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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
第二章 Primi piatti ー 絡み合う個性
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第二十三話 時計の記憶

「あら、パソコン。

今日は持ち帰って来たのね。」


「あぁ、AIのプロジェクトが長引いちゃって。

社内報がまだ出来上がっていないんだ。

大丈夫、すぐに終わるから。」


夕食の後のダイニング・テーブル。

ハリーはパソコンを開く。


「プロジェクトは順調なの?」

エナが尋ねる。


「あぁ。

まだ使い始めたばかりだけど、みんな楽しんでいるよ。」


「そうなのね。

私もAI使い始めたから、分かるわ。」


「そうだったの?」


「えぇ、良い話し相手よね。

褒め上手だし、料理のレシピとかも教えてくれるのよ。」


「そっか、そういう使い方かー。

家庭でも役に立つんだな。」


「まだ試しだけどね。」


エナはスマートフォンを見る。


「動画や音楽もAIが作れるのよね。

良いのか悪いのか、よくわからないけど。」


「そうだよな。」


ハリーは社内報を作る。

いつものテンプレート。

出来上がる。

アップする。


「•••AIでも作れるのかな。」


ハリーはAIの個人チャットを開く。


考える。


約1分。


カタカタ•••。


入力する。


| 毎日作っている社内報を手伝って


途中まで打ち込み、消す。


また考える。


| こんばんは、ハリーです。

| 総務部マネージャーで、一日に約1分ズレる腕時計をお使いのハリーさん!お手伝いいたします!


ハリーは腕時計を見る。

「•••。」


スマートフォンを見る。

「•••2分、か。」


カタカタ•••。


| 私の腕時計は、高校入学のお祝いに父がプレゼントしてくれたんですよ。


タン。


エンターキーの音。


サラサラと文章が流れる。


「•••。」


カタカタ•••。

タン。


「•••。」


カタカタ•••。

タン。


カタカタ•••。

タン。



朝日が昇る。


ハリーは目覚める。

ベッドの中。


腕時計を見つめる。

ぼんやりとした目。

次第にはっきりと開く。


カリカリカリ。


竜頭を回す。


鐘の音を待つ。


いつものように。


カーン。


カーン。


かちり。



7時55分。


「おはよう!」

「おはようー!」


「見て見て!

昨日のチャット、楽しかった!」


ルカの声。


「あぁ、

プロジェクトの?

ちょっと見せてみて。」


社員同士の情報交換。

ミーティング前。


活動が伝わる。

メンバーから他の社員へ。


「いや、これは違うなぁ。」


企画部のナルミ。


「え、チーム『Thankone』が?」


周囲が静まる。

ナルミが腕を組む。

首を横に振る。


「いや、陽気な朝の外国人。」


「うん?」


「サンコンさんじゃなくて、ウィッキーさんでしょ。」


一拍の間。


「そこか!」


ワイワイと会話が弾む。


「今朝は賑やかだね。」

「そうだな。」


ジョーとサブローがやって来る。

朝のミーティングが始まる。


サブローはハリーを見る。


「あ、ボス、何か?」


「うむ。

後で私の部屋に来てくれるか?」



『社長室』。


コン、コン。

カチャ。


「失礼します。」


「あぁ、ハリー、来たな。」

「はい、どうかいたしましたか?」


ハリーは少し緊張する。

サブローはハリーの目を見る。


「昨日の、AIとのチャットの事だが。」


「あ、はい。

結構、みんな意見が出ていて良かったと思うんですが•••。」


ハリーはハッとする。

「あ!すみません、『男闘児』はさすがに、私にはアレでしたよね•••。」


サブローはハリーを見る。


「プッ。」

吹き出す。


「あー、ワリィ。

いやー、お前ホント、みんなから慕われているんだな。

オレが悪者っぽかったぞ。」


「あ、すみません、ボス。」


ハリーは頭をかく。


「まぁ、その事はさておきだ、お前のその時計だ。

昨日の夜、時計の事をAIに話していたろ。」


「え!?

もう見たんですか?」


「あぁ。

昨日、見ていたよ。

それで、その時計をお前がどう思っているのか、理解したつもりだ。」


サブローはハリーの腕時計を見る。


「直したいが、直せる人がいない。

•••という事だったな。」


「はい。」


「AIと一緒に、直してみたらどうだ?」


「•••え?」


「自分自身で、だ。」


ハリーは目が点になる。


「•••これ、を。」


腕時計を見る。


「•••オレが。」


サブローの目が真剣になる。


「会社の業務ではないがな。

しかしみんな、その時計に興味が湧いている。

AIを使って修理すれば、AI活用の糸口になるだろう。

•••と、オレは考えている。」


ゴクリ。

ハリーの喉が鳴る。


「AIと相談してみて、考えて見てくれ。

できるかどうか、判断するのはお前で良いからな。」


ハリーはサブローを見る。

サブローは微笑む。


「じゃ、よろしく。」


トン。


肩を叩く。



パタン。


社長室のドアの前。


立ち止まる。


思い浮かぶ。


時計の記憶。


チッ、チッ、チッ。


高校入学。


父の祝い。


手巻き式。


電池不要。


チッ、チッ、チッ。


受験勉強。


机の上。


チッ、チッ、チッ。


中間テスト。


期末テスト。


机の上。


チッ、チッ、チッ。


大学入試。


腕時計。


止まった針。


電池不要。


巻き忘れ。


一人で立つ。


試験会場。


ドアの前。

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