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COSKILLER (コスキラー)―CKR(シクル)―  作者: 黒薔薇
死刑囚の元コスプレイヤー 久我 誠司(くが せいじ)
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7/54

白い廊下

夜の街を、

車が静かに走っていた。


車内は珍しく静かだった。


久我誠司は窓の外を見ている。


流れていく景色に

信号

それにコンビニの灯り


どれも、

どこか現実感がない感じに見えた。


隣ではDollがスマホを見ていて

前方ではHeroが黙って座っている。


運転席はKnightがいて運転をしている。

隣の助手席にはMaskで

後部座席の端ではMirageがタブレットを操作し、

Jokerは珍しく口数が少なかった。


やがて


「……緊張してる?」


Dollが顔を上げたが

久我は窓の方を向いたまま答える。


「してない。」


「嘘ついてるよね?」


「……。」


「手…震えてる」


Dollに言われて自分の手を見ると

無意識にいつの間にか固く握られていた。


それを見て

Dollが少しだけ笑う。


「私もするよ?」


「何を。」


「緊張」


「そういう風になるようには……見えないな」


「よく言われる」


それ以上は聞かなかった。


車内はまた静かになる。


すると


「怖い?」


今度はMirageが声をかけてきて

久我は少し考えた。


そして


「……分からない。」


小さな声で答える。


「会いたいのかも分からないし…

何を聞くべきなのかも分からない。」


「ただ……。」


言葉が止まると

Heroが振り返らずに言った。


「ただ…何だ?」


久我はゆっくり息を吐いた。


「もし、本当に何か隠されてたなら

美咲は……最後まで、一人だったのかなって…」


その一言で

車内が静かになった。


誰もすぐには答えない。


やがて


「違うと思う…」


Jokerがそう言うと

久我が顔を上げる。


Jokerは前を見たまま言う。


「人ってさ…

本当に一人なら、今さら告発なんてして来ない。」


「……。」


「誰かが覚えてて…ずっと引っかかってた。」


いつもの軽い口調ではないのを察して

久我は何も言えなかった。


Mirageが静かに続ける。


「人の記憶は、案外しぶといのよ?

忘れたふりはできても中々消えない。」


久我は窓へ視線を戻したら

街の灯りが滲んで見えた。


それが雨のせいではないことだけは分かった。


一時間後

車が止まると

目の前には、大きな建物があった。


白い外壁に見慣れた入口を見て

久我の呼吸が止まる。


「……ここ」


三年前まで

何度も通った場所だ。


何度も美咲の手を引いて歩いた場所


そして―


最後に、

美咲を見送った場所でもある

病院だった。


誰も急かさない。


久我はしばらく建物を見上げていた。


「行ける?」


Dollの声を聞いて

久我はゆっくり頷いた。


「ああ」


一歩

また一歩

と足を進める。


病院の自動ドアが開いて

冷たい空気が流れてくる。


受付には夜勤の職員がいた。


静かな廊下に規則正しい足音

あの時から何も変わっていない。


なのに

全部変わってしまった場所


「……。」


久我が立ち止まる。


そのとき

Heroが隣に並んだ。


「無理はするな。」


「……。」


「聞くのが辛いなら、俺たちが聞く。」


久我はしばらく黙っていた。


そして、小さく首を横に振る。


「俺も聞く。」


Heroは何も言わないで

ただ、頷いた。


そのときだった。


Maskが低い声で言う。


「……いたぞ」


全員が振り向くと

廊下の向こうに

一人の女性が立っていた。


四十代くらいの看護師だった。


白衣の上にカーディガンを羽織って

こちらを見ている。


いや――

久我を見ている。


その顔が、みるみる青くなる。


「……久我、くん?」


かすれた声で呼ばれて

久我が息をのむ。


知っている顔だった。


美咲の担当看護師で

いつも優しく笑う人だった。


「……高橋、さん?」


看護師の目が揺れる。


そして

ぽろり、と

涙が落ちた。


「ごめんなさい……。」


久我が固まる。


「本当に……ごめんなさい……。」


静かな廊下に

泣き声だけが響いていた。


六人は何も言わずに

誰も口を挟まない。


ただ、そこに立っている。


看護師は震える声で言った。


「私……何もできなかった……。

ずっと……言えなかった……。

毎日……謝りたかった……。」


久我は動けなかった。


頭が真っ白だった。


ただ

一つだけ

分かったことがある。


美咲のことを

覚えている人がいた。

忘れていない人がいた。


それだけで

胸の奥にあった何かが

少しだけ、ほどけた気がした。


そして

看護師は、震える手で一枚の封筒を差し出した。


「これを!……」


久我は、ゆっくりとそれを受け取った。


封筒には

見覚えのある、丸い文字で

たった一言だけ、書かれていた。


――お兄ちゃんへ


久我の呼吸が、止まった。


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