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左遷錬金術師の辺境暮らし ~元エリートは二度目の人生も失敗したので辺境でのんびりとやり直すことにしました~   作者: 出雲大吉
第8章

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第311話 無理だな


 3人娘は俺の部屋で勉強をしていくが、もはや前日だし、軽くおさらいをする程度だ。

 俺も教えることはないし、本を読んで過ごしていく。


「明日だけど、俺は早めに出るからな。遅れるなよ」

「あ、試験官ですもんね」


 そうなんだが、俺は午後からの担当だから行く意味はほぼない。


「午後までずっと待機だがな。それと明日の朝、食べすぎるなよ」


 ヘレンもだけど、バイキングとなると食うからな、こいつら……


「そうですね。さすがに明日は抑えましょうか」

「そうだね。本番は明後日」

「食べすぎて、問題が解けなかったらシャレにならないものね」


 そうしてくれ。


 その後も勉強を続け、夕方になると、一緒に夕食を食べたが、その後はそれぞれの部屋に戻り、早めに休むこととなった。


 翌日、早めに起きた俺は準備を早々に終えた。


「ヘレン、留守番を頼むぞ。あれだったら外に出てもいいが……」


 子供には気を付けろ。

 あいつら、猫を見ると、追っかける習性があるから。


「大丈夫です。私はお休みしていますので。夕食を食べに行く時に起こしてください」


 ヘレンはベッドに飛び、丸くなる。

 可愛いなと思いつつ、ちょっと寂しかったが、部屋を出て、1階のレストランで朝食を食べた。

 朝食後、コーヒーを飲むと、ホテルを出て、会館に向かう。

 すると、肩にカラスがとまった。


「おはようございます、ジークさん」


 しゃべったのでドロテーだ。

 まあ、野生のカラスが人間の肩にとまることなんてないからドロテーに決まっているが。


「よう。クリスはどうだ?」

「昨日も遅くまで仕事をしておられました。私が言うのもなんですが、受ける意味あるんですかねって感じです」


 ついに最後まで勉強をしなかったわけだ。

 さすがにそれで2級は無理だな。


「次に期待しろ。さっさとジーン問題が終わればだが」

「どうですかねー?」


 ホントにな。


「ドロテー、3人娘を頼んだぞ。今回はあいつらが狙われることはまずないが、念のためだ」

「わかってますよ。しかし、あなたは過保護ですね。そんなことを考える人間じゃなかったでしょ。勝手に落ちろとか、興味ないって感じだったじゃないですか」


 そうだったな。

 そして、根底は変わっていない。


「弟子なんだ。今なら本部長の気持ちが少しわかる。自分だけだったら簡単に試験も仕事もこなせるが、弟子となるとそうじゃない。今まで勉強でこんなに苦労したことはなかった。でもな、そうやって面倒を見てきたからこそ、上手くいってほしいし、失敗してほしくないんだ」


 はっきり言えば、あいつらが今回の試験で合格したら自分が2級に受かることより嬉しいだろう。

 2級も1級も既定路線だし。


「成長されましたね。あなたは多分、教師になるべき人間だったんでしょう」


 教師は嫌だ。


「さあな」

「では、私からのアドバイスです。あなたはとんでもない自信家であり、傲慢です。己の能力を鼻にかけ、周りをバカにするクズです。でも、そんな自信の塊であるあなたに認められたり、信じられることはそれが自信に繋がります。それを忘れないように。それでは私はセントラルホテルに参ります。あでゅー」


 ドロテーは一方的に悪口を言って、飛び去っていく。

 そんなドロテーを目で追っていたが、見えなくなったので会館に向かった。


 会館には国家錬金術師試験会場という看板が立てかけられており、警備の人が多い。

 そんな中、敷地に入ると、昨日と同じ玄関に向かう。

 すると、昨日と同じ受付があり、昨日と同じ女性が座っていた。


「あ、ジークヴァルトさんですね」


 覚えていたらしい。


「ああ。俺は午後からだから3階で待機で良いな?」

「はい。そちらに向かってください。あ、それとこれがお弁当です」


 弁当を渡してきたので受け取る。


「試験後はどうすればいい?」

「3階の待機室に戻り、採点用紙を係の者に渡してください。それで解散です」

「片付けは?」

「それは私達の仕事ですね。皆さんはお忙しいですし、さすがに私達下っ端がやります」


 俺も大層な役職じゃないけどな。


「わかった。それでは行ってくる」

「はい。よろしくお願いいたします」


 この場をあとにし、階段を上っていく。

 そして、3階までやってくると、試験官待機室という看板があったのでその部屋に入る。

 中はかなり広い部屋であり、あちこちにテーブルがあった。

 すでに多くの者が来ており、席についていたが、その中にマリアンネの姿が見えたのでそちらに向かう。


「よう」

「おはよう。さすがに眠いわね」


 隣に座ると、マリアンネが苦笑いを浮かべた。


「仕事か?」

「夜に電話がかかってきたわよ。緊急依頼」

「何かあったのか?」

「建築ミスが発覚し、修正依頼がウチに来たの。遅くまで設計図を描いてたわよ」


 電話越しに聞いて、設計図を描けるのか。

 本当に優秀だ。


「大変だな。試験官は大丈夫か?」

「それくらいなら問題ないわね」

「寝たら? お前も午後からだろ?」

「大丈夫だってば。帰ってから寝る」


 ふーん……こいつも大変だね。

 ネピアってこいつのワンマンなんだろうな。


「そういや、お前のところの奴らはどんな感じなんだ? 試験を受けに来ているんだろ?」


 10級を受ける奴らは地元だろうが、それ以外は王都に出てきているはずだ。


「無理かなー? 皆、勉強のやり方が甘いのよ」

「教えないのか?」

「私はひたすら勉強しろとしか教えられないのよ。指導者としての能力は皆無。『マリアンネさんは仕方がないよ……』だもの。皆、参考書や教科書を全部覚えればいいのにね」


 気持ちはわかるが、さすがにそれはないと思う。


「要点をまとめたり、大事なこととそうじゃないことを取捨選択しろよ」

「それができたら苦労しないわね。私の勉強法は自慢の抜群記憶力ですべてを覚えるってだけだから。実技も一緒。覚えたやり方を淡々とやっていくだけ」


 うん、指導者に向かないな。


お読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
弟子が優秀な理由はドロテーが言った通りなのだろうな。 ジークという正真正銘の天才が認めてくれるだけで自信に繋がる。
ジークは目的のための手段を選ば(べ)ないので、教師たることが目的にさえできれば良い教師にはなれたでしょうね。ただ、教師では位人臣を極めるのは無理ですから、やはり当時は不可能という現実。
書籍版は装丁もいいし、毎回の加筆も面白いし、イラストも可愛いし、所有欲が満たされる 買ってよかった。ほんと最高
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