第三話 AIに?
ルカはハリーに封筒を差し出す。
「書いてきました。」
「あぁ、ありがとう。
履歴書だね。」
「手書きって、結構大変ですよね。
二回も失敗して書き直しました。」
「そうだよね。
日本ってこういうとこ、アナログっていうかなんていうか。」
ハリーは部下に告げる。
「ちょっと応接室使うね。」
二人は移動する。
封筒から中身を取り出す。
ハリーの目が大きく開く。
「え、めちゃくちゃ字、キレイ。」
「えへ、ありがとうございます。」
「習字とか、やってたの?」
「私、子供の頃は習い事とかしてなくて。
就職してから通信講座で習ったんですよー。」
「へぇー。
何だか、さすが秘書って感じの字だね。
写真も、よく写ってる。」
ルカは得意げに胸を張る。
「えーと、出身は京都。
関西なんだね。」
「はい、そうどすー。」
「うわ、リアル京都弁。
使い分けできるものなの?」
「時々、ごちゃ混ぜになることありますー。
けど、できるだけ標準で話すようにしてます。」
「なるほど、なるほど。
国立大、経営学部卒。
すごいね、ウチの会社じゃもったいない学歴だよね。」
「私、今は学歴で仕事を決めるつもりは無いんです。
経営とか学びましたけど、正直言って実感ないことばっかりで。」
「でも、秘書として会社の知識はあるわけだ。
オレも学んでみたいなぁ、そういうの。」
「うーん、会社で働いてたら、多分普通に学べる気がしますけど。」
「そうなの?」
「あ、すみません、適当に言ってしまいました。
失礼ですよね。
先輩上司に対してこんな発言。」
「あ、全然気にしないで良いよ。」
ハリーは書類に目を向ける。
「勤めていた会社、アドバントロン?
どんな会社だったの?」
「電気機器を製造している会社でした。
内容は話せないんですが、実際のところ私もよくわからない事ばかりです。」
「なるほど、社外秘。
辞めたとはいえ、守秘義務があるよね。」
ハリーは一通り書類に目を通す。
「ところで、なんで辞めちゃったの?
話せないなら無理に話さなくても良いけど。」
「それが、ですね。
配属を突然変えられてしまいまして。
異動になったのがショックで。」
「何か問題でも起こしちゃったのかなぁ。」
「その役員の話では、私がおしゃべりで正直すぎるからだと。」
「•••そ、それは。」
ハリーは言葉に詰まる。
そして、吹き出しながら話す。
「ぷっ。
ごめん笑うとこじゃないよね。
•••人としては素晴らしいこと。
しかし、秘書としては致命的だ、それ。」
「でもー、私、仕事の事はちゃんとしていたんですよ!
絶対、情報漏洩なんてしていないのにぃ。」
「そっか、そっか。
でも、確かに正直なとことか、話好きなとこはわかるし、良い性格だと思うよ。」
「私、悲しくって、バーで友達とやけ酒してたんですよー。
そしたら、この会社の社長さんが声かけてくれて。」
「あ、それで知り合ったってことなんだね。」
「そうなんです。
私が担当していた役員、だんだん私に仕事を任せてくれなくなっていたんです。
お茶を出したり、服装のコーディネートとかするくらいで。」
「仕事を任せてくれない?」
「私、多分、生成AIに仕事を奪われたんだと思うんです。」
「AIに?」
「AIのせいよ!AIのせいよ!
って言ってたら、その話し聞きたいって、社長さんが。
全然、何の根拠もなく、AIのせいにしていただけなんですけどね。」
「生成AIが、仕事を奪う、か。
なるほど。
ありえる話だよね。」
「私もチャッピー使って仕事してましたから、便利なのはよくわかります。
その役員にもそれを話していました。
きっと、その役員、自分でも使い出したんだと思うんです。」
「ふむ、なるほど。
そうかも知れないね。
役員に話していたために、墓穴を掘ってしまったって事かー。
うーん、あれ?
そういえばさ、AIって•••。」
ハリーは右手で顎の先をつまむ。
「AIって会社の情報入れちゃダメとか、聞いたことない?」
「え?」
チッ、チッ、チッ。
秒針の音。
ペチン。
ルカはひたいに手を当てる。
「あっちゃー!
そっちかー!」
「ぷっ。
ふはは!
いやいや、そんな話題があったよなーってだけだよ。」
「うーん、でも確かに。
それが情報漏洩になるって、可能性だけでも不安要素。
って、言えちゃいますよね。
はぁ〜。」
ルカはうな垂れる。
「ここの社長さんが言ってくれたんです。
責任が重い会社で働いていると心がすり減るって。
キミはもっと伸び伸び仕事ができる環境の方が向いてるって。」
ハリーは小さく、何度も頷く。
腕時計を見て、少し考える。
「そしたら、今度はこの会社について、話をするね。
1分待ってて。」
⸻
ハリーは一旦デスクに戻る。
部下と言葉を交わす。
ファイルを手にする。
会社概要。
組織図。
就業規則。
雇用契約書。




