第二十六話 私の仕事って
チーム『Tricolore』。
就業前のチャット。
カイト | 仕事のやりがいですか。
ヨーコ | はい。お二人はどんな時に、やりがいを感じていますか?
カイト | 考えた企画が上手く行って、思っていた通りに物事が進んだ時とか。
リ ク | そうだな、オレもそんな感じだな。
カイト | 上手く行かない事も多いけど。
リ ク | そうだよな、失敗すると凹むよな。
カイト | うん、凹む。でもやり方を変えたり、考え方を変えてみたりするよ。
リ ク | あぁ、そう。それ、わかるわー。
カイト | リッくん、わかってくれる?そっか、おんなじ様に頑張っているんだよね。
リ ク | そりゃーそうさ。ねぇ、ヨーコさん。
ヨーコ | 私は、実は、あまり仕事にやりがいを感じていないの。今。
カイト | え?そうなんですか?
リ ク | あー、休み長かったからっしょ。
ヨーコ | うん、体調崩して、家に篭もっていたけんだけどね。テレビとか見ていたの。
カイト | ニュースとかワイドショーとかですか?
ヨーコ | いろいろ。ただ見ていただけなんだけど。
リ ク | なるほどね、なんか、わかった気、するわ。
カイト | 何が?リッくん。
リ ク | 体調悪くて仕事できないから、テレビの向こうの人に、いろいろ感じたって事だろ。
カイト | そう言う事?ヨーコさん。
ヨーコ | うん。そんな感じだと思う。
リ ク | そうなんですね。えーと、TOWAさんはどんな風に思いますか?
TOWA | はい。ヨーコさんは、会社から離れて社会の事にじっくり向き合う時間が出来たんですね。
ヨーコ | そうですね。
TOWA | もし良かったら、テレビで印象的だった内容を教えて頂けますか?
ヨーコは伝える。
自然災害、国際紛争。
バラエティ番組、歴史番組。
ドラマ、旅行、自然観察。
先端技術、宇宙開発。
ヨーコ | いろんな番組を見て、いろいろ感じました。感動も、不安も。
TOWA | それは、とても良い時間を過ごされましたね。いろんな人の生活や人生を感じたんですね。
ヨーコ | はい。私は、ただテレビを見ているだけでしたけど。
TOWA | ヨーコさんは経理などの業務をされていますが、きっとこれから、皆のやりがいを支えて行けますね。
ヨーコ | そうですね。
トークが途切れる。
約1分。
リ ク | ヨーコさん、良かったら今度、仕事してるとこ見に来ません?
カイト | あー、それは良いかも。
ヨーコ | うん、そうね。ハリーさん達に相談してみます。
リ ク | ヨーコさん見てくれていたら、オレの仕事のやりがいになるっすよ。
ヨーコ | え、そう?そんなこと、あるのかしら。
カイト | リッくん!オレはたまに見に行ってるけど?
リ ク | そういや、そうだっけ?あー、あの冷たい視線かー。
カイト | 冷たいって!そんな事ないって!
リ ク | あー、あの、生あたたかい視線かー。
カイト | それ、どんなんなん??
TOWA | ヨーコさん、リクさんの仕事ぶりをご覧になったら、ぜひご感想を頂けたらと思います。
ヨーコ | はい、わかりました。
⸻
チャットを終えて、ヨーコはハリーに話す。
「ふむ。
生産管理部の業務を見学したいんだね。」
「はい。
もしお時間を頂ける様でしたら•••。」
「うん、わかったよ。
常務に話してみる。」
ヨーコはゆっくり頭を下げる。
デスクに戻る。
ハリーは少し時間を置いて、ヨーコに声を掛ける。
「ちょっとだけ、良いかな。
二人で話をしたいんだけど。」
ハリーはヨーコと応接室に入る。
ローテーブルとソファ。
向かい合う二人。
ハリーは深く腰掛ける。
ヨーコは浅め。
「•••えーと。
ヨーコさんは今、仕事をしていて楽しいかな。」
「え?」
ヨーコはハリーの目を見る。
穏やかな目。
「•••仕事が楽しいか、ですか。」
「ひょっとして、仕事に不安を感じているんじゃないかな。
生成AIが仕事を奪っちゃう、なんて思っていたりして。」
ヨーコはうつむく。
「私、療養中に、会社は大丈夫なのかと不安に思いました。
•••でも、全く大丈夫でしたよね。
常務や、ハリーさん、そして、新人のルカさんのおかげです。」
ヨーコは一呼吸して続ける。
「生成AIも活用され始めていて•••。
私の仕事は、それほど大変ではなくなっていました。」
「•••うん、そうだよね。」
ヨーコはハリーを見る。
「•••私の仕事って、何だろうって。
少し、思っていたんです。
だから、ルカさんから仕事のやりがいって言われた時、少し戸惑いました。」
ハリーは小さく、何度もうなずく。
腕時計を見る。
右手で覆う。
「•••ヨーコさんはいつも、バリバリ仕事をしていたよね。
真剣な表情で。
オレは君を、楽しく仕事をしている人だな、と思っていたんだ。」
手の中で感じる。
腕時計の動き。
小さな歯車。
小さな音。
「だから、今はどうなのかなって、聞きたくてね。
•••良かった。
話が聞けて。」
ヨーコは問い返す。
「ハリーさんは、どうですか?
仕事が変わって行って、今までしていた事が不要になるって。」
「•••。」
「AIで便利になったかも知れないけど•••。
毎日続けて来た事が、無駄な事になってしまうのって。
•••私は、寂しい気持ちになります。」
「•••うん。
わかる。
とても。」
ハリーは深くうなずく。
「オレもね、毎日、同じ様にやってきた業務が、いくつもなくなったよ。
その業務に責任を感じていたし、誇りにも思っていたんだけどね。」
ハリーは笑顔で答える。
「でもね、かろうじて、残っている事もあるんだ。」
「•••残っている事?」
「うん。
それは、きっと無くならないんだよ。」
「何ですか?
それって。」
ハリーは腰を上げ、ソファに浅く掛け直す。
「それはね、確認することだよ。
AIがした仕事が、間違っていないかどうか。
判断するのは人だからね。」
ローテーブルに肘を置く。
「AIは優秀だけど、間違いもある。
君に部下が出来たんだって思えば良いんだよ。
一緒に仕事をやっていく、新しい仲間なんだって。」
「仲間•••。
部下•••。」
ヨーコはハリーを見つめる。
「ヨーコさん、実はこれから君に、やってほしい事がたくさんあるんだ。」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。
君がこれまで頑張って来たからこそ、任せたいんだよ。
君に。」
ハリーは立ち上がる。
「詳しいことはまた改めて話すよ。
今日は安心して帰って、ゆっくり休んで。」
明るい声。
トーンが上がる。
「わかりました。
ハリーさん、ありがとうございます。」
ヨーコは頭を深く下げる。
身を起こす。
穏やかな表情。
⸻
「お疲れ様でした!
お先に失礼します!」
ルカの明るい声。
ハリーとヨーコが事務所に戻る。
「ごめん、待たせてたね。
お疲れ様!
また明日!」
ハリーも明るく返す。
「ルカさん!」
ヨーコが声を張る。
ルカが振り向く。
「ちょっと待って、この前のチョコのお返しがあるの。」
「え!本当ですか、嬉しい!」
ヨーコはデスクの引き出しを開ける。
シャン。
何かが軽い音を立てる。
「あ、ここじゃない。
バッグの中ね。」
バッグから紙袋を取り出す。
「これ、マカロンよ。
お気に入りのお店のなの。」
「えー、本当ですか!
ありがとうございます。」
「お疲れ様でした。
また明日、よろしくお願いします。」
「はーい!」
手を振るルカ。
小さく振り返すヨーコ。
「ルカさんて、いつも楽しそうですよね。」
「そうなんだよね。」
「彼女、仕事にやりがい感じているんですよね。」
「たぶん、そうだと思うよ。」
「•••私も、そうなりたいと思います。」
「うん。」
二人は帰り支度をする。
「さて、お疲れ様でした。」
カチ。
照明が消える。
事務所のドアが閉まる。
パタン。
カチャ。
建物を出て歩く。
駐輪場に向かう。
「ハリーさーん!」
ルカの声。
走って来る。
「すみません!
スマホ、忘れてました!
あと部屋の鍵も!」
「えぇ!?」
三人、事務所に戻る。
「ほんと、すみませんー。
友達と約束していて、急いでいたもので。
なんか、忘れてるなーって思っていたんですよねー。」
「ルカさんも、完璧じゃないんだよね。
抜けてるとこがある。」
「もちろんそうですよ!」
ハリーはヨーコを見る。
「うふふふ。」
微笑みながらルカに言う。
「あーぁ、ヨーコさんにも笑われちゃったよ。」
「えー!?
あー、ほんとですね、あはは!」
事務所のドアを閉める。
パタン。
カチャ。
「すみませんでした。
お二人にお手間を取らせてしまいました。」
「全然、大したことないよ、これくらい。
いつもこっちが助けてもらってるんだし。」
「そんな、私は私の仕事をしているだけですよ。
ハリーさんは上司ですから。」
「ルカさんの仕事は、ほんと頼りになるよ。
当たり前にやってるって言ってもねぇ。」
二人の会話。
ヨーコは歩く。
何も言わず。
思い返す。
ハリーの言葉。
二人を見る。
上司。
部下。
仲間。
並んで歩く。
ゆっくりと。




