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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
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第四話 丸まった形

「あら、今日は少し遅いわね。」


メグがハリーに声を掛ける。


「あぁ、ちょっと仕事の前に、新人のルカさんと話をしていたもので。」


「こんにちはー、メグさん。」


「あぁ、こんにちは、ルカさん。

今日はチキンカレーだよ。」


「すっごい、良い香り。

充満してますよー。

昨日のサーモンも美味しかったです。

今日も楽しみにして来ました!」


「ふふ、そうかい。

じゃ、すぐに用意するからね。

早くしないと、そろそろヤツらが来ちまう時間だ。」


「ヤツら?」


「おっと、もうそんな時間に。

彼らは12時45分くらいに来るんだ。」


「時間が決まっているんですか?」


「小さい食堂だからね。

時間を分けるようにしているんだよ。」


「はいよ、ハリー。

カレーだよ。

ちょっと味濃いだろうから、今日はふりかけ、無しにしておきなよ。」


「あー、そうですよね。」

「えー、カレーにはさすがに、ふりかけは無いですよね。」


「はははは。

ま、そうだよね。」

「まさか、掛ける人ですか?」

「いやー、どうだろうー。」


二人がテーブルに着く。

ガヤガヤと声が聞こえてくる。


「来たね。」

「ヤツらって、あの人たちですね。」

「そう、生産管理部だ。」


一人の女性を先頭に、男性達がゾロゾロ。


「ちわー。」

「んちわー。」


食堂の中が一気に賑やかになる。


「あー、ハリー。

何よ、可愛い子連れてー、社内でデートか?」


ハリーは立ち上がる。

「あ、カナエさん、えぇ!?

いやいや、違いますよー。

新人のルカさんです。

すみません、これから各部署回って紹介するつもりでした。」


ルカも立ち上がる。

「ルカです。

よろしくお願いします!」


「えーと、ルカさん、こちらの女性は•••」


「私は、カナエよ。

よろしくね。」


カナエは満面の笑みをルカに向ける。


「あー、そっか、あなたね。

あの、アドバントロンの。

とっても期待してるわよ。」


「え?

あ、はい。

頑張ります。」


カナエは男性達の方に戻って行く。

ハリーはそれを見送り、軽く礼をして席に着く。


「何だか、貫禄ある女性ですね。」


「ボスの奥様だよ。

そして、取締役副社長だ。」


「え?

•••えぇ!?」


ルカはハリーの顔を二度見した。

そしてカナエの方を見る。


「作業着、着てますよね?」

「時々、手伝いに来てくださるんだよ。

人手が足りない時にね。」


ルカは無言でカナエ達の方を見つめる。


「ねぇ、メグー、ちょっと味濃いんじゃないー?」

「そりゃ若い男の連中に合わせてんだよー。」


カナエとメグのやりとりが聞こえてくる。

ハリーはルカに声を掛ける。


「さ、食べないと。

冷めちゃうよ、チキンカレー。」



『生産管理部』


シューズの履き替え。

手指の消毒。

体温チェック。

作業着、マスク、キャップ、手袋着用。

入室管理シートへの記入。


ハリーとルカは生産工場に入る。


「ここは、ピザ生地の生産ラインだよ。」

「思ったよりコンパクトですね。」


「そうだね。

大量生産の工場では無いから、こじんまりしてるかもね。」


ウーン、ウーン。

機械音。


「あれは、生地を捏ねる機械。

あっちのあの箱で発酵。

この大きなテーブルで生地を分けて丸めるんだよ。」


ルカは息をいっぱいに吸い込む。

「パン屋さんと同じ香り。」


「小麦粉の発酵の香りだよ。

向こうには冷凍の設備があって、丸めた生地は急速冷凍機で凍らせるから、この香りも残るんだ。」


「丸まった形なんですか?」


「あぁ、そうそう。

伸ばさない状態の生地で商品にしているからね。」


「業務用食材って面白いですね。

具材やソースも載ってて、あとは焼くだけ、とかだと思ってました。」


「ピッツァって生地の伸ばし方で表情や食感が変わるんだよ。

そのお店の個性が出せる。」


「生地を伸ばす、という事にこだわっているお店。

そのための食材ってことですね。」

「そういうこと。」


奥からカナエがやって来る。


「あ、来たわねー。」

「カナエさん、お邪魔してます。」


「午前中に捏ねた試作の生地が、そろそろ良い頃ね。」


「試作の•••。

あぁ、企画部が進めていた全粒粉多めのやつですね。

もう生産段階に来てるんですね。」


「そうよ。

ピッツァだけじゃなくて、フォカッチャでもなかなか良かったわ。

あ、そうだ!

ねぇ、ハリー、これから若い子達とアレやるから審判やってよ。」


「あー、アレ。

分かりました。」


「ハリーさん、何ですか?

アレって。」


「生地を丸める作業の、競争。

1分間で何個できるか。」


「えぇ?」



大きな作業テーブル。


若い男性が二人。


カナエを中心に横一列。


それぞれの前に器具、材料が並ぶ。


切り分けのスケッパー。


電子重量測り。


トレー。


生地のかたまり。


小麦粉のケース。



ハリーが口火を切る。

「それでは、ピッツァ生地1分間でいくつ丸められるかレースです!」


「どんどんどん、ぱふぱふー。」

ルカ。


「•••あなた達、なかなか良いコンビね。」


「あ、サポート役は秘書の大事な仕事でしたので。」


ハリーのルール説明。

製品の規定規格は厳守。

作業工程は自由。

そして、動画記録。


「準備はよろしいでしょうか。」


ハリーは腕時計を見る。

チッ、チッ、チッ。


「Ready, GO!」

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