第288話 負けない女
探知機を貸してから1週間が経った。
あれ以降、ひたすら銀とアルミを作り、廃品から鉄を抽出していった。
いつもは4人なところを3人の協力があったので順調に進んでいる。
最初からできるゾフィーはともかく、マルティナとサシャも慣れてきたようで最初と比べると見違えるほど錬成や抽出が早くなった。
2人の成長は勉強会でも垣間見え、マルティナが物理のレベルがちょっとだけ上がったし、サシャの実技の方もかなり腕が上がっている。
サシャに関しては10級程度なら楽に受かるレベルではないかと思うほどだ。
正直、今まで何をしていたんだって……ゴホッゴホッ。
「ジーク、あとどれくらいあるわけ?」
作業をしていると、ゾフィーが聞いてくる。
「廃品に関してはエントランスにあるものがすべてだ」
抽出して、インゴットに加工した鉄と銅も残りカスもすべて鍛冶師連中が回収していっている。
「ふーん、じゃあ、あと2、3日で終わるわね」
「それぐらいで帰るか?」
「まあ、仕事が終わったら帰るわよ。サシャ、どうする?」
ゾフィーがサシャに確認する。
「そうですねー……明々後日でいいんじゃないですか?」
「じゃあ、それで。マルティナは?」
ゾフィーが今度はマルティナに確認する。
「あ、私は明後日に帰ります。お母さんも仕事がありますから」
これは先週に聞いていた。
「そっか。じゃあ、あんたが先に帰るわけね。まあ、あんたはお母さんと一緒だし、仕方がないか」
「はい。また王都で」
「そうね」
ゾフィーが笑うと、電話が鳴りだした。
すると、エーリカがすっと立ち上がり、電話を取る。
「こちら錬金術師協会リート支部です…………あ、本部長さん、ご無沙汰しておりますー」
んー? 本部長?
「ええ。とても助かってますし、ジークさんも元気ですよー…………はい、代わります。ジークさん、本部長さんからです」
エーリカが受話器を差し出してきたので立ち上がり、電話を代わる。
「もしもし?」
『おー、ジーク、元気かー?』
「エーリカが答えた通りですね」
さっき聞いただろ。
『相も変わらず、可愛くない奴だ』
ほっとけ。
「そういう人間なんで。それよりもどうしたんですか?」
『どうしたもこうしたもあるか。お前、まーた変な機械を作ったらしいな?』
探知機ね。
「鉄不足、銅不足で困っている人が多かったもので」
『ふーん……そりゃ偉いな。上の方が大興奮だぞ』
町長が報告したか。
そして、まだこっちに知らせはないが、ちゃんと本物ってわかったか。
「陛下ですか?」
『陛下もだが、大臣だな。天才だって大絶賛だった。まあ、実際に執務を行っているのは大臣だし、現在の状況を打破する機械が出てきて嬉しいって感じだろ』
ふーん……
「たいした機械じゃないですよ」
『たいした機械だよ。それとちょっと確認だが、本当に鉄と銅だけか?』
「そんなわけないでしょ。何でも探せますよ」
正直、鉱物だけではなく、熱感知を備えれば人を探すこともできる。
夜中の戦場で大活躍するな。
『だろうな。でも、それを作るのはめんどくさいか?』
「はい。私には私の仕事があります」
『そうか。では、そういうことにしよう』
本部長はこの辺をわかってくれるからありがたい。
まあ、その対策をする機械を作るのが自分になるからだろうが。
「お願いします。その機械は陛下に献上しますのでお好きにしてください。私はリートでの鉱石不足が解決すればそれでいいので」
『わかった。お前に迷惑がかからないようにしよう』
そうしてくれ。
「ジーンはどうですか?」
『中々に手ごわいな。ドレヴェス家を潰したことで危機感を覚え、周りの貴族や商業ギルドなんかを巻き込んでこちらと敵対姿勢を見せている』
完全な政争だな。
「陛下や大臣は何をしているんですか? ウチだけじゃなく、ほとんどの町が困っていますし、住民からの不満が高まる一方じゃないですか」
悪手にもほどがある、
『その辺がウチの国の問題点だな。陛下は万能ではないし、好き勝手できるわけじゃない。ウチの国は元来、貴族の力が強く、王様っていうのはそれをまとめるだけの存在に過ぎないんだ。だから陛下も強くは出られない。ましてや、今は戦時中だ。もし、どこぞの家が外国と手を組み、反乱を起こしたらかなりマズいことになる』
ふーん……だから陛下は本部長を重宝しているんだな。
貴族の対抗馬として活躍してもらい、貴族をどうにかしてくれると思っているんだろう。
しかし、わかっているのかな?
貴族制度の崩壊は王政の崩壊にも繋がるということを……
「バルシュミーデ家に勝てますか?」
『所詮は地方の領地貴族だ。王都を押さえた私の敵ではない。それに今回のことで多くの領地貴族を敵に回したぞ。ドレヴェス家が潰れ、焦ったんだろうが、堂々としておけばいいものを下手に動きおった』
楽しそうだな……
「そうですか。なら安心ですね」
『安心に決まっているだろ。私が負けるなんてありえない。勝ち続けるのが私の人生だ』
ああ……
「本部長、進言します。そう思って、常に勝ち続けた天才は失脚し、辺境の地に左遷されましたよ」
『…………そうだな。私も足を掬われぬように気を付けよう』
そうしてくれ。
「頼みますよ。本部長に倒れられたら俺達一門も連座ですから」
マジで外国に逃げないといけなくなる。
『わかっている。そういう意味でも弟子を取って良かったな。絶対に負けられない』
その気持ちが今の俺にはわかる。
「お願いします」
『ああ。それでそっちの仕事はどうだ? ゾフィーとマルティナ、それに受付嬢はどんな感じだ?』
なんでサシャが受付嬢呼ばわりなんだ?
「よくやってくれていますし、私の目から見ても成長したなって思います。マルティナは明後日、ゾフィーとサシャは明々後日に王都に戻るそうです」
『そうか。やはり環境を変えるのは良いことだな。ぜひとも、そのまま試験を頑張ってもらいたい』
うーん……
「それをそのまま本人に伝えたらどうですか?」
『ゾフィーとマルティナに落ちるけどなって言えばいいのか?』
本部長も素直だからな……
「やっぱりいいです」
『だろ? 私はそういうことを言わないようにしているんだ。お前達は勝手に上がっていったしな』
だから俺達以外の弟子が続かなかったんだろうな。
「そうですか。本部長はそれでいいと思います」
『ああ。こっちはこっちで進める。お前はそっちを頼むぞ。あ、それと試験な』
試験官ね。
「ええ。また伺います」
『よろしく。じゃあな』
本部長がそう言って電話を切った。
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