6-82 竜騎士と戦う
―1―
で、俺はどうするべきなんだろうな。ここの騎士を全滅させるのは簡単なような気がする。辺り一面にスリープクラウドを広げて、眠った所でナイトメアの魔法を放てば一網打尽に出来るからな。何も真面目に戦う必要は無いもん。こちらの被害を考えなければアイスストームを放つのもいいかもな。
まぁ、相手の力量が分からないんだから、思い上がって油断するべきじゃないけどさ、それでも、そこまで困らないと思う。
一番の前線にいる辺境伯の領地で騎士の実力は散々見てきたからさ、いくら王宮だって言ってもさ、それよりも飛び抜けて――規格外に強い騎士がいるとは思えないんだよなぁ。
「鍵のありかを知っている俺を襲ってどうするんだ? 王子との話を聞いていなかったのか?」
俺の言葉に筋肉は一瞬言葉に詰まり、それでもすぐに口を開いた。
「それは、それだ! 敵国の力を借りずとも! これは我々の国の問題だ!」
うーん、つまり、よく分かっていないんだな。
まぁ、いい。相手になってやろうじゃんかよー。こう見えても剣には覚えがあるんだぜ!
「分かった、分かった。相手になるよ。俺はどうしたらいいんだ?」
仕方ないなぁ。
「ふん、テオフィルス、お前が相手しろ」
筋肉の言葉に1人の騎士が前に出る。
「僕が、ですか」
「お前の働きが第三王女の助けになるのだ」
筋肉が何か得意気に喋っている。
「不利な立場のお前でも、王子の為に、国のために働けば、少しは考慮して貰えるかもしれんぞ」
ふーん。
「分かりました。僕の槍を」
若い騎士はしばし逡巡し、それでも、そう答える。若い騎士の言葉に並んでいた騎士たちの後ろから大きな竜骨の槍を持った従者が前に出てくる。そして、若い騎士が竜槍を受け取る。
「以前の槍は折れてしまったから、仕方ない」
そして、竜槍を構える。
「君に恨みは無いが、僕の仕えるセシリア姫のため死んで貰う」
うーん、この若い騎士はセシリーの味方ぽいなぁ。でも、情報を与えられず上手く利用されてしまったって感じか。筋肉が意地悪そうにニヤニヤと俺たちを見ているもんな。どっちが倒れてもって感じか。
はぁ、仕方ないなぁ。ホント、仕方ないなぁ。
「こんなか弱い姿の俺に槍を向けるのか」
俺は肩を竦めてみせた。
「君も帝国の貴族なら覚悟を決めたまえ。僕は以前にセシリア姫と共に帝国に行ったことがある。そこは、神聖国で言われているほど悪い国では無かった。しかしっ! それとこれは別だ!」
何だろう、この騎士は悪い奴じゃない気がするな。でも、考え無しだな。
「武器は何を使っても?」
俺の言葉に筋肉が笑う。
「何を言っている。これは制裁だ。お前に武器を貸し与えると思うか」
なるほどね。
――《スイッチ》――
《スイッチ》スキルを使いスターダストを取り出し構える。
「14型、下がっていろ。ちょっと身の程を教える必要があるようだ」
俺の言葉に14型が綺麗なお辞儀をして羽猫と共に後ろに下がる。
「武器を……何処から、その剣は何処から取り出した!」
筋肉が騒ぐ。
「使ってもいいだろ? 相手は槍なんだ、これくらいのハンデは欲しいな」
「ええい、テオフィルス、そいつを黙らせろ!」
筋肉が騒ぐ。小物だなぁ。
―2―
騎士の竜槍が振るわれる。早いな。俺は軌道を読み、それを一歩下がり回避する。竜槍が軌道を変え上に、そしてそのまま叩き付けられる。俺はステップを踏むように横へと回避する。おー、怖い怖い。
「回避されたか。やはり、君は見た目通りではないようだ」
騎士が槍を引く。これは試されたのかな。
「見た目通りだと思うがな」
俺はスターダストを水平に構える。
――《ゲイルスラスト》――
俺が放った烈風の突きを騎士はするりと回避する。
「そんな、見え見えの攻撃を」
まぁ、そうだろうね。スキルはどうしても直線的になるからなぁ。
俺の突きを回避した騎士が、そこを狙う。騎士から竜槍が唸りを上げ螺旋が放たれる。俺の正面に赤い渦が灯る。
俺はすぐさまスターダストの柄を持ち上げ、螺旋を描く竜槍の軌道を変える。そのまま前に転がるように竜槍とすれ違う。危ない、危ない。
そのまま飛び、騎士との距離を取る。
「距離を取ったか。しかし、その距離、槍の方が有利!」
騎士が竜槍を構える。
俺は騎士に槍を振らせないため前に出る。
「む!」
そのままスターダストを振るう。騎士は俺の素早い攻撃を竜槍を縦にして、次々と防ぐ。
「その体格、やはり軽い!」
ま、そりゃそうか。
「しかし、その剣筋何処かで……」
俺は構わずスターダストを振るう。
「くっ。疲れ知らずか。しかし、軽さはっ!」
そっすねー。
スターダストの軌跡を変える。スターダストが竜槍の隙間を抜け、騎士の鎧を穿つ。
「な、なんだと」
俺はさらにスピードを上げてスターダストを振るい続ける。
騎士は俺の攻撃を防ぎきれず、鎧に傷を増やしていく。
「あり得ない角度から剣が……」
ふっ、ふっ、ふっ。これぞ、秘奥義! 俺自身が剣を握っているように見せてサイドアーム・ナラカとサイドアーム・アマラで攻撃! 俺は疲れないし、速度はいくらでも上げられるし、軌道はデタラメだ。ふぁふぁふぁ、怖かろう。
「しかしっ!」
騎士が斬られることも構わず、こちらに体当たりを繰り出す。
――《飛翔》――
俺はとっさに《飛翔》スキルを使い距離を取る。
「離れたな!」
騎士が竜槍を振り払う。そして、地面に突き立て、そのままの勢いで飛び上がる。と、飛んだだとッ!
「竜騎士の奥義、喰らえっ!」
騎士が光る三角錐となって、空から竜槍と共にこちらへと突撃する。なるほど、竜にのっての空からの突撃を1人でも出来るように真似したのか。俺の《飛翔撃》と同じだな。
「受けて立つぜ」
俺はスターダストを振り払い、槍形態に変える。
――《スパイラルチャージ・ダブル》――
スターダストが二重の螺旋を描き、空からの竜槍を迎え撃つ。槍と槍がぶつかり、光る衝撃波がほとばしる。
――《飛翔》――
さらに《飛翔》スキルを使い、爆発的に威力を上げる。
そして竜槍が砕けた。俺の最強の一角、スターダストを舐めるなよッ! あ、もう一つは当然、真紅妃です。
俺はスターダストを振り払い、剣形態に戻す。
騎士は竜槍が砕け、そのままの勢いで吹き飛び、地面を転がる。って、コレだと武器の力で勝ったみたいじゃん。
騎士がよろよろと立ち上がる。
「また……負けるのか」
知らんよ。いや、でもさ、俺の今の《変身》状態って魔法が強くなって器用になるだけで普段と変わらないからな。魔法を使ってない戦いなんて、まぁ、こんなもんだよなぁ。武器に頼るのも仕方ない、うん、仕方ないよなぁ。
「武器の差だ」
一応、フォローしておく。
「それでも負けは負けだな……」
騎士の姿はぼろぼろだ。ちっ、しゃーねーなー。
――[エルキュアライト]――
騎士に癒やしの光を放つ。範囲はヒールレインだけど、単体なら癒やしの光だよな。
「こ、これは……」
騎士の傷が癒えていく。まぁ、砕けた鎧とか武器は治せないけどさ。
俺は周囲の騎士を見る。
「さあ、俺の勝ちだ。次は誰が相手だ? 次は魔法も使うぞ」
俺の言葉に騎士たちは顔を見合わせる。筋肉はぐぬぬって感じで唸っている。
「先程の剣筋、レイナード様の領地の騎士と同じように見えたが……」
1人の騎士が前に出て聞いてくる。次は君が相手かね。俺が、そちらを見ると騎士は一歩下がった。
「い、いや、確認だ」
「一応、俺の剣の師匠はレイナード辺境伯ってじいさんになると思うな」
剣は、な。一応、一通り習ったからな。この世界に来てから、初めてだよ、習い事なんてさ。殆ど自力でやって来たからなぁ。
俺の言葉に周囲の騎士たちがにわかに騒がしくなる。
「帝国の貴族に、剣を?」
「一番、帝国と戦った、我が神聖国、最強の盾が?」
「おかしくないか?」
そして、騎士たちの中から1人の華美な鎧とマントを着けた若騎士が俺の方へと歩いてきた。おや、王宮の入り口で14型たちを引き留めた騎士だな。
「すまない。私たちが間違っていたようだ」
何が?
「その姿を見た時点で気付くべきだった。私たちは偽りの情報に踊らされ目が曇っていたようだ」
だから、何が?
「君の行動、その剣筋、間違いなくレイナード様のもの。君は言葉よりも確実な証を立てた」
だから、何?
「私たち騎士は王に、この国に仕える者として正さねばならない」
いや、あの、俺、置いてけぼり。
「ウースター、バレンタイン様の近衛騎士として、今回の件、釈明を求める! それと女神教団にも人を!」
突然、現れた若騎士の言葉に筋肉は震え上がっていた。えーっと、俺、どうしたらいいんだ。