第十話 良かったら
ルカは良く見比べる。
ハリーの腕時計。
スマートフォン。
「あぁ。
時間、ズレちゃっているんですね。」
どこかを見ているハリー。
瞬きを数回。
そしてルカを見る。
「•••あ、あぁ。
そうなんだ。
この時計、時間ズレちゃうんだよ。
一日に1分くらい。」
「えー?」
ルカは目を大きく開く。
「それって、時計の価値、無くないですか?」
興味深く腕時計を観察する。
「んー、無いのかもね。」
ハリーの表情が曇る。
「ふふふ。
それでも使ってる。
それって、なんか良いですね。」
二人は腕時計を見る。
「うん。
多少ズレていても、役に立つからね。」
ハリーは微笑む。
「この時計はねー•••。」
言いかけて止める。
「ヤバ!
もうこんな時間!
ズレてるから、あと1分だけー!
急いで戻ろう!」
⸻
総務部事務所。
ハリーのデスクの前。
一人の後ろ姿。
「あれ?
カイトくん。
どうしたんだい?」
「あ、ハリーさん、待ってました。」
カイトは息を吸い込む。
「会議の後、みんなで話したんです。」
息を吐いて、また吸い込む。
「オレたち今、割と余裕あるんで、手伝おうと思うんです。
生産。
もし良かったら、ですけど。」
息を吐く。
吸って吐いて、整える。
ハリーは微笑む。
「そんなに緊張しなくていいよ。
そっか、みんな、優しいんだな。」
ルカの視線は斜め下。
ハリーのデスクの上。
数枚の付箋メモ。
「よし。
キミたちの意志は、素晴らしいと思う。
常務にまず伝えるよ。」
カイトの顔を見つめる。
「•••うん、ありがとうな。
みんなにも言っておいて。」
「わ、わかりました。」
ぐぅ〜。
カイトの腹の音。
「•••あ。
それでは、失礼します。」
カイトは軽く礼をして、足早に去る。
「あいつ、良いやつだな。
なんか、待たせちゃって悪かったな。」
「ほんとですね。」
ルカがハリーに差し出す。
A4用紙2枚。
付箋メモが並べてある。
「こっち、私が出来そうです。
もし良かったら、ですけど。」
微笑むルカ。
⸻
ブルル。
スマートフォンが震える。
ジョーが見る。
| よろしければ、お時間を頂けますか?
| 企画部が生産を手伝いたいそうです。
| あと、ルカさんの仕事振りについてです。
「ハリーからだ。」
画面を見せる。
「良い感じ、だね。」
「うむ。」
サブローが立ち上がる。
窓の外を見る。
チュン、チュン。
鳥が囀る。
雨あがり。
水たまり。
空が映る。
開き始める。
雲の隙間。
ほんの僅か。
青い色。




