37 ルキウス・ショータイム!
「ドリアンの残り香」をナノバブルで洗い流し、ようやく平穏を取り戻したはずのアスパームは、今、別の意味での「危険領域」と化していた。
広場の中央に鎮座するのは、純白に塗り固められた巨大なグランドピアノ。その前に座り、鍵盤を叩きつけるのは、これまた無駄にフリル多めな純白のタキシードに身を包んだルキウス・ヴァレンハイトその人である。
「空よぉ!風よぉ!我が魂の煌めきを聴くがいい!私のソウルが奏でる、美の絶対旋律をぉ!」
彼の指が鍵盤を踊り、音楽が奏でられる。
優雅な旋律が紡ぎだされ、心地よささえ感じる。
目を瞑れば、脳裏に清々しい風が吹く静かな湖畔が浮かび上がるよう。
────だが。
「♪あ~あぁ~……私は薔薇……孤独な薔薇……。泥にまみれた民草を……私の吐息で白く染め上げ……」
「……ひ、ひぃ……! 耳が、耳が腐る……!」
「誰か……誰か彼に鎮静剤を……っ!」
「も、もうダメだ……!聞くたびに心臓が、ひゅっと……ひゅっとなる……!」
「助けてくれ……頼むから……音程の概念を思い出してくれ……!」
自己陶酔的に発せられる美声(?)が、残念すぎた。
広場のあちこちに倒れた住民。中にはあまりの寒さに凍りつき、氷像みたいに震える者もいる。なまじっか奏でる音楽が極上な分、ついつい聞いてしまうのですごくタチが悪い。
住民たちは耳を押さえてのたうち回り、広場のハトたちはバタバタと空中から墜落していく。SoDAの分析通り、それは「人間の許容範囲」を物理的に超越していた。
「よぉぉぉし!乗ってきたッ!次は我が魂の深奥――《《純白なる孤独の調べ》》を!」
「やめてくれええええ!!」
住民の叫びは虚しく、彼は胸に手を当てて深呼吸をし――――口を開こうとしたその瞬間。
ドグシャァァァァァン!
突如、上空から黒い影が落下し、ピアノの蓋ごとルキウスを叩き潰した。
「……ッ!? な、何者だ……っ!?」
ルキウスがひしゃげたピアノの残骸から這い出ると、そこには――
「だからさっさとこうやって潰しときゃ良かったんだよSola!」
「ガイ様、そうは言ってもこのピアノに罪は無いので……でも仕方ないですね。どうせならルキウスごと潰してしまいたかったです」
ピアノの上にはビッグハンマーを持つガイとSola。そして……
「ったく……なんで毎回邪魔すんだよ!」
「ルキウス……覚悟しなさい……!」
「マスター。対象の“歌唱攻撃”を無力化するフィルターは正常に作動しています」
カイト、リン、SoDAが苦々しい顔をして揃って立っていた。




