第272話 指導者としての成長
「仕事はエントランスにあった廃品から鉄を抽出する事だ」
「ハァ? 何それ?」
「あー……」
ゾフィーはわかっていないようだが、サシャは察したようだ。
まあ、サシャは受付の電話番で色々聞いているからな。
「実は国のあちこちで鉄や銅なんかの鉱物が不足している現象が起きている。知らんか?」
そう聞くと、ゾフィーが腕を組んで首を傾げた。
「起きてるんだよ。そして、それはこのリートもだ。原因はとある町が飛空艇製作を始め、多くの仕事を受注し、さらには材料を各町から集めたからだ」
「ジーンじゃん。あそこ、そんなことをしているの?」
「ああ。対策については本部長やクリスが動いている」
「へー……本部長はわかるけど、クリスも色々やってんのねー」
ゾフィーはハイデマリー以上に政治に興味がないようだ。
「まあ、その辺は良い。とにかく、そういう事情で鉄や銅が不足しているんだが、それで鍛冶師連中が泣きついてきたんだ。その依頼がエントランスにあった廃品から鉄を抽出することだな」
「あー、なるほど……それでゴミがあんなにあるわけだ」
別にいいんだが、ゴミって言うな。
「あれはまだ第一陣だ。もっと来る。何しろ、鍛冶屋が集まっているエリアの奥の広場には山のように積まれてたからな」
「それで私らを呼んだわけね……鍛冶屋なんか放っておけば良くない?」
まったく……
「俺達だけのことを考えるわけにはいかないんだ。町の皆で協力して、助け合いをしないといけないんだ」
そう言うと、エーリカが笑顔で拍手をした。
「嘘としか思えないことを言うわね……」
「そういう風に新聞でも答えているんだよ」
「あー、例のやつか。下手に評判を上げちゃったから後に引けない感じね」
そういうことだ。
まあ、それは10パーセントくらいの思いで残りは協会は悪くないスタンスを保つためと鉱物不足がエーリカの実家に関係するってところ。
「そう思ってくれていい。そういうわけでゾフィーはひたすら鉄に変えていけ」
「んー? 私は? サシャは?」
「サシャはせっかくだし、錬成もやらせる。今、鉱石関係の仕事で銀とアルミの錬成をしているんだ。これも数が結構ある」
そう言うと、ゾフィーがサシャを見た。
「へー……あんた……サシャ、さんはできる……んですか?」
ゾフィーが目を泳がせ、しどろもどろになりながらサシャに聞く。
「いや、本当に大丈夫ですから。普通に話してください。飛空艇ではあんなに饒舌だったじゃないですか」
サシャが困った顔をする。
「そ、そう? そうだよね……」
「サシャがタメ口を利けばいいんじゃないか?」
正直、敬語のお前の方がおかしいと思う。
「私は基本、このしゃべり方なんです」
へー……敬語女はエーリカだけじゃなかったのか。
アデーレもどちらかといえばそっちだし、それで受付に配属になったのかもな。
「ふーん……まあいいや。ゾフィー、そういうわけで頼むぞ」
「うん……」
ゾフィーがエントランスの方に向かった。
「ジーク先輩、ゾフィーさんはデリケートなんですよ」
ゾフィーが見えなくなると、サシャが苦言を呈してくる。
「あいつはそんな人間じゃないぞ。俺やハイデマリーより下だと思いたくないだけだ」
散々、ゴミだのカスだの言ってたからな。
「それでもですよ。今後、気まずくなったらどうするんですか」
多分、帰りも同じ飛空艇か。
確かに気まずそうだ。
「はいはい。わかったよ。サシャ、お前は鉄の抽出はできるな?」
「魔法学校の実習でやりましたからね。でも、ブランクがあるのでどうかな?」
受付は実務をほぼやらないし、アデーレの経験値不足もひどかったからな。
アデーレの腕が悪すぎるという意味ではなく、知識とのバランスが悪かったのだ。
「まあ、まずはやってみろ。ゾフィーが持ってきてくれる……」
ゾフィーがせっせと木箱を運んでいるが、すごくふらついていた。
「ジーク様、手伝いましょう」
「さすがにわかる」
立ち上がると、ゾフィーのもとに向かう。
そして、重そうに持っている木箱をひょいっと奪った。
「あれ?」
「持ってくるなら小分けで持ってこい」
そう言って、木箱を運び、まだ来てないマルティナの席に運ぶ。
すると、ゾフィーがじーっと俺を見ていることに気が付いた。
「どうした?」
「あんた、大きくなったわね」
「ハァ? 何の話だ?」
「いや、背もだし、力もすごい」
力はそんなに……
「男だからな」
「そっかー……子供の頃は私の方が大きかったのに」
俺は身体の成長が遅く、本当にチビだったからな。
10歳くらいまではゾフィーの方が高かったくらいだ。
「お前は成長が早かったからな。すぐに止まったが……」
こいつに関しては髪の毛の長さが違うくらいでずっと変わらないように思える。
「これから大きくなるわよ。晩成」
ないと思う。
「そうだと良いな。ゾフィー、ちょっと鉄の抽出をやってみろ」
「めんどくさそうな混合物が混じり合っているのをやるわ」
ゾフィーがコンロを取り、抽出を始める。
「サシャ、お前もこれでやってみろ」
サシャに使いすぎてコーティングが取れかけているフライパンを渡した。
「はい」
サシャもフライパンを見ながら抽出を始める。
「お前はゆっくりでいいからな。まずは慣れるところから始めろ。それに失敗しても廃品がゴミに変わるだけだから気負わずにやれ」
「わかりました」
サシャが錬成を始めたのでじーっと見る。
「あの、感想をどうぞ……」
「良い感じだな」
40点の俺。
「本当は?」
「遅いな」
35点の俺。
なお、昔なら間違いなく、今まで何をしていたんだって聞く。
「ですよねー……」
「気にするな。アデーレも似たようなものだったし、経験不足は仕方がないことだ。だからお前を誘ったわけだし、じっくりやってくれ」
「わかりました。頑張ります」
うんうん。
やっぱりマルティナの指導はやって良かったな。
俺自身の成長にも繋がったと思う。
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