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『無能と追放された令嬢、辺境の強面料理人に拾われる。極上ご飯と規格外の溺愛で満たされ、私を捨てた国は親友が滅ぼすそうです』  作者: 月神世一


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EP 12

王都崩壊と雷帝神の審判(精神的ざまぁの極致)

 ポポロ村の上空で、合成死蟲将軍機が大爆発を起こしてから数時間後のこと。

 エスター王国の王太子アルベルトは、自ら数千の軍勢を率いて、ポポロ村へと続く街道を行軍していた。

「急げッ! あの大爆発こそ、リリアナが魔獣と結託してこの国を滅ぼそうとしている証拠だ! あの悪女を捕らえ、その身を八つ裂きにしてくれるわ!」

 豪奢な馬車の中から、アルベルトは目を血走らせて叫んだ。

 彼の言葉は、完全なこじつけだった。本当の目的はただ一つ。自分たちが「無能」だと捨てたリリアナが、実は国土を豊かにしていた『大聖女』であったと気づき、なんとしてでも彼女を連れ戻して、再び自分たちの都合の良い奴隷として酷使するためである。

 しかし、行軍する王国軍の兵士たちの足取りはひどく重かった。

 リリアナが国を去ってから数日。王都の土は枯れ果て、備蓄されていた食糧すらも謎の腐敗を遂げ、兵士たちにはまともな食事が支給されていなかったのだ。

 皆が疲労と空腹で限界を迎えている中、アルベルトだけが「リリアナさえ連れ戻せば全てが元通りになる。そして俺は偉大な王となるのだ」と、狂ったように栄光の夢に縋り付いていた。

「殿下ッ! 前方に……何者かが立ち塞がっております!」

 先陣を切っていた騎士からの報告に、アルベルトは眉をひそめ、馬車の窓から身を乗り出した。

 街道のど真ん中。数千の軍勢を前にして、たった一人で立ち塞がっている影があった。

 それは、活発そうなボブカットに、動きやすいショートパンツ姿の、一人の小柄な少女だった。

「なんだ、あの小娘は? 邪魔だ、踏み潰して進めッ!」

「待てよ、愚か者」

 ――ビリッ。

 少女がぽつりと呟いた瞬間。

 アルベルトの耳元で、空気が爆ぜるような音がした。

 いや、空気だけではない。数千の軍勢が乗る馬たちが、一斉に泡を吹いてその場に崩れ落ちたのだ。

「な、なんだッ!? 何が起きた!?」

 馬車が大きく傾き、アルベルトは無様に地面へと転がり落ちた。

 這い上がろうとして、彼は自分の身体が小刻みに震え、鉛のように重くなっていることに気づいた。周囲の兵士たちも皆、見えない巨大な圧力に押し潰されたように、地面に這いつくばっている。

「やれやれ。他人の国(庭)だから控えめに神威を出したつもりだったけど……お前ら、驚くほど脆弱だね」

 コツン、コツン。

 軽やかな足音を立てて、少女――神界からお忍びでやってきている『雷帝神ユイ』が、アルベルトを見下ろしながら歩み寄ってきた。

 彼女の周囲には、紫色の稲妻がパチパチと弾け、彼女の瞳には、万物を平伏させる絶対的な傲慢さが宿っていた。

「き、貴様……何者だ……ッ! 魔法使いか!? 我々はエスター王国の――」

「知ってるよ。僕の親友を泥水の中に蹴り飛ばした、世界で一番惨めで愚かなゴミクズたちでしょ?」

 ユイが冷たく笑うと、アルベルトの顔が怒りで真っ赤に染まった。

「貴様ァッ! 私が誰に向かって口を利いているかわかっているのか! 次期国王たるこの私を侮辱――」

「ねえ。お前、まだ自分が『王太子』だなんていう、くだらない寝言を信じてるの?」

 ユイは、可哀想な虫を見るような目でアルベルトを見下ろした。

「リリがいないお前らの国が、今どうなってるか。……特別に見せてあげるよ」

 ユイがパチン、と指を鳴らした。

 すると、上空の空気が歪み、巨大な水のスクリーンが形成された。そこに映し出されたのは――エスター王国の『現在』の王都の姿だった。

「なっ……!?」

 アルベルトは、スクリーンに映った光景を見て、息を呑んだ。

 美しい白亜の王城は、黒煙を上げて燃え上がっていた。

 枯れ果てた国土。水が干上がった運河。飢えと渇きで暴徒と化した数万の市民たちが、王城の門を打ち破り、城内へと雪崩れ込んでいる。

『ふざけるな王族どもッ! 俺たちの食い物を返しやがれ!』

『大聖女様を追放したせいだ! あの馬鹿な王太子のせいで、俺たちは皆殺しにされるんだ!』

 怒り狂った市民たちが、王族の財宝を略奪し、城を破壊していく。

 その中で、リリアナから婚約者の座を奪った男爵令嬢マリアが、泥だらけになって逃げ惑い、暴徒たちに髪を掴まれて引きずり回されている姿が映し出された。

『いやぁぁぁっ! 離して! 私は次期王妃よ! 光魔法で目を潰されたいの!?』

『やかましい! お前の光魔法で、枯れた小麦が育つのかよッ! この役立たずの泥棒猫め!』

 市民たちの怒号と、マリアの惨めな悲鳴。

 栄華を極めたエスター王国は、たった数日で、完全に崩壊していたのだ。

「あ……あぁ……嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!」

 アルベルトは頭を抱え、獣のような叫び声を上げた。

 彼の誇り。彼の王座。彼の未来。その全てが、音を立てて崩れ去っていく。

「嘘じゃないよ。お前らが『少し植物を元気にするだけ』って笑って捨てたリリはね……この世界を支える、規格外の豊穣の大聖女だったんだよ」

 ユイは、絶望に染まるアルベルトの顔を覗き込み、極上の笑みを浮かべた。

「お前らがゴミのように捨てた宝物は、今、世界で一番強くて優しい男の腕の中で、極上のおいしいご飯を食べて、心の底から幸せに笑ってる。……でも、お前らの国はもう終わり。リリがいなくなったその日から、お前らは緩やかな『死』を与えられたんだ」

「ひっ……!」

「どう? 自分がどれだけ馬鹿なことをしたか、理解できた?」

 アルベルトは、ガタガタと震えながら、ゆっくりとユイの前に這いつくばった。

 彼の目から、ボロボロと大粒の涙と鼻水が流れ落ちる。

 もはや、王太子のプライドなど欠片も残っていなかった。

「た、頼む……! リリアナに、リリアナに会わせてくれ! 私が悪かった、私が愚かだったッ! 彼女を王妃にする! いや、女王として迎える! だから、あの力で国を、私の国を救ってくれぇぇッ!」

 泥に額を擦り付け、惨めに許しを乞うアルベルト。

 女性読者……いや、神であるユイにとって、これほど胸のすくような『ざまぁ』の光景はない。

 しかし、ユイの瞳に宿ったのは、同情ではなく、絶対零度の殺意だった。

「……汚い声で、僕の親友の名前を呼ぶなよ。吐き気がする」

 ユイが右手を天に掲げた。

 その瞬間、晴れ渡っていた空が急激に真っ暗な分厚い雷雲に覆われ、巨大な紫色の雷(いかずち)が竜のようにうねり始めた。

「ひぃぃぃっ!?」

「あ、悪魔だ……神の怒りだ……っ!」

 兵士たちが恐怖に悲鳴を上げる中、ユイは無慈悲に宣告した。

「リリは優しすぎるから、お前らに復讐なんて望まない。でもね、僕とたつまろは違う。あの子を傷つけた罪は、お前らの魂を消し炭にしてもまだ足りないくらい重いんだよ」

 ゴロゴロゴロ……ッ!!

 天が割れるような轟音。

「お前らに、リリの治癒を受ける資格なんかない。その泥の中で、全てを失った惨めな罪人として、一生後悔しながら死んでいきな」

 ――【神雷・裁(しんらい・さばき)】。

 ユイが腕を振り下ろした瞬間。

 天から、直径数十メートルにも及ぶ極太の紫色の雷が、アルベルトと数千の軍勢の頭上へと直撃した。

 カッ……!!!!

 網膜を焼くような閃光と、鼓膜を破壊する轟音。

 しかし、その雷は彼らの命を奪うことはなかった。

 光が収まった後。街道に残されていたのは――着ていた鎧も、握っていた武器も、王家の紋章が入った豪奢な衣服も、全てが原子レベルで『消滅』させられ、下着一枚の丸裸で泥だらけになって気を失っている、アルベルトと兵士たちの惨めな姿だった。

 武器も防具もなく、帰るべき国は暴徒に支配され、身分を証明するものは何一つ残されていない。

 ただの『無力な放浪者』へと成り下がった彼らを待っているのは、野盗に狩られるか、飢えて野垂れ死ぬかという、完全なる社会的な抹殺(ルビ:死)であった。

「……ふぅ、スッキリした。たつまろには内緒にしておこっと」

 ユイは鼻歌交じりにそう呟くと、気絶しているアルベルトの顔面をわざと踏みつけながら歩き出し、リリアナたちの待つポポロ村へと、軽やかな足取りで帰っていくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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