池袋コスプレ交流フェスへ向けて
東京ビッグサイトでの事件から、
三日後の夕方
CKR事務所兼アトリエには、
いつも以上に物音が響いていた。
ミシンの駆動音や
布を裁つハサミの音に
キーボードを叩く音
そして――時々、誰かのため息
アトリエ中央の大きなテーブルには、
池袋コスプレ交流フェスの資料が広げられていた。
イベントの会場図と
参加サークル一覧
それに更衣室の位置や
撮影可能エリア範囲に
入退場口と開催される周辺の地図
そして――RENの資料
七人が囲むようにして、
その資料を見つめている。
Heroが腕を組んだ。
「まず、今回の目的を確認する。」
Maskが端末を開く。
「REN本人との接触」
「それから?」
「交友関係、
金銭トラブル、
女性レイヤーとの関係
そして――黒曜会との繋がり」
Heroが頷く。
「そうだ。」
Jokerがソファに座りながら資料を覗き込む。
「しかしまあ……」
一枚の写真を見る。
そこにはRENがイベントで
女性レイヤーたちと撮影している姿が写っていた。
「本当に女の子と一緒の写真、多いねこいつ…」
Mirageが横から見る。
「イベントで交流が多いだけなら、
問題はないわよ…」
「問題は、その後だ。」
Maskが画面を切り替える。
そこには複数の女性レイヤーの名前と、
SNS上でのやり取りが並んでいた。
「RENは、
親しくなった女性に対して、
ほぼ同じような言葉を使っています。」
Dollが首を傾げる。
「同じような言葉?」
「はい。」
Maskが読み上げる。
『活動を支えてあげる』
次の画面
『俺と組めばもっと有名になれる』
さらに次
『困ってるなら俺が助ける』
Knightが眉を寄せる。
「随分と都合のいい言葉だな…」
「問題は、その後です。」
Maskが画面をスクロールする。
「親しくなった後に、少額の金銭を借りる。」
Jokerが表情を曇らせた。
「……また金かぁ」
「最初は数万円程度」
Maskは続ける。
「それを返さないまま、
別の女性と接触しているケースが複数あります。」
Dollが資料を見つめる。
「同じことを何度もしてるの?」
「その可能性があります。」
Heroは黙って画面を見ていた。
やがて――
「ただ、まだ断定するな」
Maskが顔を上げる。
「はい。」
「俺たちはRENを捕まえるために行くんじゃない。」
Heroは資料を指で軽く叩いた。
「まず事実を確認する。」
Knightが頷く。
「証拠が必要ってことだな?」
「そういうことだ。」
Jokerが立ち上がる。
「じゃあ、次は衣装会議?」
その瞬間――
「もちろん♪」
Mirageが即答した。
Jokerが苦笑する。
「やっぱりそうなるよね。」
Dollが既に立ち上がっている。
「今回は七人とも、前回とは違う衣装にしましょう。」
YONAGIが顔を上げる。
「全員ですか?」
「うん。」
Dollはテーブルの端に置かれていたデザイン画を取り出した。
「同じ衣装だと、
前回のイベントから追跡される可能性が
あるから身バレしやすくなるのよね?」
Maskが頷く。
「それは合理的です。」
Mirageがデザイン画を覗き込む。
「それに、今回の会場は池袋よ?
参加者も多いでしょうし、
オリジナル創作をするレイヤーが多いから
雰囲気を変えた方が自然ね♪」
Jokerがデザイン画を一枚持ち上げる。
「お、これ俺?」
そこには――
赤と黒を基調にした前回の道化師衣装とは違う、
白と金を基調にした、
舞台役者風の衣装が描かれていた。
細身のジャケットに金色の装飾
黒いベスト
そして胸元には小さな仮面のブローチ
Jokerが笑う。
「へぇ……今回は道化師じゃなくて役者か♪」
Mirageが頷く。
「撮影側にも自然に入り込めるでしょ♪」
「なるほど…」
Jokerは衣装デザインを見ながら笑った。
「じゃあ今回は、このキャラに成り込む感じね♪」
Dollが次のデザインを出す。
「私はこれ」
そこには――
淡い桃色とクリーム色の衣装をまとった、
人形工房の職人風キャラクター
小さな工具ポーチに
レースの袖
胸元には糸巻きの飾り
「可愛いです……」
Doll自身が嬉しそうに笑う。
「今回はイベントスタッフに
見えても不自然じゃないデザインにしてみたの」
Knightが見る。
「確かに、衣装制作関係者にも見える。」
「でしょう?」
Dollは満足そうに頷いた。
Mirageの衣装は――
深緑と黒を基調にした占星術師
長いコートに
星を模した銀色の装飾で
腰には小さな天球儀
「今回は魔術師じゃなくて占星術師」
Mirageが自分のデザイン画を眺める。
「雰囲気をかなり変えてみたわ♪」
Jokerが笑う。
「前よりさらに怪しいな…」
「失礼ね…」
Knightの衣装は――
茶色と灰色を基調にした新聞記者風
シャツにベスト
革製の小さな鞄
首からは古いカメラを模したアクセサリー
Knightが腕を組む。
「今回は探偵じゃないのか?」
Heroが言う。
「記者なら会場で情報を集めやすいだろ?」
「なるほど…」
Maskは――
黒と青を基調にしたハッカー風の衣装
フード付きのジャケットに
細いサングラス
そして腰には複数の小型端末を入れたポーチ
Jokerが見る。
「Mask、それ普段とあまり変わらないんじゃない?」
「……衣装です。」
「いや、かなり本人に近いよ?」
「問題ありません。」
Maskは真顔で答えると
Dollが笑う。
「Maskらしくていいと思う。」
そして――Hero
今回の衣装は、
黒と深紅を基調にした指揮官風の衣装
白と紺の軍服風だった前回とは完全に違う。
長い黒のコート
赤い肩章で
胸元には金色の装飾に
手袋まで揃えられている。
Heroがデザイン画を見る。
「これは……かなり目立つな」
Mirageが笑う。
「今回はリーダー役でしょう?」
「俺が?」
「そう」
Dollが頷く。
「イベントの中で七人をまとめるリーダーなら、
分かりやすい方がいいわ。」
Heroは少し考えた。
「分かった。」
そして最後に――YONAGI
Dollが一枚のデザイン画を差し出す。
「YONAGIはこれ…」
YONAGIが受け取る。
そこには――
白銀と深い青を基調にした、
聖騎士風の女性キャラクター
前回の青と銀の騎士衣装とは似ているが、
今回は大きく印象が違う。
肩の装甲に
長い白いマント
青い宝石を埋め込んだ胸当てに
そして腰には細身の装飾剣
YONAGIが目を見開く。
「……綺麗」
Dollが笑った。
「前回よりも表のコスプレらしさを強くしたの♪」
「ありがとうございます。」
YONAGIは衣装画を大切そうに見つめると
Mirageが横から覗き込む。
「これならYONAGIの雰囲気もかなり変わるわね♪」
Jokerが笑う。
「今回は完全に正統派ヒロインだな」
YONAGIが少し照れる。
「……似合いますか?」
Heroが一言。
「似合うと思う。」
YONAGIが顔を上げる。
「……ありがとうございます。」
その様子を見て、Dollが嬉しそうに笑った。
「じゃあ、決まりね。」
Dollは七枚のデザイン画を並べる。
「今回の七人は、
前回とは全然違うキャラクターで参加する。」
Maskが頷く。
「追跡対策としても有効ですね」
「それだけじゃない。」
Heroが資料を見る。
「RENが
普段どういう相手と接触するのかを見るんだ…
やるキャラや衣装も重要な情報になる。」
Knightが頷いた。
「なるほど。」
Heroは七人を見る。
「今回は全員、別々の立場で動く」
「Jokerは撮影関係
Knightは記者
Dollは衣装関係
Mirageは一般参加者
Maskは情報収集」
「YONAGIは――」
Heroが少し考える。
「RENと接触する女性レイヤーたちの周辺を見る。」
YONAGIが頷いた。
「分かりました。」
「俺は全体を見る。」
Heroが最後に言った。
「それぞれの役割を忘れるな。」
七人が頷く。
「了解。」
---
それから――翌日
アトリエは一気に慌ただしくなった。
Dollは布を広げる。
「まずHeroのコートから作るね♪」
ミシンが動き始める。
カタカタカタカタ――
Mirageは隣で装飾パーツを並べていた。
「この金具、少し大きすぎない?」
「そうね…」
Dollが確認する。
「一回り小さいものに変更する。」
Knightは新聞記者風衣装のベストを試着している。
「……どうだ?」
Jokerが振り返る。
「本物の記者っぽい。」
「そうか?」
「うん。
イベントで話しかけたら普通に取材されそう」
「お前に言われると複雑だな…」
一方――
Maskは端末を三台並べていた。
一つにはRENのSNS
もう一つにはイベント情報
そして最後の画面には、過去の被害者の情報
「RENの行動パターンが少し見えてきました。」
Heroが近づく。
「何が分かったんだ?」
「イベント参加の前後に、
特定の女性レイヤーへ接触する傾向があります。」
「同じ人間か?」
「違います。」
Maskが画面を切り替える。
「毎回、別の人物です。」
Knightが横から見る。
「イベントで新しい相手を見つけているのか?」
「その可能性があります。」
Jokerが口を挟む。
「じゃあ、池袋でも誰かを狙う可能性がある?」
「高いと思います。」
Heroが頷く。
「そこを押さえるぞ」
池袋コスプレ交流フェス
二日前の夜
アトリエの中央には、
完成前の七人分の衣装が並んでいた。
Heroの黒い指揮官風衣装
YONAGIの白銀の聖騎士衣装
Jokerの舞台役者衣装
Dollの人形工房職人衣装
Mirageの占星術師衣装
Knightの新聞記者衣装
Maskのハッカー衣装
七人分あるが全部系統が
それぞれ違う。
それぞれの役割に合わせて作られている。
Dollが最後の衣装を確認する。
「よし」
Mirageが時計を見る。
「今日はここまでにしましょう?」
Jokerがソファに倒れ込む。
「疲れたぁ……」
Knightが笑う。
「お前は試着してただけだろ?」
「精神的に疲れたんだよ。」
「何の精神だ…」
Dollが笑う。
「明日は全員、
実際に着てみて動きを確認するからね♪」
「え?」
Jokerが起き上がる。
「まだあるの?」
「もちろん。」
Dollは笑顔で答えた。
「コスプレ衣装は、着て終わりじゃないからね!」
YONAGIが衣装を見る。
「動きやすさも確認するんですね。」
「そう。」
Heroも頷いた。
「実際に会場で動けるかは重要だ。」
Maskが端末を閉じる。
「僕は明日までに
RENの最新情報をまとめておきます。」
Heroが頷く。
「頼む。」
七人はそれぞれの準備を続ける。
そんな中――
YONAGIだけが、
完成前の自分の衣装をじっと見つめていた。
Dollが気づく。
「YONAGI?」
「はい?」
「どうしたの?」
YONAGIは少しだけ笑った。
「……こうしてみんなと衣装を作っていると」
一拍。
「CKRに入ったんだなって、改めて思います。」
Dollが微笑む。
「今さら?」
「はい。」
YONAGIは頷いた。
「今までは、昔のことばかり気にしていたので」
そして――
「でも今は、次のイベントのことを考えている。」
Jokerがソファから顔を出す。
「それって結構大事じゃない?」
YONAGIが笑う。
「……そうですね。」
Heroはその様子を見ながら、
静かに資料を閉じた。
「なら、次も七人で行く。」
全員がHeroを見る。
「池袋でRENを調べる。」
一拍。
「そして――黒曜会が何を企んでいるのかを、
一つずつ明らかにする。」
アトリエに、
再びミシンの音が響き始めた。
カタカタカタカタ――
外はもう夜
それでも七人は帰らない。
池袋で始まる次の事件に向けて
衣装を作り、
情報を集め、
役割を決める。
そして――
誰もまだ知らない。
RENを追った先で、
CKRがついに――
黒鉄迅が彼らを勧誘した本当の理由へ、
一歩近づくことになることを




