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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
第三章 Secondi Piatti
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28/29

第二十八話 そうでしょう?

「ただいまー。」


「お帰りなさい。

ハリー。」


土曜の午後。

昼間の帰宅。


「今日はこの後、どうするの?」


エナはキッチンにいる。


「うん、時計屋に行ってくるよ。

借りてた道具を返しに。

あと、お礼をしなきゃな。」


「そうなのね。

じゃ、その帰りにパンを買って来てもらえる?」


グッ、グッ、グッ•••。

機械音。


「ん?

この音って、調理家電。

•••ホームベーカリーだよね。」


「えぇ、そうよ。

今ね、ピッツァの生地をこねているの。」

「へぇー。

そんな事が出来るんだね。」


「初めてだから、美味しく出来るかどうか•••。

トマトソースも今から挑戦するわ。」

「えぇ!?

本格的だね。」


「うん。

AIと会話しているうちに、何だか出来る気になってきたの。」

「そうなんだね!」


ハリーはキッチンをのぞく。

スマートフォンを見つめるエナ。


「そうか、それは楽しみだ。」

「うん、頑張ってみるわ。

でも一応、失敗した時のために、パンを買っておいて欲しいのよ。」


「はは、なるほどね。」



古びた時計店。


キー•••。

扉を開ける。


チク、タク、チク、タク•••。


アンティークの時計。

左右に振れる振り子。


「こんにちはー。」

紙袋を手にして待つ。


店の奥。

誰もいない。


カチャ、カチャ。

サー•••。


物音が聞こえている。


「こんにちはー。」


大きめの声で呼ぶ。


「あー、すいません!

すぐ行きまーす。」


若い男の声。


チク、タク、チク、タク•••。


「すいません、お待たせしました•••。

あれ?

ハリーさんじゃないですか。」


「え?」


企画部のショータ。


「ショータくん!?

どうしたの、こんなところで。」


「ここ母親の実家なんすよ。

祖父が体調悪いっていうんで、店番してるっす。」


「へぇ!

そうだったんだね。」


「ハリーさん、買い物すか?

あー、そっか。

ついに腕時計、新しいのに買い替えっすね?」


ショータはハリーの腕時計を見る。


「違う、違う。」


ハリーは右手を振る。

紙袋の中から、箱を取り出す。


「これ、おじいさんからお借りしたんだ。

時計の修理道具。」


「あー、そういう事だったんすね。

じいさん、もう時計直すの辞めちゃったから。」


ハリーは手帳を見せる。


「この手帳のおかげでもあるんだ。

自分で修理に挑戦して、直せたのは。

今日はそのお礼もしたいと思って来たんだけどね。」


「そうなんすね。

そろそろ帰って来ると思いますけど•••。」


ボーン、ボーン、ボーン、ボーン。


4時。

振り子の時計が告げる。


「とりあえず、お茶淹れますんで休んでってください。

そのうち来ますよ。」


ハリーは待つ。

ショータと会話をしながら。


子供の頃を話すショータ。

時計を直す祖父の話。


機械の音。

油の匂い。

金属の輝き。


機械の中への興味。

動く仕組みの謎。


「なるほどねー、それで工学の分野に進んだってことか。」

「まぁ、そうすね。

なんか、知らないうちに得意分野になっていたんすよね。

高校の時なんて、バイクのエンジンのオーバーホールとかしてたし。」


「へええ!

そりゃ、すごいな!」


ハリーは目を大きくする。

ショータの表情は得意気。


ボーン、ボーン、ボーン•••。


5回。

会話が途切れる。


チク、タク、チク、タク•••。


「おっと、そろそろ行かないとな。

パン屋に寄る予定だったんだ。」


「そうすか•••。

すいません。

すぐ帰って来ると思ったんすけどね。」


「まぁ、また来るよ。

あ、これ。

良かったらお礼にって、渡して貰えるかな。」


紙袋を渡す。



「ただいまー。」


「お帰りなさい!

ハリー!」


エナの明るい声。

ハリーはキッチンをのぞく。


「んー、いい香りだね。

芳ばしい。」


「さっき試しに、小さめのを焼いてみたの。」

「どうだった、どうだった?」


「それがね、いい感じなのよー。

これから焼くから、シャワー浴びてきて。」

「おおー!

わかった、すぐに浴びてくるよ!」


約10分後。


テーブルに着くハリー。


前菜がすでにある。

タコの薄造りにハーブのソース。


エナがビールとグラスを運ぶ。


「乾杯!」


コツン。

冷えた厚めのグラスが鳴る。


ゴク、ゴク、ゴク。


「んあー!

美味い!」

「本当、美味しいわ。」


エナはキッチンを見る。

香りが漂ってくる。


「そろそろよね。」


そわそわするエナ。


ピピ、ピピ、ピピ。


オーブンが完成を伝える。

エナはキッチンへ。

身体をくねらせながら。


「出来てる。

出来てるぅ。」


ハリーも立ち上がる。

キッチンに入る。


「おー!

美味しそうだ。

いい香り〜。」


焼きたてのピッツァに包丁を当てる。


ザクッ。


ザクッ、ザクッ。


皿に盛る。

テーブルに運ぶ。


二人は椅子に掛ける。


ピッツァをつかむ。


「熱っ。」

「ハリー、気をつけて。

熱いから。」


「あぁ、わかった。」


チーズが伸びる。

湯気が上がる。


ハリーは口に運ぶ。


「•••!」


「どう?」


「アツッ!

•••アツッ!」


「だからぁ、熱いから気をつけてってば。

で、どう?

どうなの?」


急かすエナ。


ゴクン。

飲み込むハリー。


「•••すんごい、美味い!

生地がサクサクのクリスピーなピッツァだね。」


「でしょう?

そうでしょう?


エナは満面の笑み。


「私も食べようっと。

いただきまーす。」


エナも食べる。


「熱っ!」


「ほら!

だから熱いって、言ってるだろ?」


ハリーは笑う。


「•••でも本当に、我ながら美味しいわぁ。

挑戦してみて良かったー。」


二人はビールを飲み終える。


「やっぱり、次はワインが良いね。」


ハリーはワインを用意する。


「あら?

この袋は何?」


「それ?

買ってきたパンだよ。」


エナは袋を開く。

中身を見る。


「•••えーと。」


固まる。


「•••ねぇ、ちょっと。

ハリーさん?」


袋からパンを取り出す。


「なんで、ピザパンにしたの?」


「え?

だって、失敗した時のためにって言ってたよね。」


「•••あのねぇ。」


エナの眉間が寄る。

頭を指で支える。


「プ!」

吹き出す。


「あはは。」

笑う。


「いやー、こんなに美味いピッツァの後じゃ食えないよなぁ。

そのピザパン。」


「でしょう?

そうでしょう?」


満面の笑み。


エナはテーブルに戻る。


ピッツァを食べる。


「おいしー。」


「ほんとにね。」


二人はワインを飲む。


「ジャズ聴きたいな。」


「了解。」


窓から夕風。


サクソフォーンの音。


優しい調べ。

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