第八話 魔法使いたい
「それ、私やりますよ。」
ルカはハリーの持つ報告書を指差す。
「報告書のファイリングですよね。
他にも雑用とか、言ってください。」
「あぁ、ありがとう。
そしたら、アレとかコレとか•••。」
「わかりました!」
ハリーは社外からのメールをチェックする。
ルカがハリーの横に戻る。
「あれ?•••どうかした?』
「いえ、終わりました!」
「え?•••もう?」
「はい!」
「そしたら次は、アレとコレとソレを•••。」
「わかりました!」
「終わりました!」
「早っ。」
ハリーは少し考える。
「•••ふむ。
このメール、ちょっと読んでみて。」
ルカはハリーのパソコン画面をのぞく。
「なるほどー。
食品表示法とアレルギーについて。」
「え?
もう読み終わったの?」
ルカはスマートフォンをハリーに向ける。
食品表示法とアレルギーの説明文。
すでに表示されている。
続けてスマートフォンに話しかける。
「食品アレルギーを過度に気にする方の問い合わせに対する適切な返答の例をお願いします。」
スマートフォンの画面を見る。
「なるほどー。
こういう感じなら•••。
この会社の場合だと•••。」
ルカは立ち上がる。
息を吸い込む。
目を閉じる。
スマートフォンに言葉を発する。
「この度はお問合せいただき誠に•••。
•••これからもどうぞ安心して当社の食品をご利用ください。」
澄んだ声。
柔らかいトーン。
言葉の端に京都のはんなり感がある。
「ほいっと。
いま、ハリーさん宛に送信しました。
録音した音声ファイルと読み上げテキストです。」
「え?
音声ファイル?」
「今後、省人化で使えると思いますよ。」
「省人化•••。」
「返信メールも仕上げちゃいますね。
ハリーさんは次のメールをチェックしてください。」
「あ、あぁ。
わかった。
あ、送信する前にオレ、確認するからね。」
「モチのロンどすー。」
カタタタン、タタン。
キーボードを軽やかに叩く。
⸻
午前の仕事が終わる。
ハリーの腕時計は12時30分。
ランチに向かう。
「二人でやれば早いですよね。」
「いや!
二人だからとかじゃないよ。
ルカさん、スゴすぎ!
まるで魔法!」
「これくらい、今の若者は当然なんですよ。」
「でも、ただ早いだけじゃない。
後でまた使えるってのがスゴイ!」
「それも当然のことなんですってばー。
企画部の彼らも絶対そうですよー。」
「え?そうなの?」
ルカは立ち止まる。
ハリーの目をじっと見る。
「•••気がついていないんですか?」
タッタッタッタッ。
ミーナが小走りでやってくる。
「ハリーさん、ルカさん!
ランチですかー、私も今からですー。」
「ミーナさん!
元気そうでよかったー。」
「ルカさん、心配してくれてたんですね。
ありがとうー。」
三人は食堂に入る。
「メグさん、こんにちはー!
今日は、春野菜と海老のお料理ですよね。
楽しみにして来ました!
ヴァプールって何ですか?」
「蒸す料理だよ。
春の野菜はシンプルが一番!
そこの、アイオリソースってのを付けて食べなよ。
ご飯にもパンにも合うよ。」
「うふ、美味しそうですっ。
昨日のチキンの手羽元、ほろほろでした。
どうやってあんな風に?」
ルカとメグの会話が盛り上がる。
「ミーナさん、仕事は大丈夫そう?」
ハリーが問いかける。
「昨日、カナエさんが手伝ってくれたおかげで、ちょっと安心したの。
在庫増えてて。
でも、先月の減産分が大きくって。」
「そうだよね。
あれを挽回するの、かなり厳しいよね。
うーん、どうしたもんかなぁ。」
⸻
三人はテーブルに着く。
ルカとミーナはフォカッチャ。
ハリーはライス。
そして、ふりかけ。
ルカの眉がハの字になる。
「•••うーん、ふりかけ。
何だか、妙に気になりますね。」
「このふりかけ、メグさん特製なんだよ。
そのフォカッチャ、あの生地なんだって?
そっちも気になるなー。」
ミーナが尋ねる。
「さっき、何話してたんですかー?
ここ来る時。
ハリーさん、めずらしく興奮気味でしたよ。」
「え?
•••そうだったかな。
あー、そうだね。
ルカさんの仕事っぷりがね、まるで魔法のようでね。」
ハリーは、詳しく話す。
「そ、そ、そそそ、そんなにスゴイの!?」
ミーナの小柄な身体が前のめりになる。
「ええー、そんなことないですよ。
もう、大げさなんですよー、ハリーさんてば。」
「ル、ルカさん、ミーナにも•••。」
ルカの手を掴む。
両手で。
瞳が潤む。
「•••ミーナも、その魔法使いたい!
ミーナにも、ミーナにも教えてーーー。」
⸻
男の話声が聞こえてくる。
食堂の入り口。
サブローとジョー。
「メグ、お疲れー。
もう出来てるかい?」
「やっと来たの?
来るの遅いわよ。」
「あー、悪いな。
予定がちょっとクルっちまったんだ。
どれくらい待てば良い?」
「•••そりゃ当然、いつも通り。」
人差し指。
「1分だよ。」
サブローとジョーが顔を合わせる。
ニヤリ。
1分後。
料理が出来上がる。
コト、コト。
お皿が二枚。
「はいよ。
春野菜と海老の•••。」
少し小声。
「•••クリームパスタだよ。」




