第325話 けっして忘れない
俺達は劇場を出ると、カフェテラスにやってきて、お茶とパンケーキを頼んだ。
「おしゃれですねー」
「都会女子になったね」
「都会女子はわからないけど、悪くないわね」
わずかに来る風は気持ちいいが、中で食べればよくないかと思ってしまうな。
「ジーク様、美味しいですよ!」
ヘレンはパンケーキを美味しそうに食べている。
一口食べたのだが、甘すぎて、ヘレンにあげたのだ。
「良かったな。俺もコーヒーが美味いよ」
この苦みがちょうどいい。
「劇、面白かったですね」
「そうだね。やっぱり迫力があったし、良いものだと思うよ」
「久しぶりに観たけど、確かに良かったわ」
まあ、悪くはなかったな。
「レオノーラ、あれって他の演目もあるのか?」
「あるよ。日によって内容も劇団も違う。アデーレも言ってたけど、コンサートなんかもやる。王都は劇団も多いからね」
ふーん……
「リートにはそういうのがないですね。ネピアにはありますけど」
隣町か。
「そうなの?」
「ええ。行ったことはないですけど、聞いたことはあります」
そうなんだ。
「そっかー。そっちの方に行ってみるのも良いかもね」
「そうね。ネピアなら飛空艇を使っても安いし、日帰りで帰れるわ」
隣町だからな。
「まあ、たまにはそういう休みも良いかもな」
俺達はその後もカフェで小休憩を取りながら劇の話なんかをしていったが、16時を回った辺りで帰ることにし、ホテルに戻った。
そして、階段を上がり、部屋の前に立つ。
「レオノーラ、18時に予約してあるから15分前に部屋に行く。用意しておいてくれ」
「うん。わかったー」
レオノーラがいつものように軽い返事をする。
「エーリカさん、私達は夜景よ」
「素敵ですー」
俺達はそれぞれの部屋に入った。
「ふう……ちょっと疲れたな」
席につき、外を眺める。
「大丈夫ですか?」
ヘレンが心配そうに見上げてくる。
「あ、いや、体調が悪いとかそういうのじゃない。劇を観たから疲れただけだ」
「なら良かったです」
「お前、夜はついてこないか?」
「行きませんよ。エーリカさんの部屋にでも投げてください。私も夜景でディナーです」
そうか……
俺はまだ少し時間があったので魔道具作りに入った。
とはいえ、あっという間に時間が迫ってきたので準備をする。
「こんなもんか?」
クリスに買ってもらった紳士服を着てみたのだが、合っているのかわからない。
「大変お似合いです。まさしく、紳士ですね」
ふむ……
「絶対に大衆店で飲み食いした方が楽しいぞ」
「ちょっとしたイベントですよ。頑張ったレオノーラさんのお祝いです」
それはわかっているんだけどな。
「さて、レオノーラを迎えにいくか」
「褒めてくださいね」
「わかっている」
俺は学習できるんだ。
部屋を出ると、エーリカの部屋に行き、ヘレンを預けた。
そして、その隣の部屋をノックする。
『はいはーい。ちょっと待ってねー』
レオノーラは扉越しでそう言ったものの、すぐに扉が開き、中から出てきた。
レオノーラは前にも見た黒っぽいドレスであり、やはりいつもとは印象が違う。
「貴族だなって感じがするな。品がある」
やっぱり俺やエーリカとは違う気がする。
「そうかい? 君の方がよっぽどそう見えるよ?」
ないない。
「まあいい。行くか。店はすぐ近くだが、車を呼んである」
内線で受付に頼んだのだ。
「それは嬉しいね。昼間はお姉さんがエスコートしたけど、夜はジーク君がエスコートして」
「ああ」
レオノーラが手を出してきたので取り、歩いていく。
そして、1階まで降り、ホテルを出ると、車に乗り込んだ。
すぐに発進したのだが、近いのですぐに着き、車から降りる。
「ここ?」
「ああ」
「要求しておいて、なんだけどさ、レベルが高くない?」
レオノーラが外観を見て、ちょっと引いている。
「クリスに紹介してもらったんだ」
「なるほど……」
「慣れてるだろ」
「田舎貴族だってば……」
高級レストラン自体には来たことがあるが、それでもこの店はレベルが高いか。
「個室を取ってあるし、気にするな。俺のエスコートに従っておけ」
「頼もしいなー」
俺達は店の中に入る。
すると、ウェイターがおり、綺麗な姿勢で頭を下げてきた。
「いらっしゃいませ」
「ああ。予約をしているジークヴァルトだ。プレヒト家のクリストフが予約をしてくれていると思う」
これで予約が取れてなかったらこのままあいつの家に突撃しよう。
「ジークヴァルト様とレオノーラ様ですね。伺っております。それではこちらへどうぞ」
俺達はウェイターについていき、階段を上がる。
1階が受付であり、2階はホールのようで広い部屋に間隔を空けたテーブルがあり、なんか雰囲気ある男女が食事を楽しんでいた。
そして、3階までやってくると、個室に入った。
部屋は高級感ある黒い内装であり、わずかな明かりが灯っている。
奥の窓は大きく、夜景も綺麗だ。
「すごいね」
「そうだな」
俺達はウェイターに椅子を引かれ、席につく。
そして、ワインやコースの説明をされたのだが、よくわからなかったので適当に頷いておいた。
ウェイターが一礼し、下がっていったが、すぐにワインを持ってきて、グラスに注いでくれる。
再び、ウェイターが下がると、レオノーラと顔を見合わせる。
「連れてきてもらってありがたいけどさ、大丈夫?」
「大丈夫だ。当たり前って顔をしておけ。俺は陛下から認められた3級国家錬金術師であり、お前は貴族令嬢だ」
「おー、なんか大丈夫って思えてきた」
そうそう。
「ほら、乾杯をしよう。レオノーラ、鑑定士の試験、合格おめでとう」
「ありがとう」
軽くグラスを合わせると、ワインを飲む。
うん、芳醇だ。
「美味しいね」
「ああ」
実に芳醇だ。
「まさかこのレベルの店に連れてきてもらえるとは思わなかったよ」
クリスに頼んだらこうなってしまった。
「何事も経験だ。昼の劇もだったが、知らないことを経験することは良いことだろう。劇もここも1人では絶対に来ない」
「まあ、そうだね。今日は忘れられない1日になると思う」
本当にそうだ。
「ちょっと確認なんだが、あいつらも受かったら連れてこようと思っている。アデーレはともかく、エーリカは大丈夫だろうか?」
「アデーレは澄ました顔でこなすだろうね。エーリカは……前もって言っておくよ」
アデーレは絶対に敬語モードだ。
「頼む」
エーリカは目が泳ぎそうだな。
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