第二十四話 やっぱり
ランチの後の15分間。
AIPT活動時間。
議題:AIの名前について。
チーム『Thankone』。
ミーナ | ミーナの案は『KIKU』。何でも話を聞いてくれる優しい子のイメージ。
ル カ | 良いかも!それ。
ミーナ | 小学校の友達にね、キクエちゃんって娘がいたんだ。
ショータ| ボクは、そしたら『TOWA』。AIって一瞬で答えるけど、時間が凝縮しているみたいだから。
ル カ | それも良いね!
ミーナ | ルカはどんなのが良い?
ル カ | うーん。『CHOCOLAT』。今、目の前にあるから。
ミーナ | それはダメ!食べたくなる!
ショータ| (笑)
ル カ | じゃー、『RAMEN』。(笑)
ミーナ | ダメだってば!
ショータ| デスクの上、食い物ばっかり?>ルカ
チーム『Tricolore』。
カイト | AIの名前どうしましょうか。
ヨーコ | 『CHOCOLAT』はどうかしら。
カイト | あ、それ良いですね。かわいい感じで、親しみがありますね。
リ ク | それでいんじゃね?
カイト | 理由とかありますか?>ヨーコさん
ヨーコ | 今、目の前にあるの。
カイト | なるほどー。
ヨーコ | カイトさんの案は?
カイト | えーと、『POTECHI』?
リ ク | そこ合わせなくてもいんじゃね?>カイト
カイト | そっか、えーとじゃー『SETSUNA』。一瞬って意味で。
リ ク | なんか、切なくね?
カイト | リッくんは何か、案ある?
リ ク | 『HARUKA』。一瞬じゃなくて、長い時間の方。
ヨーコ | それ、良いかもね。
チーム『男闘児』。
ハリー | 『CHOCOLAT』でどう?
アラン | 良いっすね。
マサル | 良いっすね。
ハリー | おーい、お前たちも考えてくれよー。
アラン | ちなみに、なんで『CHOCOLAT』なんすか?
ハリー | それは、かわいい感じだからだよ。
マサル | 今、食べてるとかじゃないんすね。
ハリー | いやー、どうかなー。
アラン | 真面目に名前考えましょー。>ハリーさん
コン、コン。
カチャ。
総務部事務所のドアが開く。
「あー、やっぱり!
みんなで食べてる!」
ミーナとリクが入る。
「げ。」
ハリーがチョコを隠す。
コン、コン。
カチャ。
「何チョコっすか。」
カイトとショータ。
「うわー。」
ルカが抱える。
コン、コン。
カチャ。
「チョコ•••。」
サブローとジョー。
「•••大勢いるな。」
「あ。
良かったら、おひとついかがですか?」
ヨーコが差し出す。
「あ。
お、お茶は私がー!」
ルカ。
⸻
「それで、ハリー。
どうだ?」
サブローが尋ねる。
「はい。
やってみようと思います。」
「なになに?」
「なんですか?」
皆の視線が集まる。
サブローが話す。
「えー!?
腕時計を、AIと一緒に、直す!?」
「あぁ、そうだ。」
全員、それぞれ顔を見合わせる。
「で、できるんですか?
そんなこと。」
ハリーは口を開く。
「AIに聞いてみたんだ。
直せるかどうか。
まず、時計の中を画像にして、AIに見せて、構造を認識してもらう。
はっきりと直せるとは言えないけど。」
真剣な目付き。
「やるよ。
直すよ。」
腕時計を見る。
「挑戦ですね!」
ルカ。
皆が高揚する。
「なんか、面白いな、それ。」
「頑張ってください、ハリーさん!」
「あー、オレも何かそういうの、やりてーかも。」
ハリーはサブローを見る。
「頑張れよ、ハリー。」
トン。
肩を叩く。
⸻
仕事帰り。
ハリーはいつもと違う道。
キキー。
自転車が止まる。
古びた時計店の前。
「良かった。
まだ開いてる。」
店に入る。
老人に話す。
「自分で直す?」
「はい。」
老人はしばらく黙る。
「焦らずに、ゆっくり丁寧に、だぞ。」
そして机の下から箱を取り出す。
「これを、使いなさい。」
箱を開ける。
薬品の瓶。
汚れのついた皮や布。
紙。
ピンセット。
細いドライバー。
「これも。」
ポケットから取り出す。
ルーペ。
⸻
暗い部屋に一人。
机のスタンド照明。
A4用紙が一枚。
「•••AIの撮影設定、細かいな。」
光源の位置。
絞り値。
シャッタースピード。
カメラの角度。
カシャ。
一眼レフの音。
ハリーは画像をAIに送る。
| 解析しました。
| この構造はスイスのメーカーのようです。
| 時間のズレの原因はゼンマイの動力を制御する円盤の可能性が高いです。
| 歯車がいくつかある中で歯のない車があったらそれです。
| またはプロペラのような形のものです。
ハリーは分解していく。
慎重に。
一つずつ。
小さなケースに収める。
「•••あった。
これだ、な。」
カシャ。
画像をAIに送る。
| これです。
| 薬品に漬けて汚れやゴミを取り去ってください。
| 円盤だけではなく軸や接続部をよく見てください。
| 力を入れず丁寧に。
| 素手よりもピンセットを使ってください。
ハリーは慎重に進める。
キラリ。
円盤が輝く。
カシャ
画像を送る。
| かなりキレイになっていると思います。
| 他の部品もできればキレイにしてください。
| 精密な作業は集中力を使いますので、かなり疲れると思います。
| 無理はせず、出来るところまでにしましょう。
「•••ふう。」
ハリーは一息つく。
スマートフォンを見る。
置く。
カチャン!
ケースが跳ねる。
カラカラ•••。
部品がこぼれる。
ハリーの目が大きくなる。
キラリ。
ひとつ落ちる。
机の上から。
一瞬。
時が止まる。
カツ。
足元で小さな音。
ハリーは動かない。
息を静かに吸い込む。
ゆっくりと、吐く。
そっと立ち上がる。
部屋の明かりをつける。
スマートフォンをそっと掴む。
フラッシュライトを点ける。
机の下を照らす。
キラリ。
「あった。
良かった。」
息をつく。
立ち上がる。
ゴン。
机の角に頭が当たる。
「やばっ。」
カタカタ•••。
ハリーは固まる。
シーン。
「ふぅ、大丈夫そうだな。」
ガチャ!
ドアが開く。
「ハリー?
え、何!?
そんなに、びっくりした顔で!」
ハリーはゆっくりと、床に腰を下ろす。
「•••はぁ、はぁ。
あー、ごめん、エナ。
ちょっと、一人にしておいてもらえるかな。
時計•••、直してるんだ。」
⸻
「•••よし、何とか。
組み立て、終わったー。」
カリ、カリ、カリ。
ゼンマイを巻く。
時刻を合わせる。
午前0時。
疲れて眠る。
⸻
夜が開ける。
光が差す。
カーテンの隙間。
机の上。
腕時計。
5時55分。
ハリーは腕時計を手に取る。
チッ、チッ、チッ。
秒針が動いている。
「•••。」
その場で考え込む。
カーン。
カーン。
カーン。
街の鐘の三回目の音。
かちり。
少し遅れる。
一日の始まり。
腕時計の新しい一日。
⸻
「おはようございます!
ハリーさん!」
「あー、おふぁよう〜。」
「すっごい眠そうですね。」
「んー、昨日、時計直していたから。」
「えー!
もうやったんですか!
早っ!」
ルカの声に周囲が気づく。
「なんだなんだ?」
「どうしたどうした?」
「ハリーさん、昨日、時計直したんだって!」
皆、驚く。
「うん。」
「それで、どうでしたか?」
「いやー、それが、まだわかんないんだけど、さ。」
ハリーは腕時計を見る。
「0時から6時までで、約15秒ズレてた。
つまり、一日に、約1分。」
皆の方を見る。
「今度は、早くズレる腕時計になっちゃった。」
頭をかく。
「はぁ!?」
皆、それぞれ目を合わせる。
「ぶははは!」
「そんなんある!?」
ルカはハリーの腕を持ち上げる。
腕時計を見る。
「面白いねー、キミ!
キミにも名前、付けてあげよっか?」
キラリ。
腕時計に朝の光が差す。
「今日はまた賑やかだね。」
「そうだな。」
サブローとジョー。
朝のミーティング。
いつも通り。
いつもの日常。
チッ、チッ、チッ。
腕時計の針の音。
それは、やっぱりズレている。
ほんの少しだけ。
チッ、チッ、チッ。
チッ、チッ、チッ。




