裂が走った。

 次元の壁そのものが歪み、裂け目が開く。

「な、なんだ!? 空が割れたぞッ!?」

 騎士隊長が間抜けな声を上げた直後、その次元の裂け目から、巨大な漆黒の鋼鉄製コンテナが、地響きを立てて広場へと落下してきた。

 ズドォォォォンッ!!

 もうもうと土煙が舞い上がる中、コンテナの側面がプシュゥゥゥと重厚な排気音と共に展開していく。

 中から聞こえてきたのは、およそこの凄惨な場には似つかわしくない、荘厳で悲しげな鎮魂歌――モーツァルトの『レクイエム』より「ラクリモーサ(涙の日)」の旋律だった。

『ヒャハハハハッ! 最高だ! 最高だよマイ・ゴッド(龍魔呂)ォ!』

 コンテナに内蔵された通信スピーカーから、ジャンクフードを頬張りながら興奮しきったような、甲高い男の声が響き渡った。

『次元モニター越しの生配信、バッチリ見てるぜ! あのクソ野郎ども、アンタの逆鱗に触れちまったな! さぁ、お待ちかねのパーティー・タイムだ! 存分に楽しんでくれよな!』

 声の主は、かつてDEATH4時代の龍魔呂さんに命を救われ(空砲を撃たれ)、彼を神と崇める狂気の天才科学者・ガジェット。

 展開されたコンテナの中には、黒光りする無数の重火器がズラリと格納されていた。

 龍魔呂さんは無言のまま歩み寄り、両手に一丁ずつ、ガジェット特製の『サブマシンガン』を掴み取った。

 ただの銃ではない。彼の手を通じて『鬼王の指輪』から溢れ出す赤黒い闘気が、銃身を侵食し、脈打つように禍々しい光を放ち始める。

 装填された一発一発の弾丸に闘気がコーティングされ、威力が二十二ミリ機関砲(装甲車を容易く貫通する威力)にまで跳ね上がっているのだ。

「ヒッ……バ、バケモノめ! やれッ! ネクロバグども、そいつを食い殺せェェッ!」

 恐怖に顔を引き攣らせた騎士隊長が叫ぶと、巨大な蟻や蜂の怪物たちが、一斉に龍魔呂さんへと襲いかかった。

 同時に、龍魔呂さんの姿がブレた。

「え……?」

 私が瞬きをした、ほんの一瞬。

 龍魔呂さんは、騎士隊長の懐に立っていた。そして、子供を押さえつけていたネクロアントの首が、音もなくスパンッと宙を舞っていた。

 彼は子供の襟首を軽く掴むと、私のいる安全な方向へと、ボールを転がすようにふわりと投げ渡した。

「わっ……!」

 私が慌てて子供を受け止めた時には、もう龍魔呂さんは怪物たちの群れの中央へと歩みを進めていた。

 彼は両手のサブマシンガンを水平に構え、感情の一切ない冷徹な声で呟いた。

「――【殲滅(ゼロ)】」

 ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

 鼓膜が破れんばかりの爆音が、ポポロ村の広場を支配した。

 毎分二千発という狂気の連射速度。

 放たれた無数の弾丸は、強烈な赤黒い光の線となって、死蟲軍の怪物たちと騎士の残党たちを文字通り『粉砕』していった。

「ギャァァァァァッ!?」

「グギェェェッ!」

 硬い甲殻を持つはずの死甲虫(ネクロビートル)が、豆腐のように弾け飛ぶ。

 空を飛んでいた死蜂(ネクロワスプ)が、血煙を上げて墜落する。

 悲鳴を上げる間すらない。逃げ惑う騎士たちも、怪物ごとミンチに変えられていく。

 圧倒的な蹂躙。暴力の嵐。

 降り注ぐ血の雨の中、龍魔呂さんは表情一つ変えることなく、ただ引き金を引き続けている。

 一歩、また一歩と前進しながら、無機質に命を刈り取っていくその姿。

 私は、震える子供を抱きしめながら、その光景に絶望していた。

(違う……。龍魔呂さんは、こんなこと望んでいない……っ)

 昨日の夜、自分の手が血に塗れていると、涙を堪えるように笑っていた彼。

 本当は誰よりも優しくて、人を傷つけることに心を痛めているのに。子供の泣き声という、彼の心の一番深い傷をえぐられたことで、彼は『人間』としての心を無理やりシャットダウンしてしまっているのだ。

 このままでは、敵を全て殺し尽くしても、彼の心は二度と戻ってこないかもしれない。

「龍魔呂さん……っ! もうやめて! 男の子は無事です! お願い、戻ってきて……っ!」

 私が叫んでも、その声は銃声と爆音にかき消されて届かない。

 銃弾を撃ち尽くした龍魔呂さんは、サブマシンガンを投げ捨て、今度はコンテナから巨大な『ガトリング砲』を引きずり出した。

 護衛艦の主砲クラスの弾丸を毎分二千発バラ撒く、狂気の面制圧兵器。

 それを軽々と腰だめに構え、彼はただ一人残った騎士隊長へと銃口を向けた。

「ひぃぃぃっ! く、くるなぁぁぁッ!」

 這いつくばって泥水を啜りながら、騎士隊長は後退る。

 だが、その時だった。

『チッ……使えねぇ駒だな。仕方ない、ちょっとテコ入れしてやるか』

 空の彼方から、誰かの舌打ちのような声が聞こえた気がした。

 ゴッドチューブのPVのためにこの惨劇を仕組んだ、炎上神ワイズの介入だった。

 突如として、死蟲軍の死骸からどす黒い瘴気が立ち昇り、這いつくばる騎士隊長の身体へと一気に流れ込んだのだ。

「ガ、アアアァァァッ!? 体が、俺の体がァァァッ!?」

 騎士隊長の体が、異様な音を立てて膨張し始めた。

 鎧が内側から弾け飛び、彼の肉体は死蟲軍の様々なパーツと強制的に悪魔合体させられていく。

 わずか数秒で、そこに誕生したのは、全高十メートルを超える醜悪な合成獣――『合成死蟲将軍機(ネクロキメラ・ジェネラル)』だった。

「ギョェェェェェェェッ!!!!」

 理性を完全に失った合成獣が、空気を震わせる咆哮を上げる。

 そして、その巨大な腹部が、不気味な赤い光を放ちながら膨れ上がり始めた。

『あーあ、魔力暴走を起こしちゃったね。あと数分で、その化け物は大爆発して、ポポロ村ごと吹き飛ぶよ。さぁ、どうするのかな? 伝説の処刑人さん?』

 ワイズの嘲笑う声が響く。

 周囲の空気がビリビリと震え、途方もない熱量が合成獣の腹部に凝縮していくのがわかった。

 爆発すれば、村は跡形もなく消え去る。

 通常兵器で撃ち抜けば、その瞬間に誘爆して全てが終わる。

 圧倒的な絶望が村を包み込む中。

 感情を失ったDEATH4――龍魔呂さんは、それでもただ無機質に、迫り来る爆弾の化け物を見上げていた。

読んでいただきありがとうございます。

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