第324話 初めての経験
本部を出ると、町中を歩いていく。
「いやー、めっきり過ごしやすくなりましたね」
「そうだねー。ジーク君、アデーレ、あの木を見てごらん」
レオノーラが街路樹を指差した。
「木だな」
「種類はわからないわね」
俺もわからない。
「思うことはそれだけ? エーリカはどう?」
「すっかり秋です。紅葉になりかけています」
まあ、そうだな。
「2人共、これが感性だよ」
ふーん……
「帰ったら森にでも行くか? 綺麗かもしれんぞ」
「あ、それはパスで」
そうかい。
まあ、俺も行きたくないけど。
俺達はその後も王都を巡っていく。
以前に来た時よりも暑さが和らいでいたし、確かに過ごしやすくなっていた。
ただ、所詮はインドアな俺達なのですぐにカフェに入った。
そして、昼になったのでそのまま軽い昼食を食べると、劇場に向かう。
「ジークさんとアデーレさんは劇場に行ったことがあるんですか?」
エーリカが聞いてくる。
「ない」
あるわけがない。
「私は何回か友達やお爺様と行ったわね。演劇も観たし、コンサートも見に行ったわ」
へー……
「さすがはアデーレさんですね。都会女子です。レオノーラさんはありますか?」
「王都ではないけど、小さい頃に地元の近くの大きな町で観たかな?」
「へー……どうでした?」
「面白かったよ。一回は見た方が良い。ジーク君もね」
前世を含めて、一回も劇場には行ったことがない。
映画くらいは観たことがあるが。
「お前に任せる。劇場なんて一人では絶対に選択肢に上がらないが、良い機会だ」
何事も経験。
レオノーラに誘われて、一緒に行った釣りは楽しかった。
「そうそう。お姉さんのエスコートに任せたまへー」
「楽しみですー」
俺達は王都の中央付近にある劇場にやってくると、チケットを買い、中に入る。
「大きいな」
「ホントですね。何人入るんでしょうか……」
わからん。
劇場なんてあったのかってレベルで知らない。
「私も初めて来たけど、大きいね」
「地方にある劇場とは規模が違うもの。私も最初に来た時はびっくりした」
やはり王都は違うんだろうな。
俺達はホールに入ると、席につく。
場所は真ん中くらいでそこそこ良い場所である。
並びは俺、エーリカ、レオノーラ、アデーレだ。
「ホールも広いですねー……2階席までありますよ」
エーリカが後ろを見上げる。
確かに2階席がある。
「平日の昼なのに人も多いな」
開演10分前だが、すでに半分以上は埋まっている。
「人気なんですね、これ」
エーリカがチケットを見たので俺も自分の分を見てみる。
『革命の王宮物語』だ。
「不敬罪で捕まらないか、これ?」
「ど、どうなんでしょう?」
「いや、物語だから。ウチの国とは全然、関係ないよ」
「小説じゃなかったかしら? 聞いたことあるし」
へー……あまり小説も読まないからな。
「レオノーラ、知ってるか?」
レオノーラの趣味は読書だ。
「うん。アデーレが言う通り、小説だよ。昔、読んだことある」
そのくせなんちゃらかい。
「面白いのか?」
「面白いよ。まあ、その辺は気にしなくていいよ。小説とお芝居は違うし、こういうのでしか得られない感動もあるんだよ。つまらなかったらつまらなかったでそういう話のネタにすればいい」
いや、つまらないのは嫌なんだが?
「何時までだ?」
「13時から15時までの2時間」
そんなもんか。
待っていると、開演時間になり、辺りが暗くなった。
代わりに舞台が明るくなり、劇が始まる。
最初に軽くナレーションが入り、設定の説明が入ったが、すぐになんかお姫様っぽい人が現れ、1人で話し始めた。
さらには騎士も現れ、なんか恋仲っぽい空気が流れている。
うーん……恋愛ものか?
好きじゃないから微妙……
その後も見ていくが、どうやら2人は許されない恋のようだ。
しかも、お姫様にはなんかムカつく貴族の婚約者がいる。
そいつはお姫様を物のように扱う最低野郎であり、なんか殴りたくなる。
しかも、王様が決めた婚約に逆らえないお姫様は俯いて嘆くばかりだし、騎士は主従関係に逆らうことができずに悔しい思いをしてばかりだ。
いや、駆け落ちでもしろよ。
何してんの?
神に祈ってばかりでは何も起きんぞ?
こいつら、バカなのか?
次第に国の情勢が怪しくなる。
どうやら国王は暗君のようで重税を課せられた民の不満がどんどん募っていき、反乱軍が結成されたようだ。
しかも、何故かわからないが、騎士も反乱軍側だ。
こいつ、お姫様を殺す気か?
バカ?
あ、待てよ。
混乱に乗じて、お姫様と駆け落ちする気かも。
でも、こいつ、バカだしなー。
上手くいくのか?
物語は進み、ついに反乱が起きた。
一斉に蜂起した市民達は武器を取り、正規軍を倒していく。
そして、城に迫ると、騎士はこっそりと秘密の脱出路から城に侵入した。
いや、そんな道を知っているなら最初から使えばいいのでは?
まあ、この騎士はバカだし、仕方がないか。
というか、なんで一介の騎士がそんな脱出路を知ってるんだろう?
騎士は脱出路を使い、お姫様の部屋にやってきた。
当然、そこにお姫様がおり、騎士と熱い抱擁を交わす。
いや、逃げろよ。
そういうのは後にしろ。
待て、待て! なんでキスをする!?
違うだろ。
逃げろよ。
ほら、なんか来たぞ。
「貴様、何をしている!?」
あ、こいつ、ムカつく婚約者だ。
斬れ。
「私は王女様を愛しているんだ!」
いや、そういうのいいから。
先手必勝で斬れ。
「おのれ! ゆるさん! 決闘だ!」
え? なんで?
衛兵を呼べよ。
お前、貴族だろ。
騎士に勝てると思ってんの?
あ、こいつもバカなのか。
よくわからないが、決闘が始まったので見る。
綺麗な剣劇を交わしており、これはちょっと興奮した。
しかし、何故か騎士の方が劣勢だ。
「くっ!」
「ふっふっふ。ここまでのようだな」
え? バカなうえに弱いの、お前……
良いところないじゃん。
「私は負けない!」
おー、よくわからないが、騎士にスポットライトが当たり、光り出したぞ!
ついに覚醒か!?
「ふん! これでとどめだ!」
婚約者の方が剣を突き出した。
しかし、それより先に騎士の剣が婚約者の身体を突き刺す。
「ぐっ、バカな……」
そりゃ不用意に突っ込むからだろ。
というか、衛兵を呼べよ。
婚約者が倒れると、お姫様が騎士に駆け寄る。
またキスか?
絶対にキスだろ。
ほらー! キスだ!
だから逃げろっての。
「姫様、逃げましょう!」
いや、お前が言うな。
「ええ。早くしないとこのままでは王都に戦火が」
お前も言うな。
というか、もう城まで攻め込まれているから。
戦火はすでに王都に達しているから。
2人は秘密の脱出路から抜け出すと、走って王都を出る。
なんでそんなに簡単に出られたのかはわからないが、王都を出ると、2人は高台から燃える王都を見下ろした。
俺は大人なので王都なんかの重要な拠点は偵察されないように高台の近くには作らないんだぞという野暮な知識を捨て、観ていく。
「ああ……王都が……」
「陛下はやりすぎたんだ」
「私はこれからどうすれば……」
「大丈夫。私がいる」
来るぞ……来るぞ……ほら、キスしたー!
何の根拠があって、バカで弱いお前がいて、大丈夫なのかはわからないが、頑張ってくれ。
というか、こいつら、これからどうするんだろう?
あ、終わった。
幕が閉じられると、皆が拍手をしたので俺も拍手をする。
すると、灯りがついた。
「面白かったですね」
「まあねー」
「悪くはなかったわ」
そうか?
「ジーク君、どうだった?」
レオノーラが聞いてくる。
さて、なんて答えようか。
「うーん……」
「素直に言っていいよ」
「ツッコミどころが多かったな」
本当に多かった。
「まあ、そこはね。原作よりもかなり改変しているね。でも、お芝居にするうえで仕方がないことなんだよ」
わからないでもない。
「騎士、弱すぎんか?」
「原作ではあの婚約者は魔術師なんだよ。だから苦戦する。でも、お芝居で魔法は使えないでしょ」
なるほど。
それでか。
「途中でキスをしただろ。しかも、2回も。あれはいらない。あの場はハグに留め、キスは最後に取っておくべきだと思う」
「あ、私も思いました!」
「思ったね……」
「ジークさん、案外、熱中して観てたのね……」
別に面白いとは思わなかったが、良い時間潰しにはなったと思う。
「レオノーラ、この小説を持ってるか?」
「リートの寮にあるよ」
あの大量の本の中にあるのか。
「ちょっと貸してくれ。この劇と原作の差を知りたい」
微妙に消化不良だ。
「あ、私もー」
「私もお願い」
「こうやって本が売れるんだなー……」
そうかもな。
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