神頼みデンジャラスイヤー!
空中庭園、基本的には草原が広がる中にポツンとゲルスフォルスの城が建っているだけである。
しかし、今日は違った。
「珍しいのぉ、ラナがこの平原にオブジェクトを作るのは珍しくはないのじゃが」
ゲルスの目の前には木造の珍妙な倉庫のような建物があった。
「ゲルス様も新年のお祝いっすか? でもまだ完成しきってないっすから待ってほしいっす」
「別に新年を祝うつもりはなかったのじゃが……」
困惑しながらゲルスフォルスはそう答える、というよりもこの建物のことを全く知らないから当然なのだが。
「それよりこの建物はなんなのじゃ? アクリエス由来のモノではなさそうなのじゃが」
「これは神社っていうっす! 異世界の文化で新年だけでなくいろいろな時期にここで神に祈るらしいっす」
「ほう、神に祈……神に祈るじゃと!?」
突然、ゲルスの纏う魔力が高まる。ラナはなにがゲルスの逆鱗に触れたか理解できなかった。
「なんで急にそんなにピリピリするんすか!? ただ神に祈るだけじゃないっすか!?」
「駄目じゃーっ! 即刻建築を取りやめるのじゃーっ!」
ゲルスは混沌魔獣砲を溜め始める。それもたかが魔力すら帯びていない木造建築物に向けてフルパワーで。
「ちょっと止めてほしいっす! ここでそんな全力で壊しに行くと地上に影響が出るっすよ! 落ち着いて話し合いをしましょうよ!」
「仕方あるまい、我慢してやるのじゃ。しかしこの神社とかいう危険因子は破壊しなくてはならぬ」
流石にゲルスもここでフルパワー混沌魔獣砲を撃ってはならないと判断したのか即座に取りやめた。ただ結局破壊されると知ったラナは悲しんだ。
「良かったっす……それよりなんで神に祈る建築物が危険因子なんすか?」
「ラナには説明しておらんかったかの、神という存在について」
そう言ってゲルスは神について話を始める。ちなみにラナは本当に初耳だった。
「神というのは世界を管理する存在じゃ、神が右腕を振るえば世界は創造され、神が左腕を振るえば世界は容易く崩壊する」
「なんか凄いスケールの話が始まったっす……」
「そしてじゃ、神は強い、強すぎるのじゃ。逆立ちをしてもわっちには倒せん、むしろ一瞬で存在ごと消滅するじゃろうな。そして神が国王だとするのじゃ、配下は天使となる。」
「呼びましたか!?」
「呼んではおらぬ。だがラズリエルの存在はこの後の話に深くつながってくるのじゃ」
「呼んでもよかったんじゃないっすかね……」
部外者とは言えない暴走天使の乱入からラナは内心で、「めんどくさそうだからこっそり逃げようかな」と考え始めた。
「ラズリエルはれっきとした元天使じゃ、神に仕えておったな。」
「普通に命令違反繰り返していましたけどね!」
「本人の天使としての働きはどうあれラズリエルはわっち達の世界に無断で遊びにに来たのじゃ。神は自由に世界間を転移することができるし配下である天使を転移させることができるのじゃ」
「はい! それで神を騙し……説得して強い生物と戦いに来たのですよー!」
「神はそれぞれ世界を管理しておるが、当然他の神が支配している世界に干渉しすぎることはできぬ、お互いに不利益じゃからな」
そもそもゲルス様はどうしてここまで神について知っているのか、ラナは疑問に思い始めた。
「では、配下である天使の不祥事はどうするか、事例としては珍しいわけであるがその世界を管理する神に頼み自らが処分するわけじゃ」
「ですが、今私はここに五体満足で存在しています、それは何故か」
突然真面目モードになるラズリエル。そしてゲルスとラズリエルは声を揃えて。
『アクリエスには神が存在していないからじゃ(です)』
「そしてじゃ、神が存在しない世界にも干渉しすぎることができぬ」
暫くの間、沈黙が続く。最初に口を開いたのはラナであった。
「えっ、でもそれだと誰が世界を作り上げて管理しているんっすか?」
「誰でもないのじゃ、アクリエスは特異点と言えよう」
「えぇ、私も驚きました。まさか神が管理していない世界があるなんて」
「故にじゃ、神という存在に祈る行為は無意味、どころか民衆に広まればアクリエスに本当の意味で神が存在することになるのじゃ」
「後から神が誕生するんすか?」
「いや、既に世界を管理している神がやってくるんですよ」
「でも干渉しすぎることはできないはずっすよね?」
「正直なところ神が存在することになる話はわっちとラズリエル、ロイザーの想像じゃ、信憑性など全くない。」
「神が存在しなくて、かつゲルス達によって私の介入は問題を生じさせませんでした。問題を生じさせていても放置するでしょう、神が存在しないうえで厄介ごとを受け持つことになるのですから」
「じゃが、民衆が神を求め始めるとするのじゃ、そうすると神が介入する正当性が生まれる、そうわっち達は考えておる」
「介入しすぎである、と判断されないというわけです」
「神が存在するようになるとアクリエスは今までのようにはいかなくなる、という訳じゃ」
ここまで聞いて確かに神社の存在は危険であるとラナは理解した。
「話は理解できたっす、ゲルス様がそう言うのであれば破壊してもらって構わないっす……」
「うむ、不満があるのはわかるのじゃ。しかし、混沌の魔獣としては許せぬことだとわかってもらえると嬉しいのじゃ」
「もう少し、この世界について知っていかないといけないっすねー」
「私が教えましょうか?」
「ラズリエルもアクリエスについてはそんなに知らんじゃろ」
結局、神社はその日のうちに破壊されたとさ。
*
「別に神に祈る場所って伝えなければ良かったのにね」
「ふっふっ、お雑煮、美味しい」
ロイザーとアルも神社を建てていた。そしてその前で呑気に異世界の食文化を楽しんでいた。
「ボクもこの世界について家臣に教えていった方が良いかもね、今日のゲルスの様子を見ているとね」
「黒豆、少ない……」
「それよりも珍しいね、アルが僕に料理を頼むなんて」
「ラナが問題を起こすと予想、故にロイザーに頼んだ」
「今しがたお主らも問題を起こしておるのぉ?」
目の前には獣の形相をしたゲルスが仁王立ちしていた。
「これは別に神に祈る建物ではないよ、断固として否定しておくよ」
「それよりも料理に心を向ける」
「破壊じゃ破壊じゃーっ!」
アルは(料理の)危険を感じ即座におせちを持ち逃亡したが、ロイザーは巻き込まれたらしい。
後、クーも下手な神社を作成しており、当然のように破壊された。
ゲルスフォルスは破壊によって新年を始めることになった。




