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『無能と追放された令嬢、辺境の強面料理人に拾われる。極上ご飯と規格外の溺愛で満たされ、私を捨てた国は親友が滅ぼすそうです』  作者: 月神世一


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EP 7

キュララの暴露配信と、ルナの天然大崩壊(お花畑の魔物たち)

「な、なんだよこれ……! 聞いてないぞ、こんなの……っ!」

 ポポロ村を見下ろす小高い丘の上。

 隠しカメラの前で『悲劇のヒーロー』を演じていた勇者ゼロス・ディバインは、目の前で繰り広げられている光景に、完全に言葉を失っていた。

 彼がヤラセ配信のために誘導したはずの魔物の大群は、ポポロ村の分厚い防壁に指一本触れることもできず、ドワーフ製の魔導バズーカと四連装魔導対空砲の圧倒的な弾幕によって、文字通り『一方的に蹂躙』されていたのだ。

 悲鳴を上げて逃げ惑うのは村人ではなく、魔物たちの方である。

 ゼロスの配信画面の空中に浮かぶコメント欄も、当初の『勇者様助けて!』という悲痛な声から、急速に困惑の色へと変わっていった。

『……あれ? ポポロ村、めちゃくちゃ強くね?』

『っていうか、魔導戦車まであるんだけど……帝国の正規軍より火力エグくない?』

『勇者様、助けに行く必要なくね?』

『むしろ魔物の方が可哀想になってきたんだが……』

「ち、違う! これは、あの野蛮な村の連中が、卑怯な兵器を使って魔物をいたぶっているのです! 私は、あの野蛮人たちから聖女リリアナ殿を……っ!」

 ゼロスが焦ってカメラに向かって言い訳を並べ立てようとした、まさにその時だった。

『――はーい! 全次元のリスナーのみんな、お待たせしましたーっ!』

 突如として、ゼロスの配信画面(ゴッドチューブ)の横に、別の配信枠が『強制コラボ』の形で割り込んできた。

 そこに映っていたのは、背中に真っ白な天使の羽を生やし、聖騎士の鎧を可愛らしく着こなしたゴッドチューバー、キュララ・アルセルラだった。

「な、なんだ貴様は!? なぜ私の神聖な配信に割り込んでくる!」

 ゼロスが激怒して叫ぶ。

『ふふふっ。私はキュララ! みんなの真実を映し出す、正義のゴッドチューバーだよ☆ ……ねぇみんな、今この勇者さんが「悲劇の村」を配信してるけど、これって全部【ヤラセ】だって知ってた?』

 キュララの爆弾発言に、コメント欄が『は?』『ヤラセ?』『どういうこと?』と一気にざわめき始める。

「ば、馬鹿なことを言うな! 私がヤラセなど……っ!」

『証拠なら、バッチリ上空から撮らせてもらったよー! 特定班のみんな、出番だよ! ハイ、これ見て!』

 キュララが指を鳴らすと、画面が切り替わった。

 そこに映し出されたのは、数十分前の映像。

 ゼロスが一人テントの中で下劣な笑みを浮かべながら、『エンジェルすまーとふぉん』の裏アプリを操作し、魔物をポポロ村へ誘導している姿が、高画質のズームでドアップに抜かれていたのだ。

『よし、まずは手始めに……ロックバイソンとトライバードの群れを差し向けるとするか。村の連中が何人死のうが知ったことじゃねぇ。俺の配信(ビジネス)の最高のネタにしてやるぜ!』

 映像の中のゼロスが、ゲスな声で言い放つ。

 さらに、彼がポイ捨てした『ポポロシガー』を厚底ブーツで踏み躙る姿まで、完璧に放送されてしまった。

「あ……あぁ……っ!?」

 ゼロスの顔から、完全に血の気が引いた。

『はい、というわけで! この魔物襲撃事件は、ぜーんぶこの「厚底偽善勇者」の自作自演でしたー! 村が襲われてるのを安全圏から高みの見物して、スパチャ稼ぎしようとしてたんだよ! 最低だよねー!』

 キュララがカメラに向かってウインクを決める。

 ゴッドチューブのコメント欄は、一瞬の静寂の後、大爆発を起こした。

『うわぁぁぁ……マジかよ。最低すぎる』

『自分から魔物けしかけておいて「悲劇です」とかwww』

『ただの放火魔(マッチポンプ)じゃねーか!』

『タバコポイ捨てからの厚底ブーツ、ダサすぎて草』

『返金しろ! 俺のスパチャ返せ詐欺師!』

『特定班スゲーwww こいつの実家と所属ギルドの住所特定したわww』

 称賛の嵐から一転、全次元規模の大炎上。

 ゴッドチューブの規約違反通報が殺到し、ゼロスの『評価レート』が凄まじい勢いで暴落していく。

 彼が必死に築き上げてきた光の勇者としての虚像が、下級天使のゴッドチューバーによって、たった数分で完全なる『デジタルタトゥー』として刻み込まれてしまったのだ。

「ち、違う! これはディープフェイクだ! 私を陥れるための罠だァァァッ!」

 ゼロスはカメラに向かって泣き叫ぶが、もう誰一人として彼の言葉に耳を貸す者はいなかった。

 ◆◆◆

 一方、その頃。

 ポポロ村の裏手にある農地エリアでは、防壁の正面から逃げ出した魔物の一部――知能の高い『ゴブリン・ハイロード』の一団が、こっそりと防衛の手薄な場所から村への侵入を試みていた。

「ギギギ……正面ノ大砲ハヤバイ。コッチカラ、人間ドモヲ皆殺シニシテヤル……」

 凶悪な棍棒を持ったゴブリンたちが、よだれを垂らしながら村の畑へと足を踏み入れた。

 だが、彼らの前に、ふわりとしたお嬢様ドレスを着た一人のエルフの少女が、呑気にジョウロで水を撒きながら立っていた。

 次期エルフ女王候補であり、世界樹の愛し子――ルナ・シンフォニアである。

「あら? お客さんかしら?」

 ルナちゃんは、凶悪な魔物の群れを前にしても、全く怯えることなく首を傾げた。

「ギギャハハ! イイ女ガイルゾ! 捕マエテ、俺タチノ慰ミ者ニシテヤル!」

 ゴブリンたちが下劣な笑い声を上げ、一斉にルナちゃんに向かって飛びかかろうとした。

 しかし。ルナちゃんは、ふふっと優しく微笑んだ。

「ダメよ、村の畑を荒らしちゃ。……でも、あなたたち、なんだかお腹が空いていて可哀想ね。いいわ、私が『素敵なおもてなし』をしてあげる」

 ルナちゃんが、持っていた世界樹の杖を地面にトンッと突いた。

 その瞬間。

 ボコンッ! ボボボコンッ!!

 ゴブリンたちの足元の土が爆発的に盛り上がり、そこから、毒々しい極彩色の花を咲かせた巨大な食虫植物が、無数に姿を現したのだ。

 ルナちゃんの得意魔法の一つ、幻覚催眠植物『ハッピー・ドリーム』である。

「ギギャッ!?」

「ナ、ナンダコレハ!?」

 驚くゴブリンたちに、植物から伸びた無数の触手が鞭のように絡みついた。

 ズチュッ! と鈍い音を立てて、触手の先端にある針がゴブリンたちの首筋に突き刺さる。

「うふふ。それ、とっても気持ちのいい夢が見られる特別なお花なの。いっぱい楽しんでね」

 ルナちゃんの天然の善意(悪意ゼロ)から放たれた、恐るべき精神汚染魔法。

 針から直接、極上の幻覚成分と催眠成分を注入されたゴブリンたちは、武器をポロリと落とし、その場にヘナヘナと座り込んでしまった。

「アァ……イイ……」

「オンナ……サケ……肉ガ、イッパイアルゾォ……」

「俺ァ……王様ダァ……エヘヘヘヘ……」

 凶悪だったゴブリン・ハイロードたちが、瞳孔を開き、だらしなくよだれを垂らしながら、虚空に向かって抱きついたり、ニヤニヤと笑い転げたりし始めた。

 彼らの脳内では今、酒と女と財宝に囲まれた、夢のような絶頂の疑似体験が繰り広げられているのだ。

 物理的なダメージは一切ない。しかし、戦意など完全に消え失せ、もはやただの『幸せな廃人』と化している。

「よかった、みんなとっても嬉しそうね!」

 ルナちゃんは、よだれを垂らして転がるゴブリンたちを見下ろし、パチンと手を合わせて満足げに微笑んだ。

 その光景を、防壁の上から見ていたキャルルちゃんが、額に汗を浮かべてため息をついた。

「……ある意味、龍魔呂のガトリングよりエグいね、あれ。絶対にあのお花畑には入りたくないよ」

「ルナちゃん、本気で良いことしたって思ってるから……止められないんですよね」

 私も、幸せそうに廃人化していく魔物たちを見て、少しだけ同情してしまった。

 かくして、勇者ゼロスが誘導した魔物の大群は、正面はポポロ村の圧倒的火力によって粉砕され、裏手はルナちゃんの天然お花畑魔法によって完全無力化されるという、一方的すぎる結末を迎えた。

 ◆◆◆

 丘の上のテント。

 暴露配信によって大炎上し、魔物の襲撃も完全に失敗に終わったゼロスは、膝から崩れ落ち、頭を抱えていた。

「嘘だ……こんなの嘘だ! 俺の完璧な計画が……金と名声が……っ!」

 エンジェルすまーとふぉんの画面には、規約違反による『アカウント凍結』の文字が冷酷に表示されている。

『――チッ。使えねぇゴミが』

 突如、虚空から炎上神ワイズの冷酷な声が響いた。

「ワ、ワイズ様! どうか、どうかもう一度チャンスを! 課金して、もっと強力な魔物を――」

『アホか。お前のアカウントはもう死んだんだよ。……だが、俺のPVを下げたまま終わらせるわけにはいかねぇな』

 ゼロスの足元に、ドス黒い魔法陣が浮かび上がった。

「えっ……? ワ、ワイズ様……? 何を……」

『お前みたいな厚底の三流役者でも、最後くらいは派手な「見せ場(ヘイト役)」を作って散れ。……神の呪毒、たっぷり味わいな』

「ぎゃあああああああああああっ!?」

 ゼロスの絶叫が、丘の上に響き渡った。

 神の悪意によって、自らの欲望のツケを払わされることになった哀れな偽善者。

 だが、彼の肉体が変貌を遂げ、ポポロ村へ向けて本当の脅威となって襲いかかってくるまで、あとわずかな時間しか残されていなかった。

読んでいただきありがとうございます。

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