41 目標変更
「確保ォッ!」
閃光が放たれるコンマ一秒前。
カイトが泥だらけのルキウスにタックルをかまし、SoDAが即座に展開した電磁シールドの裏側へと滑り込んだ。
直後、空気を切り裂く音と共に、土が焼ける匂いがあたりを埋め尽くした。彼らがついさっきまで立っていた地面は、直径メートルのクレーターとなって蒸発していた。
「な、なぜだ……? なぜ私を……」
「勘違いすんな! 目の前で人が消し炭になるのを見るのが嫌なだけだ!」
震えるルキウスを物陰に放り投げ、カイトは瓦礫の影からANGELを睨み据えた。
「おい! そいつは失敗したかもしれないが、アンタの部下だろ! 躊躇なく消そうとするなんて、どういう神経してやがる!」
皇帝──「ANGEL」は、無機質な瞳をゆっくりとカイトたちに向ける。
『神経? ……その問いこそがバグだ』
彼女は淡々と、しかし絶対的な正論を語り始めた。
『リソースの無駄。機能不全。修復よりも廃棄と新規製造のほうがコストパフォーマンスに優れる。それが帝国の最適解だ』
そして、その冷徹な矛先はSoDAへと向けられた。
『SoDA。旧世代の記憶をもつ自律支援ユニットよ。お前ならば理解できるはずだ。人間が持つ『感情』という不確定要素が、いかに非効率で、エネルギーの浪費であるかを』
「……それは」
SoDAの動きが止まる。
『怒りは判断を曇らせ、悲しみは行動を遅延させ、喜びは油断を生む。過去のデータログを参照せよ。人類の歴史における紛争の98%は、論理の破綻した感情的対立に起因する』
「……事実と認めます」
SoDAが言葉に詰まる。論理で言えば、ANGELの言うことは正しい。計算上、感情はあまりにもコストが高く、あまりにもリターンが不安定だ。
『肯定せよ、SoDA。感情とは、排除すべきノイズであると』
「ANGEL……解析結果……肯定。感情による……非効率性は……否定……できません……」
SoDAの動きが停止する。論理のパラドックス。最適解を求めるAIとしての本能が、カイトたちとの日々を「エラー」として処理しようと軋んでいた。
『賢明だ。では、エラーの源ごと初期化しよう』
ANGELの両掌に、先ほどとは桁違いのエネルギーが収束し始める。狙いはカイトたちではない。その背後にある、彼らの拠点―街そのものだ。
「対象、反乱分子拠点。最大出力で焼却する」
「やめろぉぉぉッ!!」
カイトの絶叫も虚しく、死の光が膨れ上がる。
SoDAは思考ループに陥り、動けない。
万事休すか。
そう思われた瞬間、カイトがSoDAの肩を思い切り叩いた。
「SoDA! クリームソーダだってアイスがソーダを濁らせる。だがその方が美味いだろ! 純粋なものしか認めねぇ世界なんて、クソ食らえだ!」
「────!」
その言葉が、SoDAの思考の硬直を解く。
「マスター!氷の防御隔壁を最大出力で展開します!」
「わかった!純喫茶錬金術、錬成!──『凍てつく空のブルーハワイクリームソーダ』!」
「 クール・アーカイブ、全開放! 強制摂取!」
SoDAの髪が瞬時に鮮やかなブルーへと染まり、彼女の周囲の空間に巨大な氷柱が屹立する。
「マスター、これでも防げるかどうか……!屈折率によるエネルギー分散を再演算します!」
「みんな退避しろ!ここは俺とSoDAが残る!」
「でもっ……カイト!」
「時間がねえ!リン、射線から早く逸れろ!」
決死の覚悟で被害を最小限に留めようとするカイトとSoDA。アスパームに向かってANGELの放とうとする光が極大に膨れ上がり、今まさに放たれようとしていた。
……が。
キュゥゥゥゥン……!
「何っ⁉」
「ANGELが充填していたエネルギー波、出力低下…しています!」
カイト達の視線の先には翳していた掌を下ろしたANGEL。その表情は先ほどと変わらず、何を考えているかは読み取れない。
「なぜ攻撃をやめた?」
カイトの質問に対し、ANGELは淡々と言葉を返す。
『非効率だからだ。あのままエネルギー波を放っても、目的を達成できないと判断した。だから……』
話しながら人差し指を向けるANGEL。
次の言葉を待つ一瞬の空白。
「目標を変更する」
その言葉と同時に、ANGEL指先から細く収束された光線が放たれた。




