第十三話 KAIZEN
夜が明ける。
日が昇る。
カーン。
カーン。
かちり。
一日が始まる。
チッ、チッ、チッ。
チッ、チッ、チッ。
いつも通りに。
⸻
午前8時。
社員が輪になって集まる。
ハリーは全員の顔を伺う。
そして司会を始める。
朝のミーティング。
「おはようございます!」
ハリーの一声。
「おはようございます!」
全員が返す。
「それではボス、お願いします。」
サブローの挨拶。
「おはよう。
昨日、事前に通達した通り、これから新しいことを始める。」
今の社会の動向と会社の方針を話す。
そして、生成AI利活用PTの発足について。
「当社は取り掛かるのが、少し遅くなったかも知れない。
しかし、これから全員でしっかり向き合って行きたいと考えている。」
サブローは左から右へ、ゆっくりと全員に視線を送る。
「•••というわけでみんな、よろしく!」
ジョーの挨拶。
サブローに続き、生成AIの有効性とぜい弱性について話す。
「問題は色々考えられます。
しかし、大きな可能性があると感じています。
全員で学びながら、取り組んで行きましょう。」
ハリーは司会進行を続ける。
今日の業務の確認。
企業理念の唱和。
「One thanks for all, all thank for one !」
全員の声が重なる。
「それでは本日も、よろしくお願いします。」
「お願いします!」
⸻
「それじゃ、私、行ってきますね!」
「え?
どこへ?」
「生産管理部ですよ。
昨日、常務が言っていたじゃないですか。
ミーナさんの業務をサポートしてきます。」
「あー、そっか。
そういえば、そうだった。」
ルカはジョーにも声を掛け、生産管理部へと向かう。
ハリーはその後ろ姿を見つめる。
「•••そっか、そうだったな。」
デスクの上を見る。
ルカが用意した一枚の紙。
今週のハリーのスケジュール。
「•••びっしりだなー。」
⸻
シーン。
静まり返っている。
朝の生産工場内。
ルカは鼻の先に触れる。
塩素の匂いがツンとする。
コンコン。
カチャ。
「•••失礼しまーす。」
事務所のドアを開ける。
ワイワイ、ガヤガヤ声がする。
生産管理部での朝のミーティング。
「あ、ルカさん!」
リクがルカに気づく。
「あ、ほんとだ!
ルカさんだー!」
「リッくん、ミーナさん。
今日一日、よろしくお願いします!」
「みんなー、今日はルカさん、生産管理部のお手伝いなんだよー。」
ミーナ。
「マジすか!?」
リッくん。
「マジすか!?」
「マジすか!?」
男たち。
「マジよー。
って言っても事務仕事の、だけどねー。」
「•••そっすか。」
「そっすか。」
「そっすか。」
ルカは左手にペンとメモ。
さらにスマートフォンを持つ。
右手を斜めに、ワークキャップのツバに当てる。
「よろしくお願いします!」
男たちも右手をかざす。
「シヤっす!」
ぴったり重なる。
⸻
カチ、カチ。
ガチャ。
ウーン、ウーン。
パタン、パタン。
機械が動き出す。
ミーナとルカは事務所の前。
廊下の掲示板を眺める。
『KAIZEN 2026』。
たくさんのメモ。
「あー、またいっぱい増えてるぅ。
溜まっちゃったぁ。」
「みんな、書いてくれるんだね。
協力的でいいね。」
「うん、でも集計とか、改善の検討とかが大変なのよね。
良し悪しだなぁ。」
「そっかぁ。
カナエさん、普段も居てくれたら良いのにね。」
ミーナは一枚一枚、目を通す。
ボードに書き込む。
ルカは黙って見守る。
約1分。
ルカが口を開く。
「それ、良かったら私が代わるよ?」
「あ、ありがと、ルカ。
そしたら、この欄に内容を書いて、あと日付と名前がこっち。」
「この、欄は?
ポイントって?」
「うん、そこは後で私が点数決めるから、空欄でいいよ。」
「ふーん、なるほど、ね。」
ルカは少し考える。
「•••そしたら私、このメモ読み上げる!
ミーナはポイント決めて、私に伝えて!」
「え?
どういう•••。」
「全部、スマホで済ませちゃお!」
⸻
ズズー。
お茶をすするミーナ。
壁の時計は10時10分。
午前の事務作業が、全て終わる。
「•••あれー。
もう、終わっちゃったよ!?」
「そしたらじゃー、午後の仕事を前倒しでやっちゃう?」
ミーナはルカの目を見る。
「これは•••。
ほんとに、魔法!
もう終わっちゃったよ!?」
「あ、うん。
そうみたいだね。」
ズズー。
ゴクリ。
「こ、これが、AIの力なのね•••。」
ルカは首を横に振る。
「•••あ、ごめん、言ってなかったね。
AIは使っちゃダメって、常務が言ってたんだー。」
「えぇ!?」
ミーナは驚く。
「ルカ、だめよ!
ジョームの言いつけはちゃんと守らないと!」
ルカは笑う。
「あ、あはは!
うん、そうだね。」
ミーナの顔を見る。
真剣な顔。
「あは、大丈夫だよ。
AI、使ってないよ。」
ミーナは首をかしげる。
「え?
どういうこと?」
「便利なアプリっていっぱいあるんだよ。
AIを使わなくても。」
「えぇ!?
そうなの?
•••ねぇ、ねぇ、そしたらさ。
発注が簡単になるアプリ、とかある?
それがあると助かるー。」
ルカは少し考える。
「うん。
そしたら、原材料のリストを見せてみて。
表計算のアプリ、使ってるよね。」
パソコン画面。
ルカは入力を開始する。
「新しいファイル作るね。
あ、製品の一個あたりの分量ってどのファイルにある?
んーと、あと、一回の作業で作れる量も知りたいな。」
「•••わ、わかった。
ちょっと、待っててね。」
⸻
約1時間後。
「でーきたー!」
「えーと、出来たの?
何が、出来たの?
何がなんだか、わかんないけど。」
ミーナはボーッとしている。
「えーっと、このシートが受注の入力シート。
こっちは業務食材屋さんの発注表。
これが八百屋さんで、こっちは包材屋さん。
そして、これが•••。」
ミーナは呆然としている。
しかし、次第に目が開く。
「そしてー、これ!」
ルカは大きな瞳でミーナを見る。
「リッくんたちへの、発注シート。」
「え?
リッくんたち?」
「うん。
あれ?
製造の指示も、発注だよね?」
ミーナは何度も瞬きをする。
固まる。
「あ、もうお昼だよ!
続きは午後、また教えるね。」
⸻
二人は食堂のテーブルに着く。
「ううー、ごめんね。
ミーナ。」
ルカは謝る。
「いいのいいの!
午前中、頑張ってくれたからー。」
「明日、ぜったい返すからね。
•••食券。」
「いいってばー。
私、いっつも食券多めに持ってるから。
生産管理部はね、あのポイント集めたら、食券あげる事になってるの。」
「え?」
ルカは驚く。
考える。
「•••ひょっとしてだけど、それってミーナが?」
「あ、初めの頃はね。
その頃は、手作りクッキーとか、簡単なお礼だったんだけど。
でも今は会社が出してくれてるの。
これは良いことだからって。」
「あー、そうだよね、うんうん費用は会社が。
•••ていうか、それより!
あの、KAIZENって、ミーナが始めたの!?」
「え?
うん、そうだよー。」
「!」
ルカの目が大きく開く。
「労働者のモチベーション•••。
インセンティブ•••。
存在感•••。」
ペチン。
ひたいに手を当てる。
「あっちゃー。
そっかー。
•••私、勘違いしてたー。
ハリーさんが言ってた、敏腕マネージャー。
カナエさんじゃなかったー。」
ミーナを見つめる。
「ハンバーグおいしー。」
すでに食べている。




