第五話 敏腕マネージャー
ハリーの発声に、三人が一斉に動き出す。
手際良い動き。
生地を切り分ける。
塊を小さくしていく。
一つ一つ、重量を測る。
余分な量を細かくカット。
丸めながら生地の形を整える。
三人の工程はほとんど一緒。
真剣な眼差し。
小麦粉が舞う。
発酵の香りが漂う。
体感温度が1度上がる。
「うわぁ。
すごくキレイな、まん丸になってる。」
ルカの言葉にも三人は反応しない。
「30秒。」
ハリーが告げる。
ルカはテーブルの前を動く。
右へ、左へ。
ゆっくり。
「10秒。
5秒、4、3、2、1。
はい!
そこまでー!」
タン!
カナエの最後の一個がトレーに乗った。
「ふうー、ギリギリ仕上がった!」
「いーえ。
ギリギリ時間外ですよー。」
「ちょっとー、いいじゃないのよー。」
「さて、計量しましょう、計量。」
カナエはルカを見る。
スマートフォンを構えている。
「あらー、撮影してくれていたのね。
記録用のカメラもあったのに。」
ピッ。
カナエはカメラを止める。
「すみません、勝手に。
表面がキレイに仕上がっていくのを見ていたら、つい。」
「やり方を知りたくなったのね。
どんな画が撮れているのかしら。
後で私にも見せてね。」
マスク越しでも笑顔なのがわかる。
「計量が終わりました。
結果も出ましたので、発表しまーす。」
「おお、どう?どう?」
「1位は•••。」
一拍の間。
「リッくん。」
「よしゃー!」
若い男性の一人が右手を高々と上げる。
「えー!
私が負けたー!」
カナエの肩が下がる。
「ついに追いつかれましたね。
でも、リッくん、キミすごいね。
頑張っているんだね。」
「ありがとうございます、ハリーさん!
大きさと重さの感じとか、コツがわかった気がします。」
「本当にリッくん、たいしたものよ。
成長したわね。
よし、後で動画見ながら検証するわよ。」
カナエは生地の残りを丸める。
「ありがとハリー。
ルカさんも。
動画の検証とレポート、後で送るから。
また共有よろしくね。」
「はい、わかりました。
よろしくお願いします。」
⸻
二人は他の設備を見て周る。
パスタ製造ライン。
梱包室。
倉庫。
ガラガラ•••。
ガチャン、ガチャン。
いろんな音が重なる。
「生産管理部は、この会社の中心部だよ。」
「賑やかで活気を感じます。」
「敏腕マネージャーが仕切ってるんだ。」
品質管理室。
事務室。
賑やかな音が遠くなる。
歩きながら、ルカが気づく。
事務室の前の通路の壁。
大きな掲示板に多くの紙。
カラフルで目を引く。
『KAIZEN 2026』
大きな表。
たくさんの付箋が貼られている。
「なんですか?これ。」
「あぁ、それ。
作業者のみんなの業務改善。
仕事をしていて気づいたこととかを共有しているんだ。」
ルカが1枚のカードを読む。
「今日寝坊しました!
皆さんすみませんでした!
6月1日、リク。」
「あはは。
さっきのリッくんだ。」
隣のカードを読む。
「倉庫の棚の札が取れてしまっています。
A6ー5です。
6月3日、マサル。」
「ははは。
業務改善ってほどじゃないけど、まぁいいんじゃない?
これ、意外と役に立ってるんだよ。」
カチャ。
事務所のドアが開く。
小柄な若い女性が一人出てくる。
「あ、ハリーさんだった。
声がすると思ったら。」
「お疲れ様です、ミーナさん。
今、新人のルカさんと、社内を見学しているところなんですよ。」
ミーナはメガネをかけ直して、ルカをじっと見る。
「えーと、ルカです。
よろしくお願いします。」
ミーナは突然、小走りで事務所のデスクに戻る。
「あ、あれ?
ミーナさん?」
そして、またすぐにハリーとルカの前に立つ。
両手で名刺を差し出す。
「ミーナです。」
⸻
生産管理部。
マネージャー。




