EP 12
神機融合。真紅の鬼神と、愛を貫く一刀両断
――ピシャァァァァァァンッ!!!!
地獄のドス黒い空を、千の太陽を集めたような眩い紫色の閃光が引き裂いた。
轟く雷鳴は、物理的な破壊力となって賽の河原を揺るがし、閻魔大王から放たれていた絶対的な死の重圧(神威)を、一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
「はっ……ぁっ……」
空気が、吸える。
地面に這いつくばっていた私とロードさん、良樹さんは、重力から解放されて荒い息を吐きながら、空を見上げた。
『な、何事だ!? 我が地獄の結界を、外側から力業で破るなど……っ!』
閻魔大王が、振り下ろそうとしていた巨大な錫杖の動きを止め、驚愕に目を見開く。
降り注ぐ紫色の雷光の中。
そこから、羽のように軽やかに地獄の大地へと舞い降りたのは、一人の少女だった。
見慣れたショートパンツにボブカット。しかし、彼女の周囲には神々しい紫電の龍が何重にもとぐろを巻き、その瞳には、この世の全ての理をひれ伏させるほどの、絶対的な神の威厳が宿っていた。
「ヤッホー、たつまろ。リリ。……遅くなってごめんね。でも、一番いいところで間に合ったでしょ?」
振り返り、悪戯っぽくウインクをして見せたのは、紛れもなく私の親友。
神界最強の武闘派神であり、龍魔呂さんの幼馴染――雷帝神ユイちゃんだった。
『な……貴様、その神威……帝釈天の系譜か!?』
閻魔大王が、信じられないものを見るように声を荒げた。
『神界の上位に座す者が、何故、輪廻を乱す人間の味方をする!? 彼奴らは、我ら神が定めた死の理を破壊する大罪人だぞ!』
閻魔の正論。
しかし、ユイちゃんは鼻でふっと笑い、一切の迷いなく言い放った。
「理? そんなもの、僕の知ったことじゃないよ」
『何だと……!?』
「僕がここにいる理由は、たった一つ。……僕が、たつまろやリリアナや、みんなのことが大好きで、愛してるからさ」
ユイちゃんは、優しい眼差しで、ボロボロになったラビークを見上げた。
かつて、彼女が孤独な生贄の巫女だった時。誰もが彼女を特別扱いし、腫れ物のように扱う中、たった一人だけ「弱い者を虐めるな」と彼女を庇い、大人たちに立ち向かってくれた幼い少年の背中。
神の理などよりも、そのたった一つの温かい記憶の方が、彼女にとってはよほど重く、尊いものだったのだ。
「あの日、たつまろは僕の盾になってくれた。だから今度は……僕が、たつまろの盾になる番だ!」
ユイちゃんの身体が、眩い紫色の雷光へと変化した。
彼女はそのまま、一直線にラビークの胸部ハッチ――龍魔呂さんのいるコックピットへと飛び込んでいった。
「ユイ……お前っ!」
『フフッ。たつまろ、僕の神の権能、全部貸してあげる。……一緒に、こんな理不尽な地獄、ぶち壊そう!』
――ズガァァァァァァンッ!!!!
神と人が、一つに交わる。
次の瞬間、ラビークの機体から、かつてないほどの凄まじいエネルギーが爆発的に噴き出した。
ひしゃげて砕け散っていた両腕の装甲が、紫色の雷によって瞬時に修復・再構成されていく。
純白だったヒイロガネの装甲は、龍魔呂さんの『赤黒い闘気』と、ユイちゃんの『紫の神雷』が完全に融合し、ドクドクと脈打つような【真紅】へと染まり上がった。
『ヒャハハハハハッ!! 見ろォ! 神と科学と人間の執念が産み出した、究極のイレギュラーだァ!!』
通信越しに、ガジェットさんが狂喜乱舞する声が響く。
立ち上がった巨人は、もはやただの機神ではない。
背部には紫電の光輪が浮かび上がり、全身から業火のような真紅の闘気を立ち昇らせる――『真紅の鬼神』であった。
『馬鹿な……神たる者が、人間の機械と融合して刃を向けるというのかァァッ!!』
閻魔大王が、激昂して巨大な錫杖を振り下ろした。
先ほど、ラビークの装甲を紙切れのように叩き潰した、絶対的な『死の裁き』の一撃。
しかし。
真紅の鬼神は、回避すらしようとしなかった。
『……遅ぇよ』
コックピットの中から、龍魔呂さんの低く、冷酷な声が響く。
真紅の鬼神が、右腕を軽く天に掲げた。
ただそれだけで。
ガガァァァァンッ!!! と。
天を衝くほどの質量を持った閻魔の錫杖が、鬼神の右手のひらで、ピタリと受け止められてしまったのだ。
『なっ……!?』
『理がなんだ。神がなんだ。……俺の女と弟を泣かせた罪、お前の命で精算しろ』
パキ、パキパキッ……!
真紅の鬼神が右手に力を込めると、神の武具であるはずの巨大な錫杖に亀裂が走り、無惨に砕け散ってしまった。
『あり得ぬ……! 我が、我が冥界の絶対法則が、ただの暴力の前に……ッ!』
「いくぜ、ガジェット!」
『おうさァ! とっておきの【大業物】だ! 使ってやりなァ!!』
コンテナから、一本の巨大な剣が射出された。
いや、それはもはや剣という枠に収まるものではなかった。刀身からプラズマの業火を噴出させる、超巨大な斬艦刀――『無量大数獄炎刀』。
真紅の鬼神が、その大剣を両手でガッチリと握りしめる。
龍魔呂さんの赤黒い闘気と、ユイちゃんの神の雷が刀身に注ぎ込まれ、炎は数百メートルの長さにまで膨れ上がった。
『消え失せろ、クソ神』
コックピットの中で、龍魔呂さんが両腕を大きく振りかぶる。
それは、鬼神流の全武術の粋を集め、神の力で限界突破させた、究極の必殺技。
『鬼神将――――ッ!!』
ズンッ!!! と。
真紅の鬼神が、琉球古武術の『縮地』を発動した。
空間そのものが圧縮され、巨体が閻魔大王の懐へと一瞬にしてワープ(転移)する。
『バ、馬鹿なあああああああぁぁぁぁッ!!!!』
閻魔大王が、絶望の叫びを上げた。
だが、時はすでに遅い。
『――獄炎斬り(ごくえんぎり)!!!!』
真紅の光の帯が、地獄の暗闇を、そして閻魔大王の巨躯を、横一文字に完璧に両断した。
一秒、二秒。
時間が止まったかのような静寂。
やがて、両断された閻魔大王の胸の中心から、十字の形をした赤黒いプラズマの爆発が、太陽のプロミネンスのように噴き出した。
『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?!?』
神の悲鳴が、地獄の底に響き渡る。
閻魔大王の上半身がゆっくりとズレ落ち、その巨躯は、内側から膨張する獄炎と雷光によって、万の欠片どころか、原子の塵となって完全に崩壊していった。
爆発の閃光が賽の河原を白く染め上げ、暴風が全てを吹き飛ばす。
「やった……っ! 龍魔呂さんッ!」
「うおぉぉぉぉっ! 本当に神様をぶっ斬りおったでござるゥゥッ!」
「あ、アカン……ワテ、とんでもない連中と組んでしもたんやな……」
光が収まった後。
そこには、両断された閻魔大王の跡地で、プラズマの炎を放つ大剣を悠然と下ろす、真紅の鬼神の姿があった。
地獄の絶対的支配者が、一人の人間の執念と、神の愛の前に、完全に敗北した瞬間だった。
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