第三十一話 欲しいもの
三台のテーブルに十一人が集う。
ピッツァが運ばれてくる。
しかし、皿を置くスペースが無い。
女性の給仕が戸惑う。
「おーい。」
カウンターの中から声。
店主が給仕に声を掛ける。
「あれ使いな。
アレ。」
「あ、はい!
アレですね!」
ハリーはカイトに尋ねる。
「アレって、なんだろな。」
「あぁ、オレ、知ってますよ。
大人数のパーティの時に使う台っすね。
皿を置くための。」
「へぇ、そう言うのがあるんだね。」
「店主の手作りなんですよ。
市販のは高くて、自分で工夫して作ったらしいっす。」
「そっか、カイトくんはこの店の事もよく知ってるんだね。」
「当然ですよ。
顧客の役に立つためには、顧客の事を良く知らなきゃ。
って、ボスに良く言われてるんで。」
女性給仕がテーブルに戻る。
サブローが伝える。
「みんな、空けてやってくれ。
テーブルの真ん中。」
「あ、ありがとうございます。」
給仕がサブローに微笑む。
そして台を置く。
金属のワイヤーで作られた、一本脚の小さなテーブル。
トン、トン、トン。
三脚、全て高さが異なる。
その上にピッツァの皿が置かれる。
「おお、テーブルの上にテーブル。
なんか、豪華な食卓みたいじゃん!」
「高さが違うっていうのがオシャレだね。
家にも欲しいかも。」
「画になるなぁ。
私、写真撮っちゃおう。」
ルカがスマートフォンをテーブルに向ける。
「あ、それなら。
えと、真上からが良い、ですよ。
皿の影が、写って。」
「お皿の、影?」
「うーん、と。
•••なんか、良い感じに、なります。」
カイトのアドバイス。
少し緊張がある。
「それ、どうやって撮るの?」
「えっと、シャッターを自動にして。
それで、えーと。」
カイトはスマートフォンを取り出す。
「やって、みますね。」
テーブルの上に高く持ち上げる。
水平になるようにする。
カシャ。
画面を見る。
「あ、ちょっとズレた、かな。」
ルカに見せる。
「あー!
良い感じ、良い感じ!
確かに、陰影のコントラストがキレイに見えるね!」
「ですよね!」
ルカはカイトを見る。
大きな瞳で。
カイトは目を逸らして、照れる。
「えー、ミーナにも見せてよ!」
ミーナが画面をのぞき込む。
「ほんとだー。
色がキレイ!」
「どれどれ。」
「あー、いいねいいね。」
みんなが見る。
「でもさ、食べかけってのがちょっとなぁ。」
「確かに。」
サブローが口を開く。
「良し。
だったら全部食べて、新しいのを注文しようじゃないか。」
「えぇ!?」
「食えるだろ、若い男が揃ってるんだから。」
「余裕っす。」
「余裕っす。」
リクとマサルの声が重なる。
二人、笑顔でガツガツ食べる。
⸻
ルカはスマートフォンを見る。
「•••なるほど、なるほど。」
「どうしたの、ルカ。」
「うん、私も撮ってみたんだけど、それをAIに送ったの。
さらに良く撮るためのアドバイスをもらった。」
「へぇ〜。
見せて見せて!」
ルカはミーナと一緒に読む。
「なるほどー。
こうやって、こうする•••ってことね。
自分のスマホなのに、こんな設定があるなんて知らなかったわ。」
「すごく勉強になるね。」
新しいピッツァと、ドリンクがテーブルに届く。
「よーし、じゃ全員で撮影!
フォトコンテストだ!」
サブローが仕切る。
⸻
上面写真。
近接写真。
斜め。
真横。
ゆらめく湯気。
伸びるチーズ。
ピッツァと横顔。
皿を持ってポーズ。
ピッツァを分ける八つの手。
ピッツァで乾杯。
ユニークな写真が増える。
⸻
撮影にノリノリのショータ。
「いいねいいね、そのポーズ!
ルカさん、後ろ向きから振り返って、カメラ目線お願いします!」
「欲しがりだな!
ショータ!」
カイトがツッコむ。
「こんな感じかな。」
モデルを演じるルカ。
「さすが元秘書。
要求に応える姿勢がすごいよな。」
ハリーがマサルに話しかける。
マサルは無言。
真剣にスマホで撮影。
ショータと一緒に。
⸻
「楽しそうですね。」
店主がテーブルに近づく。
サブローに声を掛ける。
「えぇ。
おかげさまで、良い感じに盛り上がってますよ。」
「そのようですね。
私も嬉しいですよ。
こういう姿を見たくて、店やってますから。」
「わかります。
人が喜んでいる姿を見るために、努力しているんですよね。」
「はい。」
店主は微笑みながら頷く。
「みんな、店主の美味しいピッツァの写真を撮っています。
なかなか良い写真が撮れているようですよ。」
「本当ですか?
それ、良かったら見せてもらえますか?
そういう写真、SNSで投稿してもらえるとありがたいです。」
「もちろん。
良い写真があったら会社で買取ります。
お店にも提供いたしましょう。」
「ぜひ、頂きたいです。」
「SNSでの投稿は個人の方が良いでしょうから、勧めておきます。」
「ありがとうございます。」
店主は笑顔で、軽く頭を下げる。
ジョーは黙って話を聞く。
社員たちの姿を見つめながら。
店主と話すサブローの隣で。
⸻
アランが尋ねる。
「ハリーさん、これから流行るイタリアン・レストランってお題ですけど。」
「うん?」
「ボスには答えがあるんすかね。」
「•••どうかな。
ボスはすごい人だから、答えを知っているのかもしれないな。」
「•••。」
「まぁ、でもお題として考えさせるのが目的なんじゃ無いかな。
イタリアンのお店が、何を求めているのか。
何が欲しいのか。
うちの会社の商品にも繋がるんだろうな。」
「•••。」
アランはピッツァを一切れ持ち上げる。
眺める。
「あぁ、そういえば。」
ハリーはみんなに話す。
「この前、うちの嫁さんがさぁ。
ピッツァ作ったんだよ。」
「そうなんすか?」
「手作りピッツァ、自宅で?」
「いい奥さん!」
「美味しかったんですか?」
ハリーは得意気に話す。
「美味しかったよ〜。
最近の調理家電は侮れないよな。」
「調理家電って、いろんなものありますよね。
見てると欲しいなって思っちゃいます。」
「でもやっぱり、お店のピッツァとは比べようが無いなぁ。」
「どう違うんですか?」
「うん。
嫁さんのは、真っ平なピッツァだった。
ここのは周りが膨らんでいて、見た目が全然違うよね。
やっぱり専門店のピッツァだなって思った。」
アランが口を開く。
「多加水の生地で、高温の釜で焼きますからね。」
「そうかぁ。
香りも強い気がするし、具もジューシーっていうか。
ソースとチーズがとろっとしてふわっとしてるよね。」
「お店だからこそですね。
でなければ成り立たないですよ。
店として。」
「まぁ、そうだよね。」
ルカが口を開く。
「でも、奥さんのピッツァも、ハリーさんのおうちでしか食べられません。
ハリーさん!
いつでもOKですから、呼んでください!」
「ミーナも!
呼んでください!」
ミーナは右手を上げる。
「オレも!」
「オレも!」
手が上がる。
「いやいや、そんな人数、収容できないから!」
ハリーはサブローをチラッと見る。
右手を上げている。
隣でジョーも。
ハリーは苦笑いする。
⸻
食事が進んで落ち着く。
会話は続く。
ハリーはサブローに尋ねる。
「ボス、流行るレストランってどんな店なんですか?」
「そりゃお前、オレが知るわけないだろ。」
サブローは即答し、続ける。
「欲しいものじゃなきゃ買わない。
欲しいものを売ってる店じゃなければ、行かない。
商売ってのは何でも同じだ。
そんなのは、みんな知ってる。
でも、流行るかどうかは別だ。」
「そう、ですよね。」
「その時代、その時代で違うんだよ。
変わるもんなんだよ。
流行る理由は、な。」
ハリーはゆっくりと頷く。
少し考える。
「ボスの若い頃、流行ったものって何ですか?」
サブローはハリーを見る。
「•••そうだな。
エリマキトカゲとか、ウーパールーパーとか。」
「あー、それ覚えていますよ。
って、食と関係ないですよ、それ。」
ジョーが口を開く。
「んー、そうだね。
ティラミスとか、ナタデココとか、かな。」
「あー、ブームありましたよね。
懐かしい!」
「最近もあったろ、朝バナナ・ダイエットとか。」
「そんなの、ありましたっけ?」
「日本人は流行に呑まれやすい。
そして、飽きっぽい。
良くも悪くもな。」
サブローは少し上を見つめる。
梁に飾られた植物。
長い葉が、ひらひらと揺れる。




