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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
第二章 Primi piatti ー 絡み合う個性
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19/30

第十九話 どんな想いが

午前の仕事が終わる。

ハリーとルカは食堂へ向かう。


「ハリーさん。

その腕時計に、どんな想いがあるんですか?」


ハリーは空を見る。


「•••うん。」

答えに詰まる。


「良かったら、エピソードをお聞かせください!

•••って、AIが言ってましたね。」


「•••そうだな。」


息を少し溜める。


「•••時計が狂うようになったのは、オレ自身のせいでね。

だから、直るなら、直したいって、思っていたんだ。」


「あ、昨日の時計屋さん。

直せなかったんですね。」


ハリーは黙る。

視線が下がる。


「ふむ。」


ルカはハリーの顔をのぞき込む。


「いろいろ、ありますよね。

だから、大切にしてる。」


「•••。」


「うーん、と。

ずっと使っていたら愛着が湧いた、とか。

そんな返答でも、良いんじゃないですか?

AIには。」


「•••そう、だよね。」


ハリーは頭をかく。


「でも、私は聞きたいです。

•••もし話せることでしたら、話してくださいね。」


ルカはハリーに微笑む。


「あ、そうだハリーさん!

今日のランチ、唐揚げですよ!

早く行きましょ!」


少し足早になる。


「•••うん?

あー、そうだった!

鶏の唐揚げだ。

メグ特製トマトソースの!」


ハリーはルカを追う。


「それに、私!

今日こそ、ふりかけ。

絶対に食べるって決めてるんです!」



食堂に着く。


ガヤガヤと賑やかな声。


列が出来ている。

ハリーは時計を見る。


12時30分。


「こんにちはー!

メグさん!」

ルカが声を掛ける。


「はいよー!」


メグの様子がいつもと違う。

少し慌てている。


「あぁー、悪いね!

ちょっと待たせるかも知れないよー。」

「わかりましたー!」


ガヤガヤ。

ハリーは食堂を見渡す。


「どうしたんだろう、こんなに混んでいるなんて。」

「時間、重なっちゃったんですかね。」


メグの声が聞こえる。


「どうだい?

もう良いんじゃないか?」


「あー、もう少し。

揚がったらそこに置くよ。」


いつもはメグ一人の厨房。

だが、男の声がする。


ルカは厨房をのぞき込む。

長身の後ろ姿。


「あれ?

誰か、いる。」


「あ、本当だ。

誰だ?」


二人は男の後ろ姿を見つめる。


「よし。

揚がった。」


男が振り向く。


「あ、あれ!?」

「•••え、企画部の?」


「アランくん!」

「アランさん!」


ドン。


唐揚げが調理台に置かれる。

メグが急いで皿に盛り付ける。


アランはまた背を向ける。


ジュワー。

油の鍋に次の肉が沈む。


「•••手伝っているみたいだね。」

「忙しいからですかね。」

「うーん•••。

珍しいな。

一体、どうしたんだろう。」


コト、コト、コト•••。

カウンターに皿が並ぶ。


「はいよー、お待たせ!」


列が動く。

しかし、ハリーとルカの前で皿が無くなる。


「アランくん、お疲れさまー。」

ハリーが声を掛ける。


「あー、ハリーさん。

すみません。

急に手伝ってくれって言われたもんでー。」


ジュワー。

アランの視線は手元のまま。


「ごめんよ、ハリー。

今朝、バタバタしてて、遅くなっちまったんだよ。

サブローには言ってあるからね。

アランくん借りるって。」


メグも手元から目を離さない。


「なるほど、そうだったんですね。」


ルカが声を掛ける。

「アランさん、料理するんですね!

エプロン姿、似合ってますよ!」


「•••。」


細い目。

慣れた手つき。


メグは皿を並べる。

付け合わせを盛りつける。


アランは片手鍋を持って振り返る。

皿の上に温めたソースを流す。

片口のレードルで丁寧に。


終わるとまた背を向ける。

油の鍋の、唐揚げを見る。


「よし。

揚がった。」


シュワー•••。


熱々をトングで掴むメグ。

皿に盛り付ける。


コト、コト、コト•••。

「はいよー、お待たせ!」


「え!早っ!」


驚くルカにメグが答える。


「肉は、先に一度揚げてるからさ。

仕上げに衣をカリッとさせてるんだよ。」


ハリーが続く。


「メグさんには、メグさんの想いがあるんだよ。

絶対に1分で出すってのがね。」


「早くて美味くなきゃダメだからね。

今日は悪いね、待たせちまってさ。」


「いえいえ!

揚げたて、良い香りで美味しそうです!

メグさん、いつもありがとうございます。

いただきます!

あ、アランさんも、ありがとうございます!」


「•••。」


ルカはアランを見る。

淡々と肉を揚げている。


二人は料理を運ぶ。


「あ、そうだハリー!」


メグの声。


「今日、ふりかけ終わっちゃったよ。」


「あ、そうなんですね。

了解です。」


立ち止まる。


「•••あ。」


振り返るルカ。


「•••え!?」


その声にメグが驚く。


「な、無いんですか•••。

ふ、ふりかけー。」



ランチを終えて事務所に戻る。


「あー、美味しかったー。

あのソース絶品でしたね。

ふりかけは残念でしたけど。」


「そうだね。

メグさんの料理はいつも美味しいよ。

手作りだし、作り立てだし。」


「1分で出す、ですね。

すごいなぁ。

きっちり計画立ててるんだろなぁ。」


「•••そうだね。」


「アランさんも、意外と様になってましたね。」

「あぁ。

彼は以前、イタリア料理店に勤めていたんだ。

企画部でも料理を作ることがある。

商品開発でね。」


「なるほどー。

それで、メグさんが頼ったんですね。」


「うん、良かったよ。

アランくんの助けがなかったら、どうなっていたか•••。」


ハリーは腕時計を見る。

12時55分。


休憩時間はまだある。

しかし、足早になる。


「え?

ハリーさん、急ぐんですか?」


「あぁ、ごめん。

午後の計画、立てたいなって。

あと、AIへの返事も済ませなきゃ。」


「えー、それ、休憩時間じゃなくても•••。」


それでもルカは、ハリーの足に付いていく。


時計の針も止まらない。


秒針、長針、短針。


チッ、チッ、チッ。


タッタッ、タッタッ、タッタッ。


秒針と足音のテンポが重なる。

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