東京ビッグサイト
三日後――
東京ビッグサイト
朝から会場周辺には、
大勢のコスプレイヤーとカメラマンが集まり
賑わっていた。
色鮮やかな衣装に
特徴的なウィッグ
大型の武器や小道具
そして、あちこちから聞こえてくるシャッター音
今日もまた、
巨大なコスプレイベントが始まろうとしていた。
その人混みの中に――
七人の姿があった。
ただし、今日の七人はいつものCKRとは違う。
今回のために、
Dollが新しく用意した衣装を身につけている。
まず先頭を歩くHeroは
普段の落ち着いた服装とは違い、
今日は白と紺を基調にした軍服風の衣装だった。
長めのジャケットには金色の装飾が入り、
肩には飾り紐
腰には細身の装飾剣を下げている。
黒髪を後ろへ流したスタイルも相まって、
どこか冷静な指揮官を思わせる。
Heroは周囲を見渡す。
「……かなり人が多いな?」
その隣ではJokerが歩いている。
Jokerの衣装は、Heroとは対照的だった。
赤と黒を基調にした道化師風の衣装で
片側だけ長いコートに、
トランプのマークを模した装飾があり
首元には白いフリル
そして片目を覆う小さな仮面をしていて
本人の軽い性格も相まって、
すでに何人かの参加者から視線を向けられている。
Jokerはその視線に気づくと、手を振った。
「そりゃ東京ビッグサイトだからね♪」
「お前は少し目立ちすぎだ…」
Heroが呆れる。
「いいじゃん♪ イベントなんだからさ!」
その後ろを歩くDollは、
淡い水色と白を基調にした人形師風の衣装で
膝丈のスカートに細かなレースがついていて
腰には小さな裁縫道具を模したポーチを
ぶら下げていて髪にはリボンが飾られている。
普段のDollらしい柔らかな雰囲気がありながら、
衣装そのものはかなり華やかだ。
Dollは自分の袖を確認する。
「これ、動きやすく作っておいてよかったね♪」
Mirageが振り返る。
「でしょ?」
Mirage自身は、
今回は紫と黒を基調にした魔術師風の衣装だった。
長いマントに細身のブーツ
そして
胸元には大きな宝石を模したアクセサリーを
着けている。
そして紫色の長いウィッグで
普段以上に大人びた雰囲気をまとっている。
「これだけ人が多いと、
衣装を見てもらうだけでも結構楽しいわね♪」
その横ではKnightが歩いている。
Knightの衣装は、意外にもかなり軽装だった。
白いシャツに黒いベスト、
革の手袋、そして探偵風のロングコート
腰には工具ではなく、
アンティーク調の懐中時計があり
いつもの武骨な雰囲気とは違い、
今日はどこか知的な探偵を思わせる。
Knightはコートの裾を直した。
「……この衣装、普段より動きやすいな♪」
Jokerが笑う。
「Knightが探偵って、意外と似合ってるじゃん♪」
「うるさいぞJoker!」
そして――Mask
今回はいつもの機械的な雰囲気を完全に隠すため、
黒いロングコートに白いシャツ、
銀色のアクセサリーを組み合わせた情報屋風の衣装を
選んでいた。
片目にはモノクル型のアクセサリーで
腰には古い本を模した小道具を着けている。
一見すると、
ファンタジー作品に登場する謎の情報屋そのものだ。
Maskは端末を確認する。
「全員、通信は問題ありません。」
最後に――YONAGI
今日の彼女は、
普段の黒を基調とした衣装とは少し違っていた。
深い青と銀を基調にした騎士風の女性キャラクターで
肩には銀色の軽装甲で
胸元には青い宝石があり
腰には細身の剣を装備していて
長い髪には銀色の髪飾りが付いている。
落ち着いた色合いながら、
会場ではかなり目を引く衣装だった。
YONAGIは自分の衣装を見下ろす。
「……少し派手じゃないですか?」
Dollが笑う。
「似合ってるよ♪」
Mirageも頷く。
「それに、
今日のYONAGIはいつものYONAGIとは少し違うわ♪」
Jokerがニヤッと笑う。
「じゃあ今日は『YONAGI騎士団長』ってことで♪」
「なんですか、それ……」
YONAGIが苦笑すると
Heroも少しだけ笑った。
「悪くないな…」
「Heroまで……」
七人はそんな会話を交わしながら、
会場へ向かっていった。
もちろん――
今日はCKRとして来ているわけではない。
あくまで、
コスプレイベントを楽しみに来た
七人のコスプレイヤー
その裏での、目的は一つ
裂夜を探すこと
そして――
彼の周囲にいる人間を調べること
Heroが全員を見る。
「作戦を確認する。」
七人が自然に集まった。
「Jokerはカメラマン側」
「了解♪」
「Dollはレイヤーの交流スペース」
「分かった」
「Mirageは人気レイヤーが集まるエリア」
「任せて」
「Knightはスタッフ側と搬入口」
「了解」
「Maskは全体の情報収集」
「問題ありません。」
そして最後に――
HeroはYONAGIを見る。
「YONAGIは俺と行動する。」
「はい。」
Heroは全員を見渡した。
「裂夜を見つけても、すぐには接触しないでくれ…
まず周囲を確認する。」
全員が頷いた。
Jokerが笑う。
「今日は『裂夜を捕まえる』んじゃなくて――」
Heroが続ける。
「『裂夜を知る』」
七人は、それぞれ別方向へ歩き始めた。
――その数分後
Maskから通信が入る。
『Hero』
「どうした?」
『裂夜を確認しました。』
Heroの足が止まる。
「場所は?」
『東側の展示エリアです。』
YONAGIも反応する。
「もう来ているんですか?」
『はい。』
Maskが続ける。
『写真を送ります。』
Heroの端末に画像が届いた。
そこには――
黒い衣装を身につけた青年がいた。
長い銀色のウィッグで鋭い目つきをしている。
イベント参加者たちに囲まれながら、
笑顔で撮影に応じている。
その名は――裂夜
YONAGIが写真を見る。
「……この人ですね?」
「間違いない。」
Heroが答える。
「まずは距離を保つ。」
その時――
『Hero』
Jokerから通信が入った。
「裂夜の周囲に、よく一緒にいるカメラマンがいる。」
「名前は?」
『ちょっと待って…』
少し間が空く。
『……分かった』
Jokerの声が少し低くなる。
『撮影屋・零』
「撮影屋・零?」
『うん。コスプレイベントでは、
その名前で活動しているカメラマンみたい。』
Jokerが小さく笑う。
『名前からして、
いかにもカメラマンって感じだね♪』
Maskがすぐに検索を始める。
『情報が出ました。』
Heroが尋ねる。
「何かある?」
『裂夜と過去一年間、かなり頻繁に撮影しています。
ただ――』
Maskの声が止まる。
「何だ?」
『女性レイヤーとの撮影記録が妙に多いです。』
YONAGIが眉をひそめる。
「女性?」
『はい。』
『裂夜と一緒に撮影した女性レイヤーの何人かが、
その後イベントから姿を消しています。』
Heroの表情が変わった。
「理由は?」
『まだ分かりません。』
「分かった。」
HeroはYONAGIを見る。
「まずは撮影屋・零を調べる。」
「はい。」
二人が展示エリアへ向かうと
人混みの向こうに――
裂夜の姿が見えた。
多くの人に囲まれながら笑顔を浮かべている。
その姿だけを見れば、
ただの人気レイヤーだった。
しかし――Heroは気づいた。
裂夜は撮影が終わるたびに、
周囲を確認している。
まるで――誰かを探しているように
「……YONAGI」
「はい?」
「あいつ、何かを警戒してる。」
YONAGIも裂夜を見る。
「確かに……」
その時
裂夜が突然こちらを見たと思ったら
一瞬目が合った。
ほんの一瞬だったが
裂夜は笑っていた。
そして――
何事もなかったように
別のカメラマンへ視線を移した。
YONAGIが小声で言う。
「今……見られましたよね?」
「ああ…」
Heroは周囲を見る。
「偶然とは思えない。」
その瞬間――
イヤホンにMaskの声が入った。
『Hero』
「どうした?」
『今、裂夜の端末から何かの通信が発生しました。』
「通信先は?」
『……確認中です。』
数秒後
Maskの声が変わった。
『分かりました。』
『送信先は――』
一拍
『黒曜会です。』
Heroの目が鋭くなる。
「……黒曜会?」
YONAGIも息を呑む。
「まさか……」
Heroは裂夜を見る。
人気レイヤー
女性との金銭トラブル
そして――黒曜会との接点
偶然とは思えなかった。
その時、裂夜が動き出した。
人混みを抜け、
スタッフ用通路の方向へ歩いていく。
Heroが一歩踏み出す。
「追うぞ…」
YONAGIが頷く。
「はい。」
二人は距離を保ちながら、
裂夜の後を追った。
だが――
角を曲がった瞬間
裂夜の姿が消えていた。
「……いない?」
YONAGIが周囲を見ると
Heroも周辺を確認する。
「どこへ行った?」
その時――背後から声がした。
「裂夜を探してるの?」
二人が振り返ると
そこにいたのは――
一人の女性レイヤーだった。
Heroは警戒する。
「誰だ?」
女性は笑う。
「そんなに警戒しなくても大丈夫」
そしてYONAGIを見る。
「貴方も裂夜を探してるんでしょう?」
女性は頷く。
「そうよ」
YONAGIが尋ねる。
「あなたは裂夜さんと知り合いなんですか?」
女性は少しだけ考えた。
「……知り合いって言えばそう、かな?
でも――」
女性の表情から笑みが消える。
「私は、あの人を信用してない」
Heroが目を細める。
「理由は?」
女性は周囲を確認してから
そして小さな声で言った。
「裂夜は――」
一拍
「女性レイヤーを狙ってるから…」
YONAGIの表情が変わった。
「どういう意味ですか?」
女性は答える。
「それは……」
その瞬間
会場のスピーカーからイベントの案内放送が流れた。
人の声に紛れて――
女性の声が聞こえなくなる。
「……あとで話す。」
女性はそう言うと、
人混みの中へ消えていった。
YONAGIが追おうとする。
「待って!」
だが、すでに姿は見えなかった。
Heroが周囲を見る。
「……Mask。」
『聞いてます。』
「今の女性、追えるか?」
『映像を確認しています。』
数秒後
『……無理ですね…
人が多すぎます。』
Heroは黙った。
その時――
スマートフォンが震えた。
Heroの端末に、
一枚の画像が送られてきた。
送信者は――裂夜
画像には、今日の会場が写っている。
そして、その中央には――
CKRの七人
全員が別々に行動している姿だった。
Heroの表情が変わる。
「……いつ撮った?」
YONAGIが画像を見る。
「私たちを……ずっと見ていた?」
画像の下には、一言だけ。
『次は、君たちの番だ』
Heroは画面を見つめた。
そして――
イヤホンから、Maskの声が響いた。
『Hero』
「どうした?」
『今、裂夜の現在位置が分かりました。』
「どこだ?」
Maskは答える。
『会場の外です。
ですが――』
一拍
『裂夜の隣に、黒曜会の人間がいます。』
Heroの目が鋭くなる。
「……全員、集合だ。
作戦を変更するぞ!
裂夜を追う。」
東京ビッグサイトの華やかなイベント
その裏側で――
新たな事件が動き始めていた。




