第二十話 軽い口調
パソコン画面。
AIのチャットを開いている。
ハリーは入力する。
読み返す。
消す。
手が止まる。
考える。
「うん、よし。
難しく考えるのはやめよう。」
ハリーは再び入力する。
| 私は毎朝、この腕時計の時間を正しています。
| 私にとって、日課みたいなものです。
タン。
キーを軽く叩く。
さらさらと、文章が流れる。
ハリーは読む。
「ふむ、なるほどね。」
ルカが気づく。
「あ、返答したんですね。
見ても良いですか?」
「もちろん、どうぞ。」
ルカは読む。
「ふむふむ。
ふむふむ、なるほどー。
毎日の習慣があるって、良いですね。
続けることが仕事にも活かされる。
まさにハリーさん、そのままじゃ無いですか。」
「そ、そうかな。」
ハリーは照れる。
「出来る男の嗜みってやつですね。」
「あ、ありがとう•••。
ルカさんにそう言われると、自信が出ちゃうなぁ。」
「私も、ハリーさんのような仕事ができるように頑張ります。」
「いやいや、それはこっちのセリフだよ。」
「えーと、それで、午後の仕事ですけど•••。」
プリンタが作動する。
紙をハリーに渡す。
「こんな感じでしょうか。」
午後のスケジュールプラン。
生成AIの利用方法とルール。
プロジェクト・メンバー構成表。
「•••本当に、キミの仕事ぶりを見習わないと。
•••だなぁ。」
⸻
生産管理部事務所。
カチャ。
ドアが開く。
ミーナが昼の休憩から戻る。
ハリーとルカがいる。
「あ、お疲れ様です。
ハリーさん。
ルカも。
ひょっとして待たせちゃってた?」
「ううん。
今来たばかりよ。」
「ミーナ・マネージャー。
生成AI利活用プロジェクト・チームの件なんだけど。」
ミーナの眉が八の字になる。
「うーん。
生成AI利活用PTって、長くない?
AIPTで良くない?」
「あー、いいね。
そうしよう。」
ハリーはルカが印刷した紙を広げる。
「今のところ、こんなメンバー構成なんだけどね。
生産管理部からも3人だけど、どうする?」
「ここ、ミーナ以外はほとんどパソコン使っていないけど、大丈夫かな。」
ルカが答える。
「うん、大丈夫。
スマホで、チャットのアプリはみんな使ってるよね。
それで大丈夫だよ。
会話型だから。」
ルカがスマートフォンの画面を見せる。
「こんな感じだよ。」
ミーナが見る。
考える。
「うーん、大丈夫かなぁ。
文章、多いなぁ。
リッくんたち、長い文章、ちゃんと読めるかなぁ。」
「おーい、マネージャー。
聞こえてるぞー。」
事務所の隅からリクの声。
「あ、ごめん、リッくんいたんだ。」
リクが会話に加わる。
「ルカさん、それ見せてみて。」
「あ、はい。
どうぞ。」
「ふーん。
ふむふむ。
なるほど。」
「どう?」
ミーナがリクに尋ねる。
「どうってことねーな。」
「おぉ!」
「文章なげー、漢字ばっか、こんなん読むわけねー。」
「ねー。
•••って!
やっぱそっちか!」
ルカがスマートフォンに告げる。
「文章短く、漢字少なめで、軽い感じのトークにしてみてよ。」
文字が現れる。
友達感覚の軽い口調。
読みやすく短めの文。
要点は箇条書き。
絵文字付き。
リクとミーナが画面を見る。
「おぉ!?
マジっすか、やっべー。
これならいけるわー。」
「えー、すごい!
ミーナもこっちがいい!」
「ハリーさん、どうでしょうか?」
ルカはハリーに問う。
「そうだね。
チームのチャットルームは、メンバーたちに任せようかな。
内容をレポートにするときには、適切な言葉に変換するとか。
それもAIがやってくれそうだよね。」
「たぶん、出来るのではないかと•••。
•••あーでも、確認が必要かも。」
ルカは少し考える。
「若者言葉の微妙なニュアンスって、日本人でも理解が難しいですよね。
一般常識的な言葉のシバリも一応考えた方が良いかも•••。」
「まぁ、ひとまずやってみて、みんなでAIを学んで行けば良いかな。」
ハリーは微笑む。
腕時計を見る。
「さてそれで、メンバーだけど•••。」
「ミーナはルカと一緒がいい!」
ミーナはルカにくっつく。
「あはは!」
ルカは嬉しそうに笑う。
「うーん、そっか。
あと二人は?
リッくんと•••。」
「ミーナはマサルくんが良いと思ってる。
真面目だし、割とよく気が付くタイプだから。」
「マサルくんて、あの背が高くて頑丈そうな感じの?」
「そうっす。
元バスケ部っす。
あいつ、ダンクが得意らしいっすよ。」
「えー!?
すっごい!
みてみたいー、それ!」
ルカが反応する。
「見た目はゴリラっすけどね。」
「•••うわぁぉー。」
「あ、ちょうどあそこにいるよ。」
ミーナが指差す。
男たちが資材を運んでいる。
パレットに積まれた資材。
ゆっくりと動く。
その横を歩く大柄な男。
大きな袋を肩に担いでいる。
ルカは顔を見る。
「あれ?
ゴリラっぽくなくない?」
「•••でしょ?
リッくんが大げさなのよ。
マサルくんのこと、ゴリとか言ってるけど。
結構、イケメンなのよ。」
「イケメン?
あいつが?」
「そうよー。
力持ちで優しくて、しかもよく気がつく。
間違いなくイケメンよ。」
「うー、そっか。」
「大丈夫。
リッくんもかっこいいよ。
ねぇ、ルカ。」
「うんうん!
リッくん、イケメン!
元テニス部キャプテン!」
リクの頬が少し赤くなる。
「もう、やめろってマネージャー、無理やり言わせんなよー。」
「いいね、ミーナ。
イケメンばっかりの職場でー!」
「ルカもこっちに来なよー。」
若者たちの言葉。
ハリーは微笑む。
掛ける言葉を探す。
タイミングを計る。
どうするんだ。
AIPTメンバー。
「•••。」
表を見る。
腕時計を見る。
みんなの顔を見る。
マサル。
リク。
ミーナ。
そして、ルカ。
「•••。」
秒針が一周する。




