第300話 先輩、そりゃ上からは嫌われるよなー……
「まあ、俺は誰が本部長になろうと、邪魔さえしてこなければどうでもいい」
「リートはそれ以前だがな」
錬金術師が4人だもんな。
「その辺は徐々にやっていっている。それでなんだが、紳士服はどうなっている?」
「もうできてる。ウチにあるから取りに来い」
「いつだ? お前、忙しいだろ」
こいつはこいつで大丈夫かって思ってしまう。
「今日か明日だ。試験が近いと自然と仕事が減る。逆に終わると忙しくなる」
まあ、皆、そっちに意識が向くしな。
ウチも全然、仕事を取ってない。
「じゃあ、今日行く。何時くらいだ?」
「うーむ……19時にここの1階に来てくれ。ちょっと遅いが、服を渡したら食事に行こう。奢ってやる」
「どうも。じゃあ、下にいるわ」
「ああ。そういうわけで私は19時までに終わらせるために仕事をする」
邪魔したら悪いな。
「ああ。頑張れよ。ドロテー、応援してやれ」
「はい。クリス様、頑張ってください」
ドロテーが飛んでいき、クリスの周りを飛びながら応援する。
正直、気が散りそうだ。
「ありがとう。でも、疲れるだろ。止まり木にいてくれ。そばにいてくれるだけでいいんだ」
うーん、人間性高し。
俺達はクリスのアトリエを出る。
「これからどうしますか? マルティナさんにお土産を渡してますか? それともクヌートさんに会いに行きます?」
うーん……
「いや、マルティナに会うのはエーリカがいる時がいいし、魔導石製作チームはテレーゼがいない。ホテルに帰って、金属探知機を作ろう」
「なるほど。効率を重視ですね」
「そういうことだ」
俺達は1階に下りると、ちゃんとサシャに一声かけた後、本部を出た。
そして、ホテルに戻ると、金属探知機を作っていく。
「御三方も勉強をしてますかね?」
「してるんじゃないか? 遊ぶような奴らじゃないし」
「大丈夫ですよね?」
んー?
「試験か? 大丈夫だろ。体調を崩すとか、よほどのことがない限り、問題ない」
「そうですか。もし、落ちても慰めてあげてくださいね」
ヘレンも心配性だな。
実に優しい子だ。
「俺、そういうのが得意じゃないんだよな。嫌味に聞こえると思う」
落ちる奴の気が知れないって思っていることを皆、わかっているだろうし。
「それでもですよ。見捨てられたって思われたらダメです」
見捨てやしないんだが……
「わかった。弟子って難しいな。ゾフィーやマリーが落ちても何もないんだが」
「それとこれとは違いますからね。あの方達は自立していますし、フォローは本部長さんの仕事です」
フォローしない人だけどな。
前に優しい言葉をかけられないって言ってた。
そうか……ああなったらダメなんだ。
俺達は気にしないが、逆に言うと、数いる本部長の弟子達でも気にしない人間だけが現在も残っているのだ。
「優しい言葉……思いつかん」
「頑張ってください」
「いや、もうあいつらに頑張ってもらおう。落ちなければ優しい言葉も不要だ」
うん、実に良い考え。
「多分、本部長さんもそう思ったんじゃないですか?」
「あいつらなら大丈夫だ」
うん。
俺は信じているのだ。
このスタンスだな。
「そうですか……」
その後もヘレンと話をしながら金属探知機を作っていく。
いつも寝ているヘレンが起きて、話に付き合ってくれているのもヘレンの優しさだと思う。
今日も姿を見せなかったどっかの鷲と違って、実に良い使い魔である。
そんなこんなで作業をしていくと、時刻が18時半を回ったのでホテルを出て、本部に向かった。
まだクリスの姿は見えないが、受付にはサシャの姿が見える。
しかし、こちらにまったく気付いておらず、視線を落としていた。
「サシャ」
受付に行き、声をかける。
「あ、ジーク先輩。こんにちは。クリスさんと待ち合わせでしたね」
本部を出る時にちょっと話したのだ。
「ああ。お前は勉強か?」
確か前の試験の時もこっそり勉強していた。
「ええ。ダメなんでしょうけど、もうこの時間ならいいかなって」
ご苦労なことだ。
「気にするな。バレなきゃいい。ウチでもここのところは職務中に堂々と勉強してたぞ。多分、今日明日はずっとやってる」
「良いんですか?」
「そういう風に仕事を調整した。リート支部は俺が仕切っているからな」
支部長は責任を取ってくれる人。
有能な俺と実に相性の良い上司だ。
「良いですね。羨ましいです」
「まあ、少数の支部だからな。仕事自体も少ない。この前、手伝ってもらったのは例外だ」
「それでも残業なしですもんね。残業代は稼げそうにないですけど」
それはそう。
「別に稼ぎたかったらやってもいいんだがな。そういう風に仕事を取るだけだし」
もっとも、それでも残業はないだろう。
何故なら、俺が全部やるから。
「ワンマンですねー」
「そういうもんだ。気楽で良いだろ」
「そうですね。楽しい職場でしたもん」
それは良かった。
「正直なところ、試験はどうだ?」
「謙遜なく話せば、筆記は大丈夫かなって思います。怖いのは実技ですね。どうしても実践不足です」
そこが不安なわけだ。
「ウチにいた時に見ていたが、十分に受かるぞ。9級でも受かりそうだ」
「そうですかね?」
「そうだよ。よし、良いことを教えてやろう」
たまには先輩らしいところを見せようじゃないか。
「何ですか?」
「お前の実技を見る奴は3級以上だ」
「そこも怖いですね。私の拙い錬成を見て、どう思われるか……」
サシャに足りないのは自信だな。
「安心しろ。俺が受かると思ったんだ。試験官なんて、全員、俺の才の半分以下の無能共だ。気にしなくていい。俺はこれまでの試験でずっと試験官をバカにしてたぞ。あいつらは皆、俺以下のものしか作れないくせに100点以外の何点を付けるんだって」
多分、ハイデマリーもそう思っている。
そして、事実だ。
「ひどいですねー」
「でも、実際、そうなんだ。そして、お前は普通に受かる。落ちたら体調不良か不正が起きたかのどっちかだ。なら次でも受かる。お前は30歳を超えても10級を受け続ける落第者じゃない」
そもそも落第者は本部に就職できないんだが。
「すごくひどい言葉のオンパレードですけど、わかりました。頑張ってみます」
サシャが笑いながら本を閉じる。
「もういいのか?」
「もう今の自分にやれるだけのことはやりました。あとは明後日に向けて、体調を整えることにします」
「そうしろ」
「はい。ありがとうございました。あ、クリスさんが来られましたよ」
クリスが階段から下りてきていた。
「ああ。じゃあ、行く。頑張れよ」
「はい」
サシャが笑顔で頷いた。
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