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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
第二章 Primi piatti ー 絡み合う個性
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13/29

第十三話 KAIZEN

夜が明ける。


日が昇る。


カーン。


カーン。


かちり。


一日が始まる。


チッ、チッ、チッ。


チッ、チッ、チッ。


いつも通りに。



午前8時。


社員が輪になって集まる。

ハリーは全員の顔を伺う。

そして司会を始める。


朝のミーティング。


「おはようございます!」

ハリーの一声。


「おはようございます!」

全員が返す。


「それではボス、お願いします。」


サブローの挨拶。

「おはよう。

昨日、事前に通達した通り、これから新しいことを始める。」


今の社会の動向と会社の方針を話す。

そして、生成AI利活用PTの発足について。


「当社は取り掛かるのが、少し遅くなったかも知れない。

しかし、これから全員でしっかり向き合って行きたいと考えている。」


サブローは左から右へ、ゆっくりと全員に視線を送る。

「•••というわけでみんな、よろしく!」


ジョーの挨拶。

サブローに続き、生成AIの有効性とぜい弱性について話す。


「問題は色々考えられます。

しかし、大きな可能性があると感じています。

全員で学びながら、取り組んで行きましょう。」


ハリーは司会進行を続ける。


今日の業務の確認。


企業理念の唱和。


「One thanks for all, all thank for one !」


全員の声が重なる。


「それでは本日も、よろしくお願いします。」


「お願いします!」



「それじゃ、私、行ってきますね!」


「え?

どこへ?」


「生産管理部ですよ。

昨日、常務が言っていたじゃないですか。

ミーナさんの業務をサポートしてきます。」


「あー、そっか。

そういえば、そうだった。」


ルカはジョーにも声を掛け、生産管理部へと向かう。

ハリーはその後ろ姿を見つめる。


「•••そっか、そうだったな。」


デスクの上を見る。


ルカが用意した一枚の紙。

今週のハリーのスケジュール。


「•••びっしりだなー。」



シーン。


静まり返っている。

朝の生産工場内。


ルカは鼻の先に触れる。

塩素の匂いがツンとする。


コンコン。

カチャ。


「•••失礼しまーす。」


事務所のドアを開ける。

ワイワイ、ガヤガヤ声がする。

生産管理部での朝のミーティング。


「あ、ルカさん!」


リクがルカに気づく。


「あ、ほんとだ!

ルカさんだー!」


「リッくん、ミーナさん。

今日一日、よろしくお願いします!」


「みんなー、今日はルカさん、生産管理部のお手伝いなんだよー。」

ミーナ。


「マジすか!?」

リッくん。


「マジすか!?」

「マジすか!?」

男たち。


「マジよー。

って言っても事務仕事の、だけどねー。」


「•••そっすか。」


「そっすか。」

「そっすか。」


ルカは左手にペンとメモ。

さらにスマートフォンを持つ。


右手を斜めに、ワークキャップのツバに当てる。

「よろしくお願いします!」


男たちも右手をかざす。

「シヤっす!」


ぴったり重なる。



カチ、カチ。

ガチャ。


ウーン、ウーン。

パタン、パタン。


機械が動き出す。


ミーナとルカは事務所の前。

廊下の掲示板を眺める。


『KAIZEN 2026』。


たくさんのメモ。


「あー、またいっぱい増えてるぅ。

溜まっちゃったぁ。」


「みんな、書いてくれるんだね。

協力的でいいね。」


「うん、でも集計とか、改善の検討とかが大変なのよね。

良し悪しだなぁ。」


「そっかぁ。

カナエさん、普段も居てくれたら良いのにね。」


ミーナは一枚一枚、目を通す。

ボードに書き込む。


ルカは黙って見守る。

約1分。


ルカが口を開く。

「それ、良かったら私が代わるよ?」


「あ、ありがと、ルカ。

そしたら、この欄に内容を書いて、あと日付と名前がこっち。」

「この、欄は?

ポイントって?」


「うん、そこは後で私が点数決めるから、空欄でいいよ。」

「ふーん、なるほど、ね。」


ルカは少し考える。


「•••そしたら私、このメモ読み上げる!

ミーナはポイント決めて、私に伝えて!」

「え?

どういう•••。」


「全部、スマホで済ませちゃお!」



ズズー。


お茶をすするミーナ。


壁の時計は10時10分。

午前の事務作業が、全て終わる。


「•••あれー。

もう、終わっちゃったよ!?」


「そしたらじゃー、午後の仕事を前倒しでやっちゃう?」


ミーナはルカの目を見る。

「これは•••。

ほんとに、魔法!

もう終わっちゃったよ!?」


「あ、うん。

そうみたいだね。」


ズズー。

ゴクリ。


「こ、これが、AIの力なのね•••。」


ルカは首を横に振る。


「•••あ、ごめん、言ってなかったね。

AIは使っちゃダメって、常務が言ってたんだー。」


「えぇ!?」


ミーナは驚く。

「ルカ、だめよ!

ジョームの言いつけはちゃんと守らないと!」


ルカは笑う。

「あ、あはは!

うん、そうだね。」


ミーナの顔を見る。

真剣な顔。


「あは、大丈夫だよ。

AI、使ってないよ。」


ミーナは首をかしげる。

「え?

どういうこと?」


「便利なアプリっていっぱいあるんだよ。

AIを使わなくても。」


「えぇ!?

そうなの?

•••ねぇ、ねぇ、そしたらさ。

発注が簡単になるアプリ、とかある?

それがあると助かるー。」


ルカは少し考える。


「うん。

そしたら、原材料のリストを見せてみて。

表計算のアプリ、使ってるよね。」


パソコン画面。

ルカは入力を開始する。


「新しいファイル作るね。

あ、製品の一個あたりの分量ってどのファイルにある?

んーと、あと、一回の作業で作れる量も知りたいな。」


「•••わ、わかった。

ちょっと、待っててね。」



約1時間後。


「でーきたー!」


「えーと、出来たの?

何が、出来たの?

何がなんだか、わかんないけど。」


ミーナはボーッとしている。


「えーっと、このシートが受注の入力シート。

こっちは業務食材屋さんの発注表。

これが八百屋さんで、こっちは包材屋さん。

そして、これが•••。」


ミーナは呆然としている。

しかし、次第に目が開く。


「そしてー、これ!」


ルカは大きな瞳でミーナを見る。

「リッくんたちへの、発注シート。」


「え?

リッくんたち?」


「うん。

あれ?

製造の指示も、発注だよね?」


ミーナは何度も瞬きをする。

固まる。


「あ、もうお昼だよ!

続きは午後、また教えるね。」



二人は食堂のテーブルに着く。


「ううー、ごめんね。

ミーナ。」


ルカは謝る。


「いいのいいの!

午前中、頑張ってくれたからー。」


「明日、ぜったい返すからね。

•••食券。」


「いいってばー。

私、いっつも食券多めに持ってるから。

生産管理部はね、あのポイント集めたら、食券あげる事になってるの。」


「え?」


ルカは驚く。

考える。


「•••ひょっとしてだけど、それってミーナが?」


「あ、初めの頃はね。

その頃は、手作りクッキーとか、簡単なお礼だったんだけど。

でも今は会社が出してくれてるの。

これは良いことだからって。」


「あー、そうだよね、うんうん費用は会社が。

•••ていうか、それより!

あの、KAIZENって、ミーナが始めたの!?」


「え?

うん、そうだよー。」


「!」


ルカの目が大きく開く。


「労働者のモチベーション•••。

インセンティブ•••。

存在感•••。」


ペチン。

ひたいに手を当てる。


「あっちゃー。

そっかー。

•••私、勘違いしてたー。

ハリーさんが言ってた、敏腕マネージャー。

カナエさんじゃなかったー。」


ミーナを見つめる。


「ハンバーグおいしー。」


すでに食べている。

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