第七話 全員の沈黙
「みんな、忙しい仕事のさなか、急に時間を割いてもらって申し訳ないね。」
会議室のテーブルに八人。
「急すぎるんじゃないの?
突然何よ、サブロー。」
社長の向かいのモニターに、カナエの姿が映る。
「おいおい、ハリー、カナエも呼んだのか。」
「すみません•••。
こういうのあったら、すぐに報告しろって言われていたので。
一応、お伝えしたら•••。」
社長のサブローはひたいに指を当てる。
気を改め、話し始める。
「いま、社内は人手不足。
特に生産管理部は作業者が少ない。
生産が追いついていない。
と言うのはみんな、知っているね。」
ハリーが口を開く。
「はい。
昨日もカナエさんが作業のお手伝いに。」
「そうよ。
忙しいのよ、とっても。」
サブローは頷く。
「今、社会では優秀な人材が辞めてしてしまう会社が多くなっている。
転職サイトの影響でな。
カイト、知ってるかい?」
「あ、はい。
そうですね。
良くSNSとかでも広告を見ます。
年収何百万とかって•••。」
「どう思う?」
「あー、いやー。
怪しいっす。」
「だよな。」
企画部の四人は顔を見合わせながら頷く。
「ハリーはどうだ?」
「あ、はい。
人材の募集については、部下と一緒に求人サイトの登録を行なっています。
転職サイトのことも話しています。」
「どんな感じ?」
「転職サイトは手数料が高いです。
この会社で取り入れるのは難しいと思います。
転職してすぐに辞めてしまうケースも多い、とか。」
「うん、そうか。
やっぱハリーはそうだよな。
安心だ。
なぁ、ジョー。」
常務のジョーが微笑む。
「そうだね。」
ハリーが続ける。
「求人広告は今、ほとんど効果ありません。
生産管理部はミーナさんに負担がかかっています。」
ルカは思い浮かべる。
掲示板。
名刺。
小走りに去る後ろ姿。
「•••そう、そこが問題なんだよな。
さっき常務と話していたんだ。
なぁ、ジョー。」
「そうだね。」
「えーと、すみません。」
カイトが手を上げる。
「これって、企画の会議でしたよね。」
サブローは企画部の四人の顔を眺める。
「あぁ、そうだ。
これは企画部の問題ではないな。
しかし•••。」
「会社の問題よ。」
カナエの声。
スピーカーから。
少しの沈黙。
⸻
話し合う。
他部署の問題。
自部署の問題。
会社の問題。
解決策。
社会のルール。
意見が飛び交う。
本音も。
建前も。
⸻
「•••よし、だいたい意見が出揃ったな。」
サブローが立ち上がる。
窓から外を見る。
「今から1分間、目をつむって考えてみてくれ。
口にできないこともあるだろうからな。」
全員の沈黙。
「よし、始め。」
チッ、チッ、チッ•••。
⸻
ハリーは思い浮かべる。
ミーナの顔。
そして、エナの顔。
大切な人。
大切な仕事。
会社に関わる人たち。
大切な関係。
⸻
「よし、終わり。」
サブローはゆっくり歩きながら話す。
「キミたちが今考えたことは、口にしなくて良い。
でも多分、誰かのことを考えただろう。
それを大事にしてくれ。
会議は以上だ。」
サブローは会議室を出る。
ジョーも追う。
パタン。
ドアが閉まる。
「か、カッコよー。」
カイトが口にする。
ハリーはモニターを見る。
ニガい顔のカナエ。
「えっとー、カナエさん、終了みたいです。」
「•••みんな、寒くない?
ごめんねー。
おー、さっぶー。」
⸻
ハリーとルカは企画部を出る。
「ルカさん、会議どうだった?」
歩きながら問いかける。
「なかなか面白かったですね。
企画部の仕事も、何やってるかわかった気がします。」
「あ、あれわかったの?
マーケティングとか、意味不明な言葉多かったけど。」
「大学で勉強してた分野ですからね。
それより、最後の1分。
あれ意外と効果的だと思いました。」
「そうだね。
なんか、ボスってやっぱりユニークな人だよね。
ルカさんは誰かの顔とか浮かんだりした?」
「そうですねー。
ミーナさんの今朝の表情とか、やっぱり浮かんできました。
あー、あと、メグさん。」
「メグさん?」
ハリーは腕時計を見る。
10時30分。
「もうお腹すいたの?
早すぎ。」
「ち、違いますよ!」
ルカはハリーの肩を押す。
「ミーナさん、一人で仕事していました。
でも、メグさんも一人なんですよね。
大変だなーって。」
ハリーは立ち止まる。
「一人で出来ることって、限界があるんだよね。」
「それはそうですよー。」
「•••誰もいなければ、それをわかってくれる人もいない。」
「•••そうですよ。」
無言になる二人。
とぼとぼ歩く。
次第に早くなる。
「あー、仕事が、進んでないー。」
ペースアップ。
ほぼ駆け足。
「ランチが、また遅くなるー!」




