第289話 苦労人
「本部長さんの話は何でしたか?」
席につくと、エーリカが聞いてくる。
「例の探知機の話だ。それとバルシュミーデ家との対決だな。楽しそうだったわ」
「楽しいんですかね?」
エーリカはわからないって感じだ。
「ここだけの話、本部長は貴族が大嫌いなんだ。学生時代に自分が明らかにトップなのに身分で成績が下にされたことを根に持っている」
小さい。
「王都はそんなのがあるんですか……」
「いや、昔の話だ。今はそんなことないし、現に俺はずっとトップだった」
「さすがジークさんですね」
まったくだ。
まあ、もし、2位の奴が身分だけで上に行ったとしても俺は鼻で笑うがな。
「ジークくーん……本部長って貴族が嫌いなの?」
「私ら、貴族なんだけど……」
レオノーラとアデーレがちょっと暗くなっている。
「あー、身内は関係ないぞ。協会にも貴族はいるし、そもそもクリスとクヌートも貴族だ」
「それもそっか」
「ちょっとほっとしたわ」
自分達の組織のトップに嫌われたら嫌な気持ちになるわな。
ましてや、孫弟子……孫弟子はやめるか。
ちょっと寒気がした。
「気にするな。お前ら全員に試験頑張れって言ってたぞ」
ゾフィーとマルティナは落ちるけど……
「そっかー。頑張ろ」
「そうね」
「ええ。やりましょう」
「10級に受かりたいですしね」
「私は無理だろうけど、やれることはやるか……」
「私もそうします」
本部長の言葉にレオノーラとアデーレだけでなく、皆がやる気を出した。
その後も仕事をしていき、夜は勉強会をして、この日を終えた。
翌日、この日も朝から仕事をしていくと、銀の錬成の方が終わる。
「できたー……ジークさん、どうですかね?」
エーリカがインゴットを見せてくる。
「どう思う?」
「うーん……CランクかBランクなのはわかるんですけど……私だからC!」
お前だからBなんだよ。
「Bだよ」
「惜しい! 難しいなぁ……ある程度はわかるんですけど、D、C、Bの境目が難しいです」
「わかるわー。すごくわかる」
まあ、エーリカもアデーレも魔力を見るようになってから成長していると思う。
この調子でいけば、次か、その次くらいには受かるかもしれない。
「その辺になるともう慣れだ。あとは数をこなしてくれ」
「わかりました」
「そうするわ………あれ?」
アデーレが受付の方を見て、首を傾げたのでつられて見てみる。
すると、受付には兄弟子のクリスとその使い魔のドロテーがいた。
「あ、デブのドロテーです」
「誰が、デブか!」
ヘレンの声が聞こえたようでドロテーが羽をばたつかせながら怒った。
「何の用だろう?」
「クリスさんはジーク様を見てますね」
見てるな……
まあ、俺に用なんだろうけど。
立ち上がると、受付の方に向かう。
「よう、ドロテー、スマートのままだな?」
「のっと、りばうんど! 私は美しいカラスなんですよ」
ヘレン、にやにやするな。
「クリス、急にどうしたんだ? 来るなら連絡くらい寄こせよ」
「いや、実はここへの用事はないんだ。別の用事で来たんだが、挨拶がてらに寄っただけだ。ゾフィーはちゃんとやってるか?」
ゾフィー?
「ゾフィー、クリスが真面目にやってるかってー」
「やってるわよ。私は錬金術とは関係ない仕事ばかりしているあんたと違って、真面目にやってんのーって伝えて」
「だってさ」
もう直接話せよ。
「ふっ、私だって、仕事をしたいさ。知ってるか? その錬金術とは関係ない仕事をしても錬金術の方の仕事は減らないんだぞ」
そりゃ大変だ。
「お疲れさん。別の用事って? この町で何かあったか?」
「あるにはあったな。どこぞの弟弟子がとんでもない機械を作った」
「ゾフィーとの合作だな」
一門で力を合わせたのだ。
「製作者に私の名前は入れないでねー。めんどくさそー」
はいはい。
「その話を町長とした感じか?」
「ああ。この町の現状を踏まえてな。まあ、一言で言えば、協力体制の要請ってところだ。お互いにな」
協力ね……
「ウチの町長って貴族だったよな?」
「ああ。オスカー・フォン・ライゼンハイマーはこの町の町長であり、領主でもある。地方の領地貴族だ」
ふーん……
「敵対ではない?」
「辺境の地の領主は自分のところの領地を守ることしか頭にない。王都の政争なんかに関わりたくないだろ。例のドレヴェス家の件みたいに火の粉が飛んできたらシャレにならん」
確か、支部長が一番きついのは何の関係もないのにドレヴェス家に関わり合いがあるというだけで連座されることって言ってたな。
「じゃあ、傍観か?」
「いや、こっちについた。多くの領地貴族がこっちにつく。今後、どうなっても地位だけは確保するためだな」
貴族制の崩壊か。
「まあ、ウチの町長なんて、どうなっても町長だろうしな」
誰かを敵に回さない限り。
「そういうことだ。まあ、あとは鉱石の件だな。どこの領主も頭を悩ませている」
あー、それでこいつがその領主に会って、引き入れているんだ。
要はジーンというか、バルシュミーデ家の包囲網だな。
「近そうだな」
「ああ。近い。勝つのは我らの師匠だがな」
そう願いたいね。
「わかった。もう帰るのか?」
「別の領地に行く。帰ったら残業が待っているよ」
大変だねぇ……
「お前、今度の試験は大丈夫か?」
クリスは2級を受けるはずだ。
「どうかな……」
あ、勉強できてないっぽい。
「マリーと並ぶかもな」
「確実に並ばれるな。今回はちゃんと時間を作って勉強しているようだ」
マリーは弟子達が邪魔をしていたが、時間を作ったか。
だったら受かりそうだな。
「頑張れよ。来年にはついに抜かれるぞ」
俺にな。
俺が落ちるわけないし。
「本部長も少しは別の者にこういった仕事を回してほしいものだよ」
「そりゃ仕方がない」
お前、便利だもん。
「ハァ……まあいい。やれるだけのことをやるだけさ。試験は再来週だったな。お前も帰ってくるんだろ?」
「ああ。試験官の仕事がある」
「私の弟子を見る時はお手柔らかにな。それと私の屋敷に来い」
んー?
「なんで? ご馳走してくれるのか?」
「ご馳走もしてやる。用件は例のスーツだ。届いたから試着をして、持っていけ。色々と教えてやる」
あー、それがあったな。
店はクリスが予約してくれるらしいし、その辺のこととか作法なんかの注意事項を聞いておきたいな。
「わかった。試験の3日前には王都に行く」
「ああ。じゃあ、そっちも頑張ってくれ。私は魚料理でも食べてから別の地に行く」
疲れてんなー……
ホント、頑張ってくれ。
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