第273話 史上最低の家族
ゾフィーとサシャが鉄の抽出を始めたので俺達もそれぞれの仕事をしていく。
「ジーク、できたけど、鉄以外はどうすればいいの? 他のは?」
ゾフィーが15分くらいでコンロから鉄を抽出し終えた。
「できたら銅も取ってくれ」
「銅ね。他はいらない?」
「ああ。欲しいのはその2つだからな。それと1キロになったらインゴットにしてくれ」
「はいはい」
ゾフィーは抽出した鉄の塊をデスクの隅に置き、銅の抽出を始めた。
「ジーク先輩、私もですか?」
サシャが聞いてくる。
「いや、まずは鉄の抽出に慣れてくれ。学生時代にやっているからすぐにできるようになると思う」
「わかりました」
サシャが頷き、鉄の抽出を再開する。
サシャをずーっと見ているが、やはり遅い。
1時間くらいはかかるんじゃないかというペースだ。
まあ、仕方がないし、そんなに難しい技術じゃないから大丈夫だろう。
「ゾフィー、試験の方はどうだ?」
「テレーゼとリーゼロッテと勉強会をしている」
あの師弟か。
「テレーゼは帰らせているようだが、リーゼロッテもか?」
「クヌートが入ったし、他のチームからの応援も入っているしね。結構、楽になったみたいよ」
それは良かった。
「どんな感じだ? 受かりそうか?」
「客観的に見ると、私は無理。テレーゼもちょっと厳しそうね。リーゼロッテは8級に受かると思う。あの子は本当に頭が良いわ」
へー……じゃあ、大丈夫か。
あれだけの激務をこなしているわけだから腕は確実にあるだろうし。
「お前、リーゼロッテと上手くやれてる? あいつ、口が悪くないか?」
「そう? 気が合うし、良い子だと思うわ」
こいつも口が悪かったな。
そういえば、こいつとリーゼロッテってどこか似てるわ。
「一門の勉強会は?」
「またやることになってる。さすがにあんたは来なくていいわよ」
わざわざ飛空艇に乗って、王都に行ってまで勉強会に参加したくないな。
「お前、次の試験が無理ならサシャの勉強でも見てやれよ」
「無理って決めつけるな」
自分で客観的に無理って言ってただろ。
「人に教えるのも勉強になるぞ」
「そうねー……それはテレーゼもクリスも言ってたわ。サシャ、こっちにいる間、見てあげようか?」
ゾフィーがサシャに聞く。
「いいんですか?」
「うん。こいつら、どうせ勉強会しているし、あんたも参加しなさい。こんな機会は滅多にないわよ」
「ジーク先輩、いいんですか?」
サシャが確認してきた。
「いいか?」
エーリカに振る。
場所がエーリカの家だからだ。
「もちろんですよー。サシャさん、良かったら夕食もご一緒しませんか? 歓迎会です」
これが光の者。
「ありがとうございます」
サシャも笑顔で頷いた。
「お前も来るんだよな?」
ゾフィーに聞く。
「うん」
やっぱりか。
俺達はその後も話をしながら仕事をしていった。
すると、1時間くらいでサシャが鉄の抽出を終え、鉄の塊を持ってきたので見てみる。
「どうですかね?」
「良いと思う」
遅いが、ちゃんと鉄だけを抽出できている。
「ふーん……」
横にいるゾフィーが覗いてきた。
「ゾフィー、どう思う?」
「遅いけど、悪くないんじゃない? 魔力のバランスも良かったし、細かいところまでできていた。私が元いた精密機械製作チームにでも入ればいいのに」
「サシャ、だそうだ。俺も見ていて、腕自体は悪くないと思う。だが、スピードがないからこのままでは10級に受かるのは厳しい。せっかくの出張だからやりまくって慣れておけ」
10級の実技はそこまでだし、サシャは基礎がしっかりしているようだから大丈夫だろう。
同じ資格なしでもやはり王都の魔法学校を卒業して、本部に就職しているだけあって、マルティナとは違う。
「わかりました。じゃあ、次の分に入ります」
「ああ。頼む」
サシャが次のフライパンを手に取ったので仕事を再開した。
そして、この日の仕事を終えると、片付けと戸締りをし、支部裏の寮に戻る。
「へー……本当に支部の裏に寮のアパートがあるんですね」
夕食を共にするためについてきたサシャが感心する。
「ええ。すぐに帰れるのは良いわね。ホント、楽」
アデーレが頷きながら答えた。
「私、実家住まいなんですけど、遠いんですよねー」
「一人暮らしをするにしても本部の辺りは高いしね」
「そうなんですよ。だからちょっと羨ましいです」
これは皆がそう言うし、俺もそう思っている。
「私もここに来て、良かったと思ったわ。あ、そこがエーリカさんの部屋。ちょっと待ってて」
アデーレはエーリカの部屋を指差す。
「わかりました。エーリカさん、お邪魔します」
「どうぞー」
エーリカとサシャが部屋に入っていったので俺達もそれぞれの部屋に入った。
「変わらず、シンプルな部屋ねー……」
ゾフィーがリビングを見渡す。
「シンプルが一番だ。お前、またソファーか?」
「ええ。借りるわね」
ゾフィーはソファーに腰かけ、荷物を出し始めた。
「マジな話、サシャをどう思った?」
「腕は悪くないし、魔力のコントロールも良いわ。欠点を上げるとしたら魔力がそこまで大きくないところ。受付に回されたのはそこが理由かもね」
確かにサシャの魔力は高くない。
3人娘よりも低いくらいだ。
「そういう決め方なのかね?」
「じゃない? アデーレは……高くはないけど、低いってほどじゃないわね」
「アデーレは別の政治的な理由だ」
アウグスト派閥ね。
「ふーん……そりゃ引き抜いて正解ね。もったいないわよ」
「そうだな」
「サシャも引き抜いてあげたら?」
来てほしいとは思う。
戦力的な意味ではまったく足りていないのがこの支部だし。
「それはアデーレに一任することにした。俺はもう何度も誘って断られている」
これ以上はしつこいだろう。
「ふーん……じゃあ、手伝ってあげるわ。あの子も10級に受かったら考えも変わるでしょ」
それはあるかもな。
誰だって努力して得た資格を使えるところで働きたいと思うだろうし。
「明日来るマルティナも頼むぞ」
「まあ、見ても良いけど、あんたの担当じゃないの? マルティナって、ジークとマリーの子ってイメージだわ」
嫌だな……娘役のマルティナよりもはるかにマリーの配役が……
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