6-81 王子との食事
―1―
王子との食事に臨む。細長い机の端に王子が立ち、その向かい側に俺が立つ。王子の背後にはひょろ長銀仮面と筋肉が立ち、俺の後ろには14型が控える。だからさ、なんで、この国は立って食事をするんだよ。座った方が楽じゃないか? うーむ、これも文化の違いか。
「今日はタリスの料理を集めてみたよ」
王子が説明してくれる。タリスは地名かな。
「ミストアバンは神聖国の首都だからね、色々集まるんだよ。でも郷土料理は余り美味しく無いんだよね」
そう言って王子は笑う。自国の料理が美味しくないからタリスの料理人を呼んだってコトか?
ふむ。長机の上に並べられた料理は、何かの肉を蒸した? 上に赤いソースがかかった物、新鮮なお野菜とそれに浸けて食べる用と思われる油? 沢山の白パン、衣のついた丸ごとの魚にべちゃべちゃと液体がかかった物、蛇の切り身の寒天? みたいな物等々だった。うーん、どれも微妙に美味しく無さそうだ。それに冷めているのがいただけない。やっぱりさ、王族って暖かい料理とかは食べない感じなのかなぁ。毒味している間に冷めてしまう的な、さ。
「毒なんて入ってないよ」
王子がにこやかにそんなことを言った。あー、俺が料理をジロジロと見ていたから、不審に思わせてしまったか。
「不安なら、後ろの従者に食べさせてもいいよ」
うん? 14型に? つまり、毒味をさせてもいいって許可を出したってコト? ホント、上からなんだなぁ。味が分からない機械の14型に毒味をさせても意味が無いからな。まぁ、普通に食べるか。
用意されたピックとナイフを取り、目の前の肉を切り分け、口に運ぶ。王子はそれをニコニコと楽しそうに見ている。
もぐもぐ。
うーん、普通。冷たいコンビニ弁当よりは美味しいかなぁって感じだ。王室の料理でコレって、神国は料理のレベルは余り高く無いのかなぁ。
次は魚を切り分け食べる。
もぐもぐ。
うーん、小麦粉の衣を付けて、蒸して塩と油で浸した感じの料理だな。美味しいかと言われたら、気持ち悪いって感じだ。
もぐもぐ。
飲み物はワインか。何を原料にしているか分からないからさ、ワインって言うと語弊があるか。ワインのような物! だな。
もぐもぐ。
「ねぇ、ノアルジー。ノアルジーは迷宮の鍵の在処を知らないかな?」
王子自身は料理に手を付けず、そう話を切り出してきた。
「鍵はセシリーと交換と聞いているが?」
俺の言葉を聞いて王子は笑った。
「誰? 誰から聞いたの、それ?」
そして、笑っている王子の横に銀仮面が顔を近づけ、何事かをささやく。
「バレンタイン王子、一応辺境伯との取り決めで、そのような話に」
銀仮面の言葉に王子が頷く。なるほど、そういう感じなワケか。
「こちらで鍵を用意しよう。だから、1年待って貰えないか? その間のセシリーの身の安全を保証して欲しい」
俺の言葉を受け、またも銀仮面が王子にささやく。
「鍵を用意させるのは良いでしょう。ですが、1年は長すぎます。次の女神の休息日に間に合わないと言って1月に期限を切るのが良いでしょう」
王子が銀仮面の言葉をうんうんと頷きながら聞いている。ふーん。
「ノアルジー、1年は長い。次の女神の休息日が来た時に僕の国民に被害が出てしまう。1月にしよう」
ふーん。
「準備に時間がかかるんだよ。せめて半年待ってくれ」
俺の言葉に王子は首を傾げた。
「はんとしぃ?」
あれ? 余り通じてない? あ、そうか。
「前半の年は待って欲しい」
今は女神の休息日を終えた所だからな。前半だろう。これで通じるはずだ。
「分かった」
銀仮面が入れ知恵しようとしたのを遮り、王子が返事をする。王子の素早い反応に銀仮面が仮面越しでも驚いているのが見て取れた。
「約束だ」
「うむ。王は約束を守るものだ」
こうして王子との食事会はよくわからぬまま終わった。うーん、料理が微妙だった。これ、うちの商会が進出したら凄いことになりそうだぜー。でも、本社と神国では距離がありすぎるからなぁ。そこが問題だよな。
―2―
食堂に残る王子、さらにオマケの銀仮面と別れ、部屋の外に出る。すると何故か筋肉がついてきた。
「顔を貸して貰おうか」
筋肉が問答無用と言わんばかりに俺の腕を掴もうとする。それをするりと躱し、筋肉の背後に回り込む。
「どんな用件だ?」
俺が背後に回り込んだのが見えなかったのか、筋肉はすぐさま振り返り、驚いた顔をこちらに向ける。
「お前、何をした?」
「どんな用件だ」
俺はもう一度、問う。
「話があるから、来い」
ふーん。まぁ、行ってやっても良いぞー。
「分かった。連れて行け」
「む、お前、偉そうだな」
俺の言葉に筋肉は頭を掻いていた。
途中で合流した羽猫、俺の後ろに控えている14型と共に筋肉の後を歩く。そして、城の奥にある大広間のようなところに出る。広いな。舞踏会でも開く場所なんだろうか。
そして、そこには多くの騎士が並んでいた。
「これより、我々の神聖国に入り込んだ帝国貴族に制裁を加える」
筋肉がそんなことを叫んだ。それに合わせて周囲の騎士たちが武器を掲げて答える。えーっと、帝国貴族? 誰のコト?
「しかも、だ。こやつは帝国の者で有りながら王子に取り入ろうとする輩である。すなわち、帝国の間諜の可能性もある!」
うーん。スパイなら目立つことはしないと思うけどなぁ。前後が繋がっていない、無茶苦茶な話だよな。
騎士が動き始めたのに合わせて14型が何やらニコニコと笑い始めた。
「14型、お前は動くな」
俺の言葉に14型は一瞬、不満そうに――それでもすぐにいつもの無表情へと戻り、
「了解です、マスター」
と言っていた。
「で、俺はこれからどうなるんだ?」
「騎士による制裁を受けてもらう」
筋肉がにやりと笑う。
「そんなことをしてさ、それを王子が知ったら大変なことになると思うけど?」
「バレンタイン王子には、お前は帝国に逃げ帰ったと報告しておく」
ふーん。
「こんなか弱い姿の俺を騎士がよってたかって襲いかかるのか」
今はノアルジ状態だからな。普通の少女ぽい擬態ですよ。
「ふん。騎士を見くびるな。お前には1対1の決闘を受けてもらう」
いやいや、普通の少女ぽい姿に無理矢理決闘をさせるのはダメだと思うぜ。見くびっちゃうよ!
「俺にメリットが見えないんだが」
「お前の都合など、ありはしない」
俺の言葉に筋肉は馬鹿にしたように鼻息荒く答える。ふーん。
何だか、野蛮な感じだなー。
2016年7月20日修正
そうして王子との → こうして王子との




