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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
第三章 Secondi Piatti
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27/30

第二十七話 想定してみて

「今週は土曜日も仕事なのね。」


「あぁ、午前中だけ、だけど。」


金曜日の夜。

ハリーとエナ。

夕食の語らい。


「新しい企画や業務改善案が、いろいろと挙がっているんだ。

AIで今までの仕事が縮小できたけど、プロジェクトの活動が活発になって来てさ。」


「そうなの?

忙しくなったりもするのね。」

「うん。

これまで考えもしなかった事を、AIが情報提供してくれていてね。」


「へぇー、例えばどんな事?」

「んーと、そうだな•••。

例えば、山積みの荷物の重さを測る方法。」


「山積みの荷物•••?

あ、大量の小麦粉とかって事ね。」

「そうそう。

忙しいと、在庫の量を把握しきれないみたいで。

発注ミスが起きたり、納品チェックが出来なかったり。」


「あーそっか。

人手不足って、そう言うところに影響が出るのよね。」

「うん。

それで、AIがいくつか提案してくれているから、それを検討しないといけなくて。」


「へぇー、どんな案があるの?」

「それは•••。」


ハリーは少し考える。


「•••え?

まさか、企業機密?」


「あ、いや。

そうじゃないよ。

大した案じゃないんだ。」


ハリーは苦笑いする。


「なんていうか•••。

今まで、何も考えていなかったなーって、気にもなっちゃうんだよな。」


「どんな方法なの?」

「うん。

パレットを運ぶ機械に、重量測定機を付けるって案だよ。」


「あー、あの、フォークリフトとかっていう機械ね。」


「うん、そうそう。

ウチの会社だと、ハンドリフトっていう小型の手動式なんだけどさ。

それを買い替えずに、機能だけ追加できる物もあるみたいでね。」


「そっか、なるほど。

そういう提案をAIがしてくれるのね。」


「うん。

ただ、AIはそこまで。

その先は、みんなで検討する必要がある。

それに•••。」


「それに?」


ハリーは食事を進めながら考える。

約1分。


「•••うん。

まぁ、決めるのはAIじゃなくて、人だ。

それを、みんなが認識しないといけないんだよな。」



翌日。


土曜出勤。

会議室に集まる担当者たち。


「みんな、土曜日だけど集まってくれてありがとう。」


ハリーは会議を始める。


「まず、プロジェクトチーム『Thankoneサンコーネ』の、重量測定の案から行きましょうか。

ミーナさん説明をお願いします。」


「はい。」

ミーナはメガネを掛け直す。


「では、資料をご覧ください。」

プレゼンテーションを始める。


「•••なるほど、なるほど。」

「ふむふむ。」

「良い案だよね。」


プレゼンテーションが終わる。

参加者は皆、感心する。


「•••という内容だけど、オレは基本的には良いと思っている。

どう?

みんなは。」


「良いと思います!」

「取り入れるべきですね、これは。」

「意義なしでーす。」


「うん。

そしたら、ヨーコさん。」


「え?

あ、はい。」


ハリーはヨーコに問う。

「ざっくりとで良いので、費用対効果を想定してみてもらえるかな?」


「え?」


ヨーコは頭の中が真っ白になる。


「この提案だと、機器の購入費だけしかわからないんだ。

どれだけ効果がありそうか、計算してみて。

ざっくりとで良いよ。」


「え、えーと。」


ヨーコは提案書を読み返す。

考える。


皆も提案書をじっくり読む。


約1分後、口を開く。


「えーと、ミーナさんの今の作業時間、一日に15分くらいとして•••。

作業者さんの計測と記録は、このタイミングで•••。」


ヨーコはホワイトボードに書き出して行く。


「とすると、この労力がカット出来て、こっちが加わります。

この作業に使う事も考えられますので、これくらいの追加の効果です。

あとは、機器の耐久性、ですね。

保証期間一年だと、二年に一度の交換を想定しておきます。」


ヨーコの指先が細かく動く。

右手の三本指。

ペンを握ったまま。


ホワイトボードに記入する。


「•••はい。

ざっくりですみません。

このくらいが考えられると思います。」


「おー、すげー。」

「さすが、ヨーコさん。」

「うんうん。

費用対効果も十分だけど、ヨーコさんの数字って、説得力があるよね。」


ハリーが提案をまとめる。


「そしたら、みんな賛成でいいかな。

これで役員に提出するけど。」


全員が賛成する。


ヨーコは皆の顔を眺める。

和やかな雰囲気。


「ありがとう。

ヨーコさん。」


ハリーの声。


ヨーコはハリーの顔を見る。

微笑んでいる。


「•••。」


ヨーコは首を横に振る。


そしてゆっくり頭を下げる。



11時30分。


議題が全て片付く。


会議が終わり解散する。


「えー、今日って、メグさんの料理食べられないんですねー。」


ルカが残念そうに言う。


「土曜日だからね。

メグさんはお休みだよ。」


「みなさん、土曜日はランチどうしているんですか?」

「午後も仕事する場合は、近くのお店に食べに行ってるよ。」


「そうなんですね。

そのお店、行ってみようかな。」

「あぁ、じゃ、連れて行こうか。

奢るよ。」


「えー!

本当ですか?

やったー!」


ハリーはヨーコに声を掛ける。


「ヨーコさんも一緒に行かない?」

「え、そんな、悪いですよ。

私は結構ですので。」


「そう言わずに、せっかくだから一緒に行こうよ。」

「そうですよ、ヨーコさん。

ゆっくりお話ししましょ!」


「そうですか?

そしたら、はい。

ご一緒します。」


ヨーコは微笑む。

ルカは楽しそうに帰り支度をする。



会社の近くの定食屋。

地域の人に愛される店。


「それにしても、ヨーコさんの計算、すごかったですね。」

「うふ。

そうだったかしら。」

ヨーコは照れ笑いをする。


「でも、驚いたわ。

ハリーさん、急に話を振って来るんだもの。」


「ヨーコさん、仕入れの価格も頭に入っているんですよね。」

「大体、このくらいの金額だったっていう程度よ。

細かくは覚えていないわ。」


「ルカさん。

ヨーコさんはね、頭の中で量をイメージ出来るんだよ。」

「え?そうなんですか?」


ルカは首をひねる。

ヨーコも首をひねる。


「あ、あれ?

違うのかな。

この前、ちょっと記事を見かけたんだけどさ。

子供の頃のお稽古ごとの効果についての。」


「お稽古?」

「習字とか、そろばんとかですか?」


「そう。

ヨーコさんは、そろばんだよね。

今でもデスクの引き出しに入ってるし、時々使ってるよね。」


ハリーはヨーコを見る。


「そろばんを使う人って、数字を見るっていうより、量を見ている感じなんだってさ。」


「なるほどー。

それであんなに早く計算出来るんですね。」

ルカは納得する。


「うーん。

どうなのかしら。

それは、あまり実感ないかも•••。」

ヨーコはまた首をひねる。


「まぁ、オレも受け売りだから、よくわからないけどね。」

ハリーは頭をかく。


「ところで、ハリーさん、昨日のディナーは何を食べたんですか?」


「え?

えーと、天ぷらだったよ。」


「お酒は何を?」

「うん?

初めは麦系の発泡酒で、その後は白ワインにしたんだったな。

でも何で?」


「最近、料理の会話、全然してなかったなーって思いまして。

でも、天ぷらにもワインなんですね。」

「んー、なんか衣にハーブが入っていて、ワインビネガーのソースだったからなぁ。」


「それって、フリットじゃないですか?」

「あー、なんか、エナがそんな事、言ってたっけ。

でも、醤油でも美味しかったよ。」


「ちょっと、ハリーさん!

ダメですよ、そのソースだけで食べなきゃ!」

「え?

そういうものかな•••。」


「そういうものです!

お料理に合うように想定しているんですよ、エナさんは!

ねぇ、ヨーコさん!」


「そうですよ、ハリーさん。

奥さんが手間を掛けて作ったものですから、感謝して食べないと。」


「そっか、次からは気をつけます。」


しばらくして料理が届く。


ルカの前。

オムライス・セット。


ヨーコの前。

ハヤシライス・セット。


ハリーの前。

ミックスフライ定食。


ハリーは手を伸ばす。


テーブルの調味料。


手に取る。


フライに掛ける。


「ハリーさん、それって•••。

ウスターソース、ですよね?」


「うん?

醤油だよ。」


ハリーはフライを食べる。


サクサク。


ルカとヨーコは顔を見合わせる。


「•••やっぱりそっちですね。」


「うふふふ。」


笑う。

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