第301話 せいかい!
クリスと合流すると、本部を出て、歩いていく。
「サシャと何の話をしていたんだ?」
クリスが聞いてくる。
「試験だよ。あいつはまだ10級も受かってないからな」
「そうか。勧誘しているんだって?」
ゾフィーだな。
あ、いや、こいつもリートに来たか。
「そんなところだ。そうでなくても後輩だ。知ってるか? 魔法学校の後輩なんだぞ」
「知ってるよ。私は本部のすべての人間を把握しているからな」
すごいな。
「そうかい」
ちょっと怖いなと思いながら歩いていくと、町の北の方に行く。
長年、王都に住んでいたが、この辺りは数回しか来たことがない。
というのも貴族街だからだ。
そして、そのまま歩いていくと、とある屋敷の前にやってきた。
屋敷は鉄製の柵に囲まれており、中には大きな建物と広い庭がある。
初めて来たが、すごい屋敷だ。
「クリストフ様、おかえりなさいませ」
門の前にいる兵士がクリスに声をかけてきた。
「ああ。父上と兄上は?」
「帰っておられます」
「わかった」
クリスが頷くと、兵士が門を開けたので中に入る。
すると、クリスは正面の大きな建物ではなく、左にある方の建物に向かう。
「あっちじゃないのか?」
「あっちは本邸だ。私は小さい方の別邸に住んでいる」
小さい方?
いや、そりゃ正面の建物の方が大きいが、左の方も相当な大きさだぞ。
「別々に暮らしているのか? 仲が悪いとか?」
そういや末っ子だっけ。
「そういうわけじゃない。単純に生活リズムが合わないからだ。休みの日なんかは食事を共にする」
へー……
「ドロテー、実際のところはどうなんだ?」
「微妙ですね。当主さんや次期当主さんなんかよりクリス様の方が何倍も優秀ですから。とはいえ、昨今の情勢を考えると、クリス様を無下にもできない感じです」
なるほどねー。
「お前にも色々あるんだな」
「私の方がお前達より遥かにあるさ。我らの師が本部長になり、政治の世界に進出してからはよく言い争いになったものだ」
本部長、貴族嫌いだしな。
「それでいいのか?」
「時代の流れに逆らうのは愚か者のすることだ。賢者はどう乗りこなすかを考える」
「真の賢者は流れを作るものだがな」
「私にお前や本部長のような才はない。だが、利用することはできるんだ」
うーん……マリーと器が違うような……
マリーもテレーゼも錬金術に全振りだからなぁ……
あいつらでは無理だなーと思いながら歩き、屋敷の中に入る。
すると、メイドがこちらにやってきた。
「クリストフ様、お帰りなさい。そちらの方は?」
メイドが俺を見る。
「弟弟子のジークだ。例の紳士服を私の部屋に持ってきてくれ。それと夕食はジークと外で食べるから不要だ」
「かしこまりました」
メイドは一礼すると、去っていった。
すると、クリスが近くにある部屋に入ったので俺達も続く。
かなり広い部屋であり、奥に豪華なベッドがある。
ただ、手前はたくさんの本棚と大きな作業デスク、その他にも様々な機材があるアトリエだった。
「お前の部屋か?」
「ああ」
ふーん……色々揃ってるな。
さすがは金持ち。
「知らんが、貴族の部屋って奥にあるもんじゃないのか?」
この建物は2階建てだし、部屋は2階かと思っていた。
「効率を重視だ。この部屋もそうだな。本当は錬金術をやるためだけの部屋だったが、ここで寝ることが多かったのでベッドを持ってきたんだ」
やっぱりこいつも錬金術師なんだな。
「本部長の家の共同アトリエよりも揃ってないか? ここでやればいいのに」
「肝心の師匠がいないだろ。それと不出来な弟弟子もな」
不出来で悪かったな。
「興味ないけど、お前、結婚できるのか?」
こんな生活で大丈夫なんだろうか?
「さあな。私も貴族だからそういう話がないわけじゃない。ただ、邪魔だけはしてくれるなって思う」
言うね……
「お前も問題児だな」
「師匠がそうなんだからそうなる」
まったくだ。
「バルシュミーデ家だっけ? いけるか?」
「負ける要素がない。さっき言った時代の流れに逆らう愚か者だぞ」
ならいいや。
「もし、俺が本部長になったらどうするつもりだったんだ?」
「簡単だ。雑務は私に任せればいい。お前はその才を存分に発揮すれば良いだけだ」
雑務ねー……
マリーやテレーゼ、それにゾフィーが本部長になっても同じか。
「楽で良いな。もっとも、俺はもうリートでやるが」
「そうしろ。お前はバカが嫌いだろ。上に行くということはそんなバカの面倒を見ないといけないし、何かをしでかした責任を取らないといけない。ストレスしか感じない人生になるぞ」
「そうだろうな」
本部長もそう言ってた。
俺達が話をしていると、ノックの音が聞こえてくる。
「入ってくれ」
クリスが答えると、先程のメイドが服を持って、部屋に入ってきた。
「お待たせしました。こちらになります」
「ああ。ジーク、着てみろ」
クリスが服を受け取り、そのまま渡してきたので受け取る。
「普通に着れば良いのか?」
「そうだ」
クリスが頷いたので服を脱ぎ、着替えていく。
正直、いつもの服とそこまで変わらないような気がしたが、なんとなく、背筋が伸びるような気がした。
サイズもぴったりだし、悪くない。
「こんなものか?」
「ああ。それでいい。常に姿勢を正し、自信がある感じで…………いや、お前はいつもそうだな」
自信しかないな。
もっとも、当然のことだが。
「いつもの服で良いと思うんだがなー」
「ダメだ。高級レストランとは店だけじゃなく、客も一体となって雰囲気を作るんだ。そして何より、レオノーラに恥をかかせるな」
出た、雰囲気……
「はいはい。あいつらが明後日の試験に受かったらまたサイドホテルに行くが、その時も着ていくかな」
「知らんが、やめた方が良いと思うぞ。それを着るのは2人でディナーを楽しむ時にしておけ。多分、あの3人も4人で行く時は普通の格好だと思う」
雰囲気ってやつかね?
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