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38 歩み寄りの兆し、なれど…

「よくぞ戻ったな……待ちかねたぞ。見て驚け聞いて驚け。私は『《美学》』の第2段階へと到達したのだ……!」


 鼻血を垂らしながら立ち上がるルキウス。その手には、何やらキラキラと光を放つ怪しげなマイクが握られている。


「……嫌な予感しかしないんだけど」


「失礼な、リン嬢。これは《《美声増幅マイク・ルキウスモデル》》。私の声を、100倍……いや、1000倍に増幅してくれる究極の美具だ!」


「ちょっ これ以上は…!」


「やめろバカァァァァァァ!」


「いくぞ! 我が声よ! 世界を照らす光となれぇぇええ!!」


 ルキウスがマイクを構え、息を吸い込む。


「SoDA、ナノバブルウォール緊急展開っ!」


「展開――完了!」


 SoDAが半透明の音波シールドをドーム状に展開し、その内側でルキウスが声を放つ。

 


「おおおおおおぉぉぉぉ!世界よぉ!神よぉ!なぜ私に試練を与えるのかぁー!この私の美しさを罪というのならばぁあぁぁぁ!」



 

 

 だが――




「……お? 耐えてる?」


「SoDAのシールド……すごいじゃない!」


 ルキウスから発振される音声は、全て厚く張り巡らされたナノバブルウォールにによって吸収され、完全に遮断されていた。


「マスター。分析しましたが……ルキウスの歌声は“攻撃”というより“概念的な寒気”です。物理的ダメージはゼロです」


「精神的ダメージはどうなんだよ……!」


「それは……甚大です」



「なんの!こんな泡なぞ吹き飛ばしてくれるわ!」


 ルキウスは再び声を発しようと息を吸い込む。

 その瞬間。


「リン、今!!」


「まかせてッッ!!」


 リンが無言で近寄り、ルキウスの手からマイクをひったくって真っ二つに折った。


「な……!? な、な、何をする……!?」


「うるさい!街の住民への精神攻撃はここまでよ!!」


「ちょ、ちょっと待て!それは高貴な美声を放つための道具であって決して住民を害するつもりなど────って、ちょっと待て!」


「マスター、ルキウスの拘束を完了しました。いかがなさいますか?」


 今度はSoDAが後ろからルキウスを羽交い締めにし、空中に浮かせる。


「放せっ! 私はまだ全てを出しきっていな――」


「ちゃんと周りを見ろ!迷惑なんだよ!!」


 カイトの怒号が広場の中心に響く。


「む?彼らは私の美声で心地よく眠りについているじゃないのか?」

 

「「気絶してんだよ!このおバカ!」」


「そんなっ⁉」



 ショックを受けてはらはらと崩れ落ちるルキウス。

 そんなルキウスにカイトがあきれ果てながらも問いかける。


「なぁ、この前のソーダがそんなにショックだったのか?」


「むぅ……それは確かに認めざるを得ん。それ故に、私は君たちを説得したいのだ」


「説得って?」


「うむ。帝国と───いや、私と手を組まないか?」


「なんだって?」


 突然の申し出に驚くカイト達を他所に、ルキウスは演説モードに入って髪をかきあげる。


「ああ、そうだ。君たちの有り様は、帝国の基本方針とは相容れぬ。帝国は人類の救済を至高の目的として、「効率」を重視し、「無駄な感情」を抑制してきた。私はそこに『美学』を感じたが故に、帝国のために尽くしてきた。それに誇りを持っていることは今も変わらぬ。だが、私はそこに新たな風を吹き入れる時が来たと思ったのだ。─────はからずも、カイト、君のソーダを飲んだことでな」


「でも、だったらなんでアナタは何回も嫌がらせするのですか?」


「私の『美学』で君たちを染めたかったから、だな」


「……逆効果では?」



 ルキウスの悪びれなく返答する様子に、Solaはがっくりと肩を落とす。




「……SoDA?美学云々はともかく、こいつの言ってることは本気か?」


「マスター。ルキウスの言っていることはどうやら本心の様です」


「……だ、そうだ。どうするリン?」


「そうねえ……帝国との交渉の窓口になるのであればいいんじゃない?別に私達も戦闘をしたいわけじゃないんだから」


「……わかった。お前の言葉を信じよう」


「おお!我が呼びかけに応えてくれるか!では、まずは我が厳選した茶器と家具を準備して……」


「いや、そんなことせんでも」


「いやいや、何もしないのはそれこそ『美学』に反する」


 ルキウスが部下に命じようとしたその瞬間。







 シャアァァァァァン!






『その必要は……ない』



 空気を切り裂く音と光とともに、一体の白い影が大地に降り立った。





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