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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
第一章 Antipasti 芽吹きの契機
11/12

第十一話 ガイドライン

しとしとしと。


静かな雨音。

薄暗い部屋。


チッ、チッ、チッ。

秒針の音。


ガバッ。

ハリーが目覚める。


「はぁ、はぁ。」


腕時計を見る。

5時50分。


スマートフォンを見る。

5時52分。


「•••はぁ、はぁ。」


息をいっぱいに吸う。

大きく吐く。


「はぁー•••。」


どさっ。

ベッドに身が沈む。



「おはよう。」


「おはよう。

今朝も雨ね。

洗濯物が溜まっちゃうから、コインランドリー使うわ。」


「•••うん、了解ー。」


「どうしたの?

具合悪いの?」


「あぁ、いやー。

ちょっとやな夢、見ちゃってさ。」


「そう、どんな夢だった?」


「んー。

時計がね、壊れちゃった夢。

直そうとして分解して。

そんで、部品が落っこちて。

ヤバい!

って思ったところで目が覚めた。」


「あー、そっかぁ。

その腕時計、夢に出てくるほど大事にしてる。

そういうことよね。」


「んー•••。」


「あ、ひょっとして。

あの事、思い出してたの?」


「うん、まぁ、•••そうだね。」


ハリーはテーブルに着く。


スープの香り。

料理が並ぶ。

白い湯気。


ゆらゆら。



「ハリーさん!

おはようございます!」


「おはよう、ルカさん。」


「何だか元気なさそうですね。

具合悪いんですか?」


「え?

あ、いやー。

ちょっとやな夢、見ちゃってね。」


「そうなんですね。

どんな夢だったんですか?」


「え?

えーと、時計が壊れちゃってね。

直そうとして、分解して•••。

部品が落っこちて。

ヤバいって思ったところで目が覚めた•••。」


「あー、なるほど。

その腕時計、夢に出てくるほど大切にしてる。

そういうことですね、きっと。」


「え?」


「え?」


二人は首を傾げる。


「あれ?

私、変なこと言っちゃいました?」


「あー、いや。

全然、そんな事ないよ。」


「ハリー、おはよう。」


ハリーが振り向く。

ジョーがやって来る。


「昨日は時間が取れなくて悪かったね。

朝礼が済んだら話をしよう。」


「あ、はい。」


ジョーはルカを見る。

「ルカくんも一緒に。」


「え、あ、はい!」



『応接室』


ハリーは昨日の報告をする。


「そうか。

やっぱり、ボスの言っていた通りだね。

ルカくんはこれから、大きな存在になるだろうって。」


ハリーは頷く。

ルカはゆっくり頭を下げる。


「それでねぇ。

ボスからの指示なんだけど•••。

とりあえず、企画部は職務に集中せよ、と。」


ハリーとルカは黙って聞く。


「そして、ルカくん。

キミに生産管理部のミーナをサポートして欲しい。」


ルカの目が大きくなる。

頬がゆっくり上がる。


「とりあえず明日。

一日だ。」


「はい!」

笑顔で返事をする。


「ただし•••。」

ジョーは拳を口元に当てる。

小さく咳払いする。


「生成AIの使用は、ひとまず控えるように。」


一拍の間。


「そして、ハリー。」

「あ、はい。」


「キミたち二人に、今から私とやって欲しいことがある。」

「何でしょうか。」


「生成AIの社内ガイドラインの策定だ。」



ハリーは事務所に戻る。


部下に指示を出す。


ジョーはルカに問いかける。

「キミ、ひょっとして•••。

すでにある程度、出来上がってるんじゃないか?」


「あ•••。

えーと、そう、ですね。

ちょっと1分だけ頂いてもよろしいですか?

素案を出しますので。」


1分後。


ハリーが戻る。


「おお、素晴らしい。」

ジョーが感嘆を上げる。


「ふむふむ。

なるほど、ケーススタディまで考えられている•••。」


「あ、はい。

それとー、生産管理部ではAIを使用しない方針ですよね。」


「うむ。

ひとまず、だな。

情報漏洩が気になるからだが•••。」


「たぶんですけど•••。

AIのアドバイスだけで、圧縮できると思います。

かなりの仕事量が。

•••ですので、この部分。」


ルカはタブレット画面を指差す。


『生成AIの活用を推奨する。

ただし事前に報告すること。』


「この言葉と•••。」


『生成AIの直接利用、間接的利用の区分について』

「ここ、とっても重要です。」


ハリーはあっけに取られる。


「あははは、ほんとスゴいね。

えーとオレ、お茶、淹れてきましょうか?」


一拍の間。


ルカはハッとなる。


「ああああー!

す、すみません!

すみません!

お、お茶は•••。」


すくっと立つ。

固く目をつむる。


「お茶は、私がー!」



ウーン、ウーン。

パタン、パタン。


機械音が鳴る。

生産管理部。


カツ、カツ、カツ。


足音。

小走り。

クリップボード。


キラリ輝く。

メガネをかけ直す。

白衣のミーナ。


『冷蔵・冷凍保管室』。


ガッチャン。

扉が開く。


シュオー。

白い気体が流れ出す。


「いちにーさんしーごーろく•••。

あれー?

やっぱりだ。」


ボードの数字を見る。

「うーん、何で?」


ガッチャン。

扉が閉じる。


「•••うー、寒っ。」

クリップボードを抱きしめる。


カツ、カツ、カツ。


小走り。

うつむきながら。


「どうかしたの?

マネージャー。」


ミーナは顔を上げる。


「あー、リッくん。

うーん、それがねー。」


クリップボードを見る。


「在庫がね。

どういう訳か、増えてるの。」

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