第311話 無理だな
3人娘は俺の部屋で勉強をしていくが、もはや前日だし、軽くおさらいをする程度だ。
俺も教えることはないし、本を読んで過ごしていく。
「明日だけど、俺は早めに出るからな。遅れるなよ」
「あ、試験官ですもんね」
そうなんだが、俺は午後からの担当だから行く意味はほぼない。
「午後までずっと待機だがな。それと明日の朝、食べすぎるなよ」
ヘレンもだけど、バイキングとなると食うからな、こいつら……
「そうですね。さすがに明日は抑えましょうか」
「そうだね。本番は明後日」
「食べすぎて、問題が解けなかったらシャレにならないものね」
そうしてくれ。
その後も勉強を続け、夕方になると、一緒に夕食を食べたが、その後はそれぞれの部屋に戻り、早めに休むこととなった。
翌日、早めに起きた俺は準備を早々に終えた。
「ヘレン、留守番を頼むぞ。あれだったら外に出てもいいが……」
子供には気を付けろ。
あいつら、猫を見ると、追っかける習性があるから。
「大丈夫です。私はお休みしていますので。夕食を食べに行く時に起こしてください」
ヘレンはベッドに飛び、丸くなる。
可愛いなと思いつつ、ちょっと寂しかったが、部屋を出て、1階のレストランで朝食を食べた。
朝食後、コーヒーを飲むと、ホテルを出て、会館に向かう。
すると、肩にカラスがとまった。
「おはようございます、ジークさん」
しゃべったのでドロテーだ。
まあ、野生のカラスが人間の肩にとまることなんてないからドロテーに決まっているが。
「よう。クリスはどうだ?」
「昨日も遅くまで仕事をしておられました。私が言うのもなんですが、受ける意味あるんですかねって感じです」
ついに最後まで勉強をしなかったわけだ。
さすがにそれで2級は無理だな。
「次に期待しろ。さっさとジーン問題が終わればだが」
「どうですかねー?」
ホントにな。
「ドロテー、3人娘を頼んだぞ。今回はあいつらが狙われることはまずないが、念のためだ」
「わかってますよ。しかし、あなたは過保護ですね。そんなことを考える人間じゃなかったでしょ。勝手に落ちろとか、興味ないって感じだったじゃないですか」
そうだったな。
そして、根底は変わっていない。
「弟子なんだ。今なら本部長の気持ちが少しわかる。自分だけだったら簡単に試験も仕事もこなせるが、弟子となるとそうじゃない。今まで勉強でこんなに苦労したことはなかった。でもな、そうやって面倒を見てきたからこそ、上手くいってほしいし、失敗してほしくないんだ」
はっきり言えば、あいつらが今回の試験で合格したら自分が2級に受かることより嬉しいだろう。
2級も1級も既定路線だし。
「成長されましたね。あなたは多分、教師になるべき人間だったんでしょう」
教師は嫌だ。
「さあな」
「では、私からのアドバイスです。あなたはとんでもない自信家であり、傲慢です。己の能力を鼻にかけ、周りをバカにするクズです。でも、そんな自信の塊であるあなたに認められたり、信じられることはそれが自信に繋がります。それを忘れないように。それでは私はセントラルホテルに参ります。あでゅー」
ドロテーは一方的に悪口を言って、飛び去っていく。
そんなドロテーを目で追っていたが、見えなくなったので会館に向かった。
会館には国家錬金術師試験会場という看板が立てかけられており、警備の人が多い。
そんな中、敷地に入ると、昨日と同じ玄関に向かう。
すると、昨日と同じ受付があり、昨日と同じ女性が座っていた。
「あ、ジークヴァルトさんですね」
覚えていたらしい。
「ああ。俺は午後からだから3階で待機で良いな?」
「はい。そちらに向かってください。あ、それとこれがお弁当です」
弁当を渡してきたので受け取る。
「試験後はどうすればいい?」
「3階の待機室に戻り、採点用紙を係の者に渡してください。それで解散です」
「片付けは?」
「それは私達の仕事ですね。皆さんはお忙しいですし、さすがに私達下っ端がやります」
俺も大層な役職じゃないけどな。
「わかった。それでは行ってくる」
「はい。よろしくお願いいたします」
この場をあとにし、階段を上っていく。
そして、3階までやってくると、試験官待機室という看板があったのでその部屋に入る。
中はかなり広い部屋であり、あちこちにテーブルがあった。
すでに多くの者が来ており、席についていたが、その中にマリアンネの姿が見えたのでそちらに向かう。
「よう」
「おはよう。さすがに眠いわね」
隣に座ると、マリアンネが苦笑いを浮かべた。
「仕事か?」
「夜に電話がかかってきたわよ。緊急依頼」
「何かあったのか?」
「建築ミスが発覚し、修正依頼がウチに来たの。遅くまで設計図を描いてたわよ」
電話越しに聞いて、設計図を描けるのか。
本当に優秀だ。
「大変だな。試験官は大丈夫か?」
「それくらいなら問題ないわね」
「寝たら? お前も午後からだろ?」
「大丈夫だってば。帰ってから寝る」
ふーん……こいつも大変だね。
ネピアってこいつのワンマンなんだろうな。
「そういや、お前のところの奴らはどんな感じなんだ? 試験を受けに来ているんだろ?」
10級を受ける奴らは地元だろうが、それ以外は王都に出てきているはずだ。
「無理かなー? 皆、勉強のやり方が甘いのよ」
「教えないのか?」
「私はひたすら勉強しろとしか教えられないのよ。指導者としての能力は皆無。『マリアンネさんは仕方がないよ……』だもの。皆、参考書や教科書を全部覚えればいいのにね」
気持ちはわかるが、さすがにそれはないと思う。
「要点をまとめたり、大事なこととそうじゃないことを取捨選択しろよ」
「それができたら苦労しないわね。私の勉強法は自慢の抜群記憶力ですべてを覚えるってだけだから。実技も一緒。覚えたやり方を淡々とやっていくだけ」
うん、指導者に向かないな。
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