第304話 20点の女
2階に上がると、またしても看板があったので中に入る。
中は講堂のようですでに多くの人間が席についており、前の方には髭を生やしたおっさんが立っていた。
「試験官を担当する者か?」
おっさんが聞いてくる。
「ジークヴァルト・アレクサンダー3級国家錬金術師です」
「そうか。では、席についてくれ」
そう言われたので空いている席を探す。
すると、一番後ろが空いていたのでそちらに向かい、席についた。
髭を生やしたおっさんは時計をチラチラ見ながら待っており、説明会が始まる様子はない。
時刻はまだ8時45分であり、始まる時間ではないのだ。
「あなたがジークヴァルトさん?」
隣にいる長い茶髪の女性が声をかけてきた。
それで気付いたのだが、かなり若く、俺とそう変わらない。
ここには3級以上しかいないのでこいつはこの若さで3級以上ということになる。
「ああ。誰だ? 知り合いだったか? ならすまない。人の顔を覚えるのが苦手なんだ」
同級生ではありませんように。
「あ、知り合いじゃないわよ。こっちが一方的に知っているだけ。私はマリアンネ。ネピア支部の3級錬金術師よ。いつぞやはごめんね」
んー?
ネピアはリートの隣にある町だ。
隣と言ってもそこそこ距離がある。
それでも近いといえば近いし、それで俺のことを知っているんだろうと思うが……
「何かあったか?」
ネピアと何かあったことはない。
「ほら、いつぞやにウチとリートの魔法学校で合同演習があったでしょ? その時にそっちで魔力草不足が起きたって聞いたけど」
あー……マナポーションの緊急依頼か。
俺が赴任したばかりの時にあったな。
結局、エーリカとレオノーラと魔力草を採取に行ったんだ。
「いや、あれはそっちは関係ないだろう。ウチの役所と民間のミスだ」
人手不足なウチも悪いんだが。
「あれねー、本当はウチと半々でやる予定だったんだけど、諸事情で全部、そっちに負担してもらったのよ。そして、その連絡が遅れちゃった」
そういえば、何かのミスって言ってたな。
ネピアのせいか。
「いや、それでも問題ない。こっちは上手くやった」
緊急依頼で儲かったのは覚えている。
「そう? なら良かった。今後はないようにしたいわ」
そうしてくれ。
「マリアンネ、3級と言っていたが、いくつなんだ?」
「25歳。あなたの前では言いにくいけど、すごいでしょ」
25歳で3級か。
ハイデマリーを超えている。
確かにすごいな。
しかし、そんな人間がネピアか。
「俺が言うのも何だが、なんでネピアなんだ? 王都の本部に行けるだろ」
「非常に複雑な事情があるわね。聞きたい?」
「いや、まったく。1つも興味がない」
若いのが気になっただけだ。
「出身がネピアで最初から地元のネピア支部に就職したんだけど、才能が開花し、どんどん資格を取っていってたわけ」
おや? 人の話が聞こえない種族の人かな?
「そうかい。良かったな」
今日も良い天気だ。
「そうやって5級を取った時に本部やジーンなんかから引き抜きがあったわけ。地元は好きだけど、お金も大事だから行こうかなって思っていた時に戦争が起きちゃった。実は私って父親がノーザン王国の人間なのよね。敵地よ、敵地。だから辞退して、戦闘は無縁の南部の地元に残っている。王都とかジーンに行ったらどんなイジメに遭うかわからないじゃない?」
ふーん……ん?
「ノーザン?」
北部でウチと戦争をしている?
「ええ。ノーザン。ほら色白じゃない? 寒いところだから肌が綺麗なの」
それは知らん。
というか、南部生まれ、南部育ちだろ。
「母親がネピアか?」
「そうそう。もう両親はいないけどね」
ふーむ……
「確かにスパイを疑われそうだな」
足の引っ張り合いの王都はきついだろう。
「そうなのよね。でもさー、3級にまでなって、成功しているのにスパイなんかするわけないわよ。ネピア支部では『さすがマリアンネ先輩!』とか『マリアンネがいてくれると本当に助かるわー』ってちやほやされて、上機嫌なのにね。私はネピアを愛しているの」
田舎で3級だったら重宝されるだろうな。
でも、こいつ、異動しようとしてたからな。
多分、同僚もそれでよいしょの方向に行ったんだろう。
この少ない会話でわかったが、こいつ、その場のノリで生きている。
「鉱石不足はどうだ?」
「あ、それ。非常に厄介ね。そっちはどう?」
金属探知機は言わなくていいや。
「鍛冶師達から廃品から鉄や銅を抽出する仕事を受けたな」
「なるほど……ゴミから資源を……悪くないわね。ウチもそっちの方向にしようかな。民間のバカ共が際限なく買い占めちゃったからこっちの仕事ができないのよ」
その辺もリートと同じか。
「ネピアって錬金術師が何人いるんだ?」
「12人。資格なしが5人、10級が4人、9級と8級が1人ね。あと私」
12人は羨ましいな。
しかし、マリアンネを抜いたら最高でも8級か。
そりゃこいつを引き抜かれたらヤバいな。
「お前以外のジーンの引き抜きは?」
「あったわね。それで3人減った。そっちは大変だったみたいね」
知ってるか。
「その11人はよく残ったな」
「逆に引き抜かれた人がねー……悪く言うつもりはないんだけど、ちょっとどうかなって思うわよ。戦争が終わったら仕事が減るし、どうするのよ。戻ってくるとしてもどの面下げて戻ってくるわけ?」
何だ、こいつ……
二重人格か?
「お前は?」
親のことがなかったら王都かジーンに行ってたんだろ。
「私はどうとでもなるわよ。たとえ、都落ちしても、きっと皆も『マリアンネさんだもんね……』って苦笑いで歓迎してくれる」
ふむ……関わったらいけないタイプの人間かもしれない。
「そうか。良かったな」
「私の人徳ってやつかな?」
こいつ、ある意味で俺より人間性が低いと思う。
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